11月27日(水)、コンペティション部門の『水の影』が、有楽町ホールにて上映された。
『水の影』は、インドのサナル・クマール・シャシダランによる監督第4作にあたる。女子学生ジャナキ、ボーイフレンド、ボスと呼ばれる男の3人の小さな旅の途中、彼女の身に突如降りかかる恐怖を克明に描いた。インドにあふれる女性への暴力を主題とし、全編に緊張の糸が張り詰めている作品だ。
上映後、シャシダラン監督がQ&Aに登壇した。
まずは本映画祭のディレクター・市山尚三が、本作の元になった実際に起こった事件についてたずねた。1996年のインドで、16歳の少女がボーイフレンドと外出した末に、40人の男性にレイプをされた。シャシダラン監督は、その事件を長いあいだ気にかけ、本作の製作に至ったという。
観客から「犬がカメラを見る瞬間や、立ち込めていた霧が急に晴れてさし込むヘッドライトの光。絶妙なタイミングはどう演出しているのか?」という質問が。「結局、幸運に恵まれるかどうかですね」と、てらいなく答えるシャシダラン監督。
続けて、「映画を作っているというよりは、起こる出来事をそのまま捉えています。映画を作っているのは私ではなく、自分は単なる道具にすぎない。そう思わせられるようなことを、たくさんはらんでいるのが映画づくりですね」と付け加えた。
次に、本作の後半におけるジャナキの行動についての質問が挙がった。「ジャナキはレイプされたにもかかわらず、ボーイフレンドの手は振り払い、逃げずにボスについて行くのはなぜか?」
シャシダラン監督は、本作の冒頭、祖母から孫娘への語りを思い起こしてほしいという。「男性が女性の宝物を奪い取る」という、本作を要約したような内容だった。
「多くの文化では、“女性は男性のために存在する”という見方があります。同時に、薄れつつある思想ではありますが、いまだ処女性が重要視されます。ジャナキも処女を失うと終わりだと思わされていて、それを奪った男性にとらわれてしまうんです」と、ジャナキの行動について説明する。
また、インドでは一度性犯罪の被害者になると、もう選択肢がないとも。「ゴミとして扱われる。だから、ジャナキが自分の育った村に帰って何事もなかったように生活するというのはありえません」と、悲しい現実を口にした。
ジャナキはまだ14〜15歳という設定だそう。「まだ自分の頭の中でレイプされたことを処理できず、解決策を見つけられない。もともとジャナキにとって結婚とは、親が勝手に相手を決めて、本人の意思を尊重せずに決めるもの。だから、彼女はボスに従って結婚することしか浮かばないわけですね」。
最後に、インドには、レイプ被害者と結婚すれば加害者は罪に問われないという奇妙な法律があるという。シャシダラン監督は、「もしこれが殺人や他の犯罪だったら? そんな人と一生の伴侶になれるでしょうか」と客席へ投げかける。しかし、レイプ犯だと問題ないとみなされ、家庭を築く。「そうした理由で、結婚後のレイプなどのドメスティックバイオレンスが続いてしまうんです」と負の連鎖を嘆いた。
シャシダラン監督は、終始にこやかかつ真摯に、センシティブだが議論すべき問題について観客と対話を試みていた。
「水の影」は11月28日(
(文・樺沢優希、写真・穴田香織、白畑留美)