授賞式
TOKYO FILMeX ( 2013年11月30日 19:00)
11月23日(土)から9日間にわたって開催された第14回東京フィルメックス。会期を1日残した11月30日(土)、有楽町朝日ホールにて表彰式が行われ、最優秀作品賞の『花咲くころ』以下、各賞が発表された。舞台となる国もテーマも異なるバラエティ豊かな各受賞作の顔ぶれからは映画の多様性が垣間見え、国際映画祭の名に相応しいクロージングとなった。
表彰に先立ち、人材育成プロジェクト「タレント・キャンパス・トーキョー2013」の報告が行われた。アジアから15名の映画の未来を担う人材が参加し、ガリン・ヌグロホ監督など4名のメイン講師によるワークショップ、モフセン・マフマルバフ監督らによるマスタークラスなどを会期中6日に渡って開催。参加者の企画の中から、タレント・キャンパス・トーキョーアワードに選出された「Kodokushi-Escape to Summer」のジャヌス・ヴィクトリアさんは、「私たちインディペンデントの映画作家にとっては、長編製作は夢のようなことです。このキャンパスで、実現に近づく一歩を手にしたような気がします」とスピーチ。さらに、スペシャル・メンションとしてヴィンセント・ハイ・ドゥさんの「China's Music Dream」も挙げられた。
各賞の発表は観客賞からスタート。市山Pディレクターが『ILO ILO(英題)』と読み上げると、アンソニー・チェン監督が登壇。「東京フィルメックスは、私にとって大変重要な映画祭です。3年前、タレント・キャンパス・トーキョーの前身であるネクストマスターズに参加して、この企画を提案したからです。ここに参加しなければ、この映画は完成しませんでした。」とフィルメックスとの縁を語った後、「この映画は各地で様々な賞を頂きましたが、観客賞は初めてです。観客の皆様から"いい映画だ"というお墨付きを頂いたことを大変嬉しく思います」と喜びを表した。
続いて3名の学生審査員、中村祐太郎さん、川和田恵真さん、須山拓真さんが、学生審査員賞として『トランジット』を表彰。プロデューサーのポール・ソリアーノさんが、すでに帰国したハンナ・エスピア監督からの「才能豊かな若い人たちからこうした賞をいただくのは光栄なことであると同時に、謙虚な気持ちにさせられます」というメッセージを代読した。
各部門の表彰を前に、審査員イザベル・グラシャンさんがスペシャル・メンションとして『カラオケ・ガール』、『トーキョービッチ,アイラブユー』の2作品を発表。『カラオケ・ガール』のウィッサラー・ウィチットワータカーン監督は帰国して不在だったものの、『トーキョービッチ,アイラブユー』の吉田光希監督が登壇。「大好きな映画祭でスペシャル・メンションという一つの評価を頂けたことは、大変励みになっています。これから先も、自分の映画を探し続けてまた皆さんの前に戻ってきたいと思っています」と、胸を詰まらせるように語った。
そして、審査員特別賞の発表は国際審査員の松田広子さんとイザベル・グラシャンさんから。受賞作『ハーモニー・レッスン』のエミール・バイガジン監督は欠席だったが、代理で賞を受け取ったカザフスタン共和国大使館のディシコフ参事官は、「カザフスタンの映画が審査員特別賞を頂いたという事で、大変嬉しく思います。これを機に、日本の皆様がカザフスタンに興味を持っていただけると大変嬉しいです」と、気持ちの籠った日本語でスピーチを披露した。
表彰式のクライマックスは最優秀作品賞の『花咲くころ』。国際審査員の渡辺真起子さんとモフセン・マフマルバフ審査委員長による表彰の後、来日できなかったナナ・エクチミシヴィリ監督とジーモン・グロス監督からのメッセージを林ディレクターが代読。「今日の始まりはひどいものでした。外は雨ふりで、11月の寒さの厳しい一日の始まりでした。しかし、ジーモンがEメールをチェックして、東京フィルメックスでの最優秀作品賞受賞の報せを読んだとき、私たちの1日は一瞬にして変わりました。世界の全く別の場所にいる人々の心に、私たちの作品が届いたという事は素晴らしく、最高の気分です」書面から滲み出す受賞の喜びに、大きな拍手が送られた。
すべての表彰が終わると、モフセン・マフマルバフ審査委員長が登壇。「現在、アジアの映画は2つの検閲の圧力により、軋みを上げています。ひとつは、中国やイランのような国における思想的な検閲です。もうひとつは、世界中あらゆるところにある経済的な検閲です。芸術的な映画が存在できる場所は、日毎に小さくなっています。親愛なる映画製作者の皆様、配給会社の皆様。あなた方はいつも"経済危機だ"と言いますが、その経済危機のルーツは、倫理的、文化的な危機にあると思いませんか。観客の皆様。皆様の支援がこのような映画を生きながらえさせているのだという事を忘れないでください。親愛なる映画作家の皆様。私よりもずっとよくご存じですよね。映画製作はビジネスでも仕事でもありません。映画というのは創造の愛であり、この社会への責任なのです」映画を愛するすべての人々に対する想いが込められたメッセージに、会場は暖かな拍手で包まれた。
最後に、林ディレクターからの「映画祭に出来ることを、精一杯続けてまいります。来年、第15回の東京フィルメックスに、どうぞご期待下さい。」という挨拶で、授賞式は締めくくられた。
(取材・文:井上健一、撮影:穴田香織、白畑留美、関戸あゆみ、永島聡子、中堀正夫)
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