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『東京上空いらっしゃいませ』トーク(ゲスト:笑福亭鶴瓶さん)
from デイリーニュース2011 2011/11/25
東銀座・東劇にて開催された「相米慎二のすべて〜1980-200全作品上映〜」。最終日の11月25日、『東京上空いらっしゃいませ』(90)の上映が行われ、終了後、笑福亭鶴瓶さんを迎え、トークイベントが開催された。このイベントで初めて相米作品に出演し、その後、遺作『風花』まですべての作品に出演した鶴瓶さん。聞き手を置かず、独演会さながらに、相米監督への限りない思慕をにじませながら生前のエピソードを語ってくれた。
「どうも、鶴瓶です。
相米さんと、この映画で出会いました。未だになんで僕が選ばれたのか分からないんですけど...終わった後、お前アカデミー賞獲るで、って言われました。こんなんで獲れるんならちょろいもんやと思いましたけど。ただ、ここに出てる中井貴一と牧瀬里穂とはいまでも付きおうてますし、相米さんともずっと付き合いがありました。皆さん相米信者の方はおわかりになると思いますが、『お引越し』(95)や『あ、春』(98)...ずうっとですよ...タダで。『あ、春』なんて酷いですよ。ド頭に出るんや言われて、台本もなんも渡さんと、現場着いたら坊さんの役で。そいで、俺はウソ言うたらええと思ってたんですよ。ムニャムニャ...と。そしたら、台本渡されてこれ覚えろ、と。お経、生まれて初めてで。俺にお経を指導してくれる坊さんが来てくれてるんですけど、下手やねん。声、高いねん。せやから「もうよろしいわ」言うて。お経だいぶ覚えたんですけど、落語に生きてますよ。まったく何とも言わずにそれ渡されて...(監督は)何とも思ってないんですよね。
『東京上空〜』でも、8時間も牧瀬里穂の乳揉ますんですよ。初めて会うのに...(笑)揉んでませんよ。揉んでるふりするだけ。可哀想やから。そしたら「ダメだお前、それ」って言うんですよ。あと(牧瀬さんを)担ぐシーンも、その日はダメで。意味がわからん、なんでダメか。担いで向こうまで走るんですが、「いいや、やめよう今日は」って。たぶん、終わるのがさみしかったんやろね、アイツ。それから、CGとかない時代じゃないですか。(空を飛ぶシーンで)パーンと跳ぶねん。アレ夜中ですよ。ホン書いてる作家の人にも、「おい、引っ張れ」言うて。土方みたいにみんな俺をロープでつり上げて。素人ばっかりで、俺委ねるしかないんですけど、ひとつ間違えたら落ちてコケますよ。素人ばっかりで引っ張ってて、着地も「もっとすーっと降りろ!」って。喧嘩しましたよ。引っ張って下ろす方が大事ちゃうんかい、と。ドン、っと着地したら「ダメだ!」って。ずーーっと吊られてました、夜中じゅう。ほんま死ぬんちゃうかなって思いましたよ。
で、そっからですよ。なんか...家遊びに来て。三日くらいいましたよ、相米。相米、安田(プロデューサーの安田匡裕さん、2009年3月死去)、俺、中井貴一の四人で「アホの会」ってのを作ってて、いっつも集まってたんですけど、金出すのは俺か中井貴一、やっさん(安田さん)も出してたか。相米はぜっったい出さないんです。何にも出さずに生きてきたんですよ、それも、偉そうにですよ。「おい、今日はなんかないのか」って。「鍼のいいとこないか」って言って、俺のツケで鍼打ってきてるんですよ。ようあんなんで生きていけたなあ思うわ。刺されへんかなあ思うんですけど、なんか愛されるんですよ。信じられませんよ。
ほいでねえ、うちの家泊まって、そいでゴルフ行こうって。ゴルフやり出した頃やったから、新しいゴルフバッグあいつに渡したんです。これ使いや、って。そしたら、取り出して「お、これいいな」なんて言って。(コース回ってる時は)1ホールごとにダラーっと寝そべってんのね。何してんのや言ったら、ゴルフの柄で、痔入れてるんですよ。俺のですよ。新品のですよ!そんなんもういらんやん。そういう作戦で取りよんねん。きったない奴やで。で、ゴルフ場行く時に、「お前、落語できんのか?」って。そんなこと言われたら喧嘩になるやろ?普通。...ならないのよ。あれ、なんかあんな術あるのやろか。コラーお前、なんや!ってなるやろ。(落語できるか、って訊かれて)「出来るで」って言うたんですけど、出来てないんですわ。でも意地やん、こっちの。で、やったんです。そしたら、「お前できるじゃん」て。あれでちょっと自信つきましたよ(笑)。相米慎二がオーケー出してくれたんや。ほんとに落語家としてやりだしたんはここ10年くらいのことで、やっさんは見てるけど、相米にも見せたいなあと思いましたね...
坊さんとか葬儀屋とか、いろんな役やってきましたわ。封切られた時は人入ってなかったのに、なんでこんなに入ってるんやろ、死んでから(笑)。若手の監督とか、よう「相米さんてどんな人?」って訊きにくるんですよ。せやから、あ、すごい影響あったんやな、て。
で、最後の『風花』ね。取り立て屋の役って言うから、やるわ、って。ずうっと、お金ももろうてないんですよ、出なあかんようになってしまってるんですよ。スケジュールも空けて、金ももらわんのに。なんで?...いてるよね、そういう人。ボロカスに言われても、好きやな、って思う人、いてるよね。それがアイツなんですよ。好きや、とは言うたことないですよ。屈辱的なこと言われてもね...中華屋でみなぎょうさんで飯食べよるとき俺が「もっとジュウナンに物考えや」って言うたんですよ。そしたら、相米が立って、「こいついまジュウナンに、ていうたけど、ジュウナンの漢字が書けるかどうか、ハイ、100円」そんなひといます?結局その場は緊張して書けなかったんですけど(笑)そんな人いますか?屈辱的ですよ。で、書けなかったから金取られてん。
で、取り立て屋の役。台本もなんもないんですよ。で、後から、「あの役な、大阪弁で取り立てたら怖いから、役変える」「え?」とにかくスタジオ来い、言うから、日活やったかな、あのスタジオ。行ったら、カエル。「え?何の役?」「カエル」。
ラストな、鳥獣戯画みたいなん出てくるんや、「小泉今日子」とかってクレジットをカエルが引っ張ってくる、そのカエルや。んで、やったんや(笑)「やってみろ」「ゲロゲロ...」「もっと明るく」「ケロッケロケロ!」「いやもっとカエルらしく!」ものすごい怒られんねんで、カエルの声で。信じられます?
数々の屈辱的な目におうても、嫌じゃない、と。ほんで、死んで、もう10年や。もう関わりもしたくないのに、こうして来て。今回のトークイベントも、タダやで、ギャラ。なんで?「相米=タダ」みたいになってんねん。納得いかんわあ。訳の分からん映画ばっかり撮りやがって。
生きてたらまた違うことになってたでしょうね、俺も貴一さんも、ようそんな話してるんですけど。今日はほんまに相米のために...喜ぶと思うよ、こんなぎょうさん集まってくれたら。相米の息掛かった人たちと、会うたびいつも相米の話してて。男が男に好かれるって、羨ましいですよね。不思議なもんですわ。
後に、そのやっさんて人と、西川美和さんが喋ってるときに...まあ相米一派ですよね、是枝裕和さんもそう。その時に、『ディア・ドクター』(09)の主役誰にしよーってなってたんですよ。やっさんと是枝さんが、鶴瓶さんでどう?って。そいで、あれ7冠もらったんですよ、7冠!かつてありますか、ちょっと自慢したいわ。だから、なんかそういう人間の繋がり言うのは...『東京上空〜』から相米と繋がり、やっさんと繋がり、西川美和と繋がり...そして『ディア・ドクター』に繋がって...良い経験させてもらいましたわ。やっさんもそういうの見ないで死んでいきましたし、相米も...そういう良い映画に出てるってことを...どっかで見てくれてると思いますわ。今日はほんとにありがとうございました、相米のために」
(取材・文:花房佳代、撮影:米村智絵)
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