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【レポート】『シベル』Q&A


11月21日(水)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品の『シベル』が上映された。本作は、トルコの山岳地帯にある村を舞台に、言葉を喋れない少女シベルの逞しい生き様を通じて、様々な問題を浮き彫りにしたドラマ。上映後には共同で監督を務めたチャーラ・ゼンジルジさんとギヨーム・ジョヴァネッティさん、そして主人公シベルを演じたダムラ・ソンメズさんがQ&Aに登壇。客席からの質問に答える形で、作品の舞台裏を語ってくれた。

 これが三作目となるチャーラ・ゼンジルジ監督とギヨーム・ジョヴァネッティ監督のコンビは、前作「人間」を全編日本で撮影している。そこでまず、ジョヴァネッティ監督が「5年前、日本で映画を作りました。今日は東京に戻ってこられて幸せです」と日本語で挨拶した。

Q&Aでは、まずジョヴァネッティ監督が物語の舞台となった地域について説明。豊かな自然と森の風景が印象的なこの村が存在するのは、トルコ北東部の黒海に面した山岳地帯。トルコの他の地域と比較して森林が多いのが特徴で、その反面、生活するには厳しい環境でもある。「そういう地形的な事情により、人々は昔から口笛で会話する文化を育んできました」。その口笛を使った独特の会話法は、本作で重要な位置を占める。口のきけないシベルは、全ての会話を口笛で行なうからだ。

シベル役のダムラ・ソンメズさんは、劇中でその口笛を見事に使いこなし、力強い演技と併せて見る者に鮮烈な印象を残す。だが、彼女にとっては「全てが初めての経験」。当初は「何から手を付ければいいのかわからなかった」のだという。そこでまず、長い時間を掛けて監督たちと一緒に口笛で会話する文化について学び、自分のリズムで喋れるように、言葉を口笛に「翻訳」する作業を実施。さらに、ひとつひとつの動作と口笛のタイミングがシンクロするまできめ細かい練習を積み、シベルという主人公が出来上がった。

ゼンジルジ監督は、そんなソンメズさんについて「信じられないほどの努力を積んだ」と絶賛。これに応えてソンメズさんが劇中と同じように口笛を吹くと、客席から大きな拍手が送られた。
さらにゼンジルジ監督は、日本人に馴染みの薄いトルコの村を舞台にしたこの物語で描かれた社会的な問題について説明。
「映画を製作する時は、地域性を意識しながらも、普遍的に描くことを心がけています。この作品で扱った問題は、トルコに限らず、全世界で起こり得る事」と前置きした上で、2つの問題を挙げた。

まずひとつ目が「女性に対する社会の不平等」。近年は世界的な問題でもあるだけに、「もしかしたら、日本も似たような状況にあるのでは」と指摘した。
さらに、2つ目の問題として「父権社会、家父長制が女性に与える影響」を挙げると同時に、「父権社会、家父長制が男性に与える影響も意識した」と補足。そして、「どれほど(女性を公平に扱う)進歩的な家庭で育った男性でも、社会に出て何らかの問題に直面した時は、元に(旧態然とした家父長制、父権社会的な態度に)戻ってしまう可能性がある」と問題を提起した。
この他、ヨーロッパでインディーズ映画を作る難しさや合作映画におけるプロデューサーの重要性など、日本では知りえない欧州の映画製作を巡る事情についても説明。数々の質問に、予定時間をオーバーしながらも丁寧に応じてくれた。
『シベル』は11月23日(金・祝)21:15より、TOHOシネマズ日比谷12にて2度目の上映がある。上映後の舞台挨拶では、この3名に加え出演のエルカン・コルチャックさんも登壇予定だ。
取材・文:井上健一 撮影:明田川志保
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