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『タルロ』ペマツェテン監督Q&A

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11月25日有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『タルロ』の上映後、ペマツェテン監督が登壇しQ&Aが行われた。東京フィルメックスへの来場は第12回東京フィルメックスで最優秀作品賞を獲得した『オールド・ドッグ』以来二度目となる。監督が「東京フィルメックスとはご縁があり、親しみを感じています」と挨拶すると、早速客席から質問の手が上がった。

「長回しの撮影にこだわりがあるのか」との質問に、監督は「撮影の方法は映画が何を語るかによって選択するもの」と応じ、「今回は長回しで追うことによって、周囲とほとんど関わりをもたない孤独な主人公タルロの生活を表現できると思いました」と説明した。

1125tharlo_02先日の東京国際映画祭で『河』が上映されたソンタルジャ監督(『オールド・ドッグ』で撮影を担当)について訊かれると、ペマツェテン監督は「彼とは、私の第一作から3作品で一緒に仕事をしました。その後彼は自ら監督して映画を作るようになったんです」と答え、今回撮影を担当したリュ・ソンイエさんについて「ロシアで映画を学んだ人で、彼が撮影した短編を見て素晴らしいと思ったのでいつか一緒にやりたいと思っていました。今回の脚本を彼も気に入ってくれたので、お願いすることになったのです」と紹介した。

タルロが理髪店で三つ編みを切るエピソードが「旧約聖書のサムソンを連想させた」という観客の声に、「以前も同様の質問をいただいたことがあるのですが、私はその物語を知りませんでした」と監督。今回の作品は監督が三年前に書いた短編小説を元にしているという。その小説は弁髪の人物からイメージをふくらませたもので、タルロの三つ編みはそこから来ているのだそう。「この作品は自分は何者であるのかを探すというテーマが核になっているのですが、三つ編みはタルロ自身の象徴なのです」

続いての質問は、タルロが理髪店で働くヤンツォにキスされるシーンで、二人の顔の部分がフレームから外れているが、この演出の意図を問うもの。監督は全編を通じ、タルロの姿をとらえる構図を意識したそう。「山で暮らすタルロは、街の中では見切れてしまう」。また、「ラブシーンを直接見せることはチベット族の慣習にはそぐわないので、婉曲に表現するために苦心しました」と監督。タルロの愛はラーイー(男女の仲を歌ったチベットの民謡)を通して表現されている。

1125tharlo_03冒頭、人並み外れた記憶力を持つタルロが毛沢東語録を長々と暗唱する。観客からは「暗唱のリズムがまるでヒップホップのようだと感じた」という声が寄せられた。タルロは四十代だが、このシーンは、彼の年代に特有の経験を示しているのだという。「彼は小学校で毛沢東語録を習いました。(母語である)チベット語ではなく中国語で。そのため、仏教の読経のようなリズムを使って難しいフレーズを暗記したのです。それがヒップホップのように聞こえるのですね」と監督。

続いて、全編モノクロで撮影した理由について訊かれると、監督は「タルロは外側も内面も非常にシンプルな人物。彼を取り巻く環境と、心の内面の両方を表現できるものとして、モノクロを採用しました。また、この人物の寂しさを印象づけることができると考えたのです」と説明した。

最後の質問は、鏡を多用した印象的な演出について。理髪店のシーンでは、すべて鏡越しに撮影されている。「鏡の中はさかさま、不確定、まるで仮想の世界。タルロが暮らす山と、理髪店がある街はまったく別の世界であることを示しています」

まだまだ多くの手が上がっていたが、残念ながらQ&Aの時間が終了。質問者の目をじっと見つめ、終始静かな口調で丁寧に応じるペマツェテン監督の姿が印象的だった。

(取材・文:花房佳代、撮影:明田川志保)

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