11月23日、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『わたしの坊や』が上映された。上映後のQ&Aには、ジャンナ・イサバエヴァ監督が登壇し、熱心な観客たちから質問が相次いだ。司会の林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターが「少年の怒り、足掻き、そして監督の情熱が強く伝わる素晴らしい作品」と述べると、初来日となるイサバエヴァ監督は「日本で上映できたことに感謝しています。これは私にとっても素晴らしいチャンス。本当にありがとうございます」と挨拶した。
最初に原題”Bopem”の意味について林ディレクターから訊かれると、イサバエヴァ監督は「カザフスタンで親しまれている子守歌にある文句。子どもに呼びかけ、あやす意味の言葉で、この作品のテーマと結びついています」と語った。
まず会場からは、銅像や建造物など旧ソビエト時代の名残が多く見られたことについて質問が集中した。イサバエヴァ監督は「ソビエト連邦は20年前に崩壊し、カザフスタンも独立しているが、当時の遺物は数多く残っている。用いたことに政治的な意味はないが、実際にずっと廃墟の状態でそこに存在しているものです」と説明。
本作の舞台は、カザフスタンとウズベキスタンにまたがる内陸湖アラル海。環境破壊によって水が干上がり、深刻な問題となっている。以前は漁業が盛んだったが、水量の減少で漁業ができなくなり、廃船となった400隻が現在も放置されている。
廃船で少年が佇む印象的なシーンについての質問に対しては「船は打ち捨てられたものの象徴」と監督。主人公の少年ラヤンは自分が捨てられた者であるという感情を抱いて、復讐へと向かう。「舞台となった町は、荒廃し住みにくい土地となってしまったのに、誰も助けに来ない。町そのものも見捨てられているのです」と説明した。
アラル海の環境破壊とそれに伴う住民の生活被害は国際的にも注目を集める問題だが、「実話を元にしているのでしょうか?」との林ディレクターの質問には、「脚本は完全なオリジナル」と監督。「このような大きな問題を背景として、子どもの悲劇に焦点を当てて描いています」
続いて、撮影の構図の素晴らしさを絶賛した観客から「どのように作り上げたのか」と質問が寄せられた。「低予算で制作しているので失敗が許されません。現場に入ったらすぐイメージ通りに撮影できるよう、2か月位かけてコンテを作りました。ここは本当に力を注いだ部分なので、感激していただけたのは嬉しい」と監督。ある著名な映画監督の言葉を引用しつつ「映画は映像で勝負するもの。毎シーンひとつひとつがポスターになるものを目指した。今回のポスターもフォトジェニックなもの。これらの集大成の中に、この映画があると考えています」と語った。
最後に「荒廃した土地の乾いた色彩と、亡くなった母との思い出のシーンで現れる痛々しいほどに鮮烈な花の色が対照的で印象に残った」という声が寄せられると、「本当に素晴らしい感想をありがとう」とイサバエヴァ監督。「母親は生命の源や喜びといったイメージの中にあり、それに対して乾燥した土地は子どもにとって非常に厳しい世界であるというコントラストを意識的に色彩に表現しました。それを感じていただけて嬉しく思います」と締めくくった。
『わたしの坊や』は11月25日(水)21:15より、TOHOシネマズ日劇3にて二回目の上映が行われる。
(取材・文:阿部由美子、撮影:穴田香織、村田まゆ)