11月20日(火)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『轢き殺された羊』が上映された。チベットの荒地で、トラック運転手のジンパは同じ名を持つ男を車に乗せる。彼はこれから父の仇を討ちにいくのだという。カラーとモノクロ映像を挟み、二人の出会いを現実と幻想を入り交えながら描いた。上映後のQ&Aにはペマツェテン監督と、録音技師のドゥカル・ツェランさんが登壇した。
ペマツェテン監督は、東京フィルメックスのコンペティションへの参加は3回目となる。過去に『オールド・ドック』(11)では最優秀作品賞を、『タルロ』(15)では最優秀作品賞及び学生審査員賞を受賞している。ペマツェテン監督は、「フィルメックスにまた新作を持ってこられて嬉しいです」とコメント。ドゥカルさんは、「フィルメックスへの参加は初めて。皆さんと一緒に映画を観られて嬉しいです」と挨拶した。
本作は二つの短編小説が原作となっている。一つはツェリンノルブさんの『人殺し』、もう一つはペマツェテン監督の『轢き殺された羊』だ。数年前に『人殺し』を読んだ監督はぜひ映画化したいと考えたが、5000~6000字程度と短い小説だったため、それが難しかった。そこで、自身の短編小説と組み合わせることを思いつく。『人殺し』は父の仇を討とうとする男、『轢き殺された羊』は轢き殺した羊の魂を来世に送ろうとする男の物語であり、その二つを軸に話を構成した。
脚本が完成したのは4年前。その頃、ウォン・カーウァイ監督の製作会社ジェット・トーン・フィルムズがチベットを題材にした作品を撮りたいと考えていたため、ペマツェテン監督に声が掛かった。一度ロケハンに行ったが、その時は作品として成立しなかった。脚本を練り直し、申請が通った結果、ウォン監督がエグゼクティブ・プロデューサーとして制作に参加することになったという。
映画の冒頭には、チベットの箴言が登場する。「夢を話しても忘れられる。夢を実行したら覚えられる。関係ができると、私の夢はあなたの夢になる」。これは、チベット族の間では共有されている概念だが、チベット族以外の人にはこの映画で語ろうとすることは分かりづらいかもしれない。そう考えたペマツェテン監督は、物語をリードし、映画の雰囲気をつくる要素として、この箴言を冒頭に置いたのだという。
「この作品を観た人は、トラック運転手のジンパの夢の中に、復讐をしようとしているジンパが出てくると考える人もいるかもしれません。夢か現実か、映画の中でははっきりと語っていません」とペマツェテン監督は言い、解釈は観客に委ねたいと語った。狙いは映画自体がまるで夢であるかのようなイメージで撮ること。「二人のジンパは表裏一体で、一人の人間の両面を表しているともいえる。物語を強化すると共に、荒唐無稽な雰囲気も出したかったため、主人公の名前を同じジンパにしました」とペマツェテン監督は明かした。ジンパには、チベット語で「他者のために施しをする」という意味がある。「互いに名前を尋ねるシーンでは、二人が対になるように撮影しました。鏡に映った一人の 人物の両面であるように表現したいと思ったからです」
エンドロールで流れる主題歌も印象的だ。これはチベットの「西蔵病人」というバンドの楽曲で、「悔いの中で人生を送る」という歌詞のテーマが映画に登場する人物の心情とも合うことから選んだ。歌手は、主役のトラック運転手を演じた俳優ジンパさんの実弟だという。
ペマツェテン監督がプロデューサーを務めた、ソンタルジャ監督の『草の河』(15)でも、音響・音楽を担当しているドゥカルさん。現在、監督として準備中の一作があり、年末から撮影に入る。音楽の要素を盛り込んだロードムービーで、遊牧民を描く。ジャ・シャンクー監督がエグゼクティブ・プロデューサーを、ペマツェテン監督がプロデューサーを務める予定だ。ドゥカルさんは、「新作を持って、またフィルメックスに来たい」と決意を語った。作品の上映を楽しみに待ちたい。
文責:宇野由希子 撮影:明田川志保
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【レポート】『轢き殺された羊』Q&A
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