『わたしの名前は...』アニエス・トゥルブレ(アニエスベー)監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2013年11月30日 14:00)
11月30日、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『わたしの名前は...』が上映され、上映後のQ&Aにアニエス・トゥルブレ監督が登壇した。暖かい拍手で迎えられたアニエス監督は「わたしの名前はアニエス・トゥルブレと申します。ファッション以外で表現するときは、皆さんになじみのあるアニエスベーではなく、本名を使っています」と挨拶した。本作は、孤独な60歳のトラック運転手と父からの虐待で居場所をなくした11歳の少女が旅をする、悲劇的なロードムービー。ヴェネチア国際映画祭、ニューヨーク映画祭、アブダビ映画祭に出品されている。
まず、聞き手の東京フィルメックスの金谷重朗が、この物語の生まれた経緯について訊くと、アニエス監督は「10年前にル・モンド紙でとある三面記事の結末を読んだことがきっかけ」「そこから私の物語を描きたいという思いが衝動的に生まれた」と応じた。二日間で物語を一気に書き上げた監督は、次々にヴィジュアルが頭に浮かんでくる状況を「マジカルな体験だった」と振り返った。「まるで私はこの物語を語る必然性を感じていたかのようでした。もちろん、これは私自身の物語ではありません。でも、この映画で自分が何について語っているかは理解しています」。
アニエス監督が「一目見て、この子だと思った」と語る映画初出演で主演のルー=レリア・デュメールリアックさんは600人のオーディションから選ばれた。特にルー=レリアさんの目力、演出の意図を汲み取って即座に反応する演技力を絶賛する監督。運転手を好演したダグラス・ゴードンさんはコンテンポラリーアーティストであり、アニエス監督の親しい友人でもある。また、イタリアの哲学者アントニオ・ネグリが旅人役として出演、アメリカ実験映画のゴッドファーザー、ジョナス・メカスが焚き火のシーンを撮影するなど、アニエス監督の幅広い交友関係により実現した豪華なアンサンブルも本作の見所だ。
次に劇中、日本の舞踏家が登場した点について訊かれると「モロッコの南部へ旅をしていた頃、砂浜のテントで日本の舞踏家が顔を白く塗ってダンスしているのを見た」と応じた。また、ヴェネチア・ビエンナーレで、舞踏を観て衝撃を受けたそうで「戦後に発展した非常にパーソナルな踊りですが、身体を通して本当にひとりの人物になりきるところが素晴らしい」と語った。
本作では、ジャンプカットやストップモーション、スタイルの違う映像をコラージュした編集が特徴となっている。もともと写真に興味があったというアニエス監督は、短編映画を数作手がけており、「特に構図やアングルを決めるのが好き」なのだそう。撮影中も二台目のカメラで常に画角を気にしていたという。また「人工光は極力使用せず、部屋の内外で自然光を使ってコントラストを際立たせた」と光に対する強いこだわりも覗かせた。
「本作のテーマは家族だと思った」と語る観客から、ラストにおける主役二人の心情について訊かれたアニエス監督は「孤独な二人は似た者同士」と語り、 登場人物たちの生き方や映画の悲劇性についてコメントした。
劇中で印象的だったトラックの色と同様、素敵な赤のドレスでいらしたアニエス監督。バッグは親しい友人のハーモニー・コリン監督からもらったクリスマスプレゼントなのだそう(アニエス監督の設立した製作会社ラブ・ストリームス・プロダクションのもと『ミスター・ロンリー』(07)、『スプリング・ブレイカーズ』(12)を監督している)。アニエス監督は、最後に再度感謝の言葉を伝え「劇中の舞踏シーンは日本の皆さまに対するオマージュです。これからも日本を愛し、賛美していきます。ありがとう、メルシー」と締めくくった。
(取材・文:高橋直也、撮影:白畑留美)
|