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『約束/昼も夜も』舞台挨拶、Q&A

1123shiota_0111月24日、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『約束』『昼も夜も』が上映された。『約束』はジョニー・ウォーカーの特別サイトの、『昼も夜も』はネスレ公式サイトのために作られた作品である。塩田明彦監督は両作品を制作するにあたり、極めてラフな脚本を元に少しずつ肉付けしていくという自主映画時代の方法を採用したという。上映前には塩田監督、『約束』に出演した松浦祐也さん、『昼も夜も』に出演した阿部純子(吉永淳)さん(吉永さんは現在改名し阿部純子さんとして活動)が舞台挨拶に登壇した。

『約束』に出演した松浦さんは「商業映画で初めて主演をした思い出深い作品です」と緊張気味に語った。『昼も夜も』でヒロイン汐里を演じた阿部さんは「私は1年間休業していたのですが、この作品が休業前の最後の作品です。私自身、汐里に特別な愛情を注いでいて、東京フィルメックスで、映画が大好きな、コアな皆さんに見ていただけることがすごくうれしいです」と感謝の言葉を述べた。

1123shiota_02司会の林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターから役作りや演技について聞かれた阿部さんは「私は感情をすぐに表現できるタイプではないんですが、汐里さんは自分の気持ちに正直だったので、自分も彼女の立場に立って、心に寄り添うようにしていました」と語った。また、「現場で忘れられないことはありましたか」と聞かれると、「撮影で何度も監督に注意されたのは汐里が怒るシーンなのですが、何テイクぐらいだったか…」言いよどむ阿部さんに塩田監督が「25回ぐらい」と応じ、阿部さんは「25回くらいあったことがとても印象に残っています」と照れながら答えた。ちなみにそれは汐里が怒鳴るシーンで、監督は「阿部さんの人の好さがにじみ出ていたので」全力で怒鳴るように、と指示したという。

松浦さんは『昼も夜も』にも出演している。「『約束』が縁で『昼も夜も』に出演しました。今後塩田組の常連となるべくベストアクトをかましたつもりだったんですけど、あまり呼ばれていないのでちょっと残念な感じです」と語り、会場の笑いを誘った。また、「作品で自分の『約束』の役名は良介。『昼も夜も』では瀬戸さんが良介という役をやっていて、同じ名前でもここまで違うのかと、いろいろ感慨深いものがあった」と語った。塩田監督は「2本ともweb用の作品でしたが、大きなスクリーンで観ていただけることをうれしく思います」と感謝の言葉を述べ、杉浦さんが言及した「良介」という名前について「僕の中では生き方の不器用なキャラクターに使いやすい名前。そういう人たちの、心温まる感じが伝わるといいかなと思う」と想いを語り、「皆さん、肩の力を抜いて楽しんでいただければと思います」と挨拶を締めくくった。

1123shiota_03上映後は塩田監督によるQ&Aが行われた。まず林ディレクターが『約束』について「別れたのに元奥さんに靴下を捨ててもらおうとする男が許せないなと思いました」とコメントし、会場を沸かせた。

林ディレクターからこの靴下のアイデアについて尋ねられると「あの話を作るとき、舞台を団地にしようと思い、団地を歩きながらシナリオを書いていました。駅前のショッピングセンターが発展したおかげで、団地の中のお店がなくなっているんです。だけど、一軒だけ小さなお店が残っていて、インスタントラーメンから下着、靴下といった日用品を並べていたんですね。この靴下を使いたいと思ったのが最初です」と語った。「貧乏で靴下に穴の開いているお父さんが、ゲームとして娘に靴下に買いに行かせる。娘が買ってきた新しい靴下を履いたのはいいものの、古い靴下をポケットに入れたままどうしたらいいかわからなくなったんです。ところがシナリオを書いているうちに、彼が突然(元)奥さんに差し出した。これはかつて結婚していた二人じゃないとやらないことだと思った。同時に、そんなことするから結婚に失敗したんだ、こういうことやるからお前は嫌われたんだというのが突然見えてきた」。

1123shiota_04『昼も夜も』で、時折文字が挿入されることについて林ディレクターが訊ねると、「映画で字幕を使うことは今回が初めてではなくて、『害虫』(02)でも使っていました。その時の経験をもとにいろんな形で使っていこうと思ったのがこの作品です」。そして、「『害虫』の時は、一組のカップルが手紙を交わしていて、その手紙をやり取りしている時間がどんどんずれていくという時間差を文字で表現しました。今回は、しっかりしたコンストラクションを持った長編作品とは違って、映画を詩に近づけるというか…字幕を一つのショットと考えて、一連の俳優たちが演じてる映像を組み合わせながら、だんだん全体のエモーションが立ち上がる、詩的な感じにしようとしました」と解説した。

冒頭、瀬戸康史さん演じる良介が自転車をこいでいるシーンで現れる“君のことを思い出す、こいでなくても思い出す”という文章について問われると、監督は「冒頭の“君”は事故に遭って病院にいる(彼女の)かえでさんのことで、彼女に語りかけています。基本的にはかえでさんに話していて、彼は彼女に対して、事故の原因は自分だから、自分はこの人に一生忠誠を誓わなければならないと思っているというイメージです」と語った。

ラストのヘリコプターの音について塩田監督は、「ヘリコプターって暴力的な音じゃないですか。終わり方がきれいすぎてはいけない気がして。小さな、ロマンティックな話なんですけど、一方で震災以降の雰囲気が漂っている映画だったので、今の日本を感じさせるような表現になるかなと思ったんです」と語った。

観客から、「2014年3月11日」という字幕をはじめ、震災を思い起こさせる表現が多く見られたことに対して質問が寄せられると、「この字幕は、東日本大震災からちょうど3年後ということを示しています。そして、おそらく汐里さんは3年前に高校生ぐらいで、彼女にとって大切な人をそこで失っているのだろうと。大切な人を失って、自分自身は生き残った人は、しばしば、ただそれだけの理由で、とてつもなく大きな罪の意識を背負って、自分の罰するような行動に走るらしい。どうもその感覚が汐里さんにはあるようだ…というのが、脚本を一度書き終わって、キャスティングも終わって、リハーサルを何度かやっている時に、浮かび上がってきた。最終的に罪の感覚を作品に込めました」と説明した。

車の中で新聞紙に包まれた赤ちゃんが出てきたというアイデアについては、「元々、中古車に関する映画を撮りたいと昔から思っていました。人から人に受け継がれていくもので興味深いと思っているものが4つあって、お金とピストルと古本と車なんです。今回は車を撮りました」と監督。このような良介の出生の設定は、瀬戸康史さんが生まれたのがちょうど昭和天皇崩御の年だったことから膨らませたという。「汐里が震災をきっかけに漂流してしまった人間であると設定したので、良介の場合も何かそれに対抗する歴史がほしかったのです。人と人が出会うということが、その人の生きてきた歴史と歴史が出会うという感じにしたかった」。

会場からの質問は尽きない様子であったが、ここで時間となりQ&Aは終了。ひとつひとつの質問に言葉を選びながら丁寧に答えた塩田監督に、大きな拍手が贈られた。

(取材・文:谷口秀平、撮影:穴田香織、白畑留美)

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