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コリアン・シネマ・ウィーク2013/イ・チャンドン監督トークショー


TOKYO FILMeX (2013年10月21日 15:24)

Poetry_5S.jpg10月18日から22日まで、第26回東京国際映画祭提携企画・KOREA CENTER開館記念として韓国文化院ハンマダンホールにて開催されている「コリアン・シネマ・ウィーク2013」。10月19日には、第11回東京フィルメックスのクロージング作品でもあった『ポエトリー アグネスの詩』(2010)が上映され、上映後にはイ・チャンドン監督によるトークショーが行われた。聞き手は、韓国映画に造詣の深いキネマ旬報顧問で城西国際大学メディア学科教授の掛尾良夫さん。

 
Poetry_1S.jpg冒頭、2010年プサン国際映画祭で撮影したイ監督と主演女優のユン・ジョンヒさんのツーショット写真を掛尾さんが紹介し、「イ監督がこんなにも笑顔なのは珍しいのでは」とコメント。それに対してイ監督は、その笑顔の理由についてユーモアたっぷりに説明。撮影現場では苦悩が尽きないため、しかめっ面になることが多いそうだが、『ポエトリー』の撮影に入る時、仲間からユンさんの前でしかめっ面ではいけないと諭され、また、16年ぶりの映画出演で緊張されているユンさんの気持ちを和らげるために、できるだけ笑顔でいようと心がけたとか。その結果、にっこり笑っているというより、ぎこちなく笑っているという複雑な笑顔になってしまったのだそうだ。
 
『ポエトリー』は公開されてからすでに3年が経ち、イ監督は数多くのインタビューをこなされ、同じような質疑応答を繰り返してこられたそうだが、会場には初めて鑑賞する観客が多かったことから、本作の製作経緯から話を進めることとなった。
 
製作のきっかけとなったのは、韓国で実際に起こった青少年による性犯罪事件。その事件が韓国社会に与えた衝撃は倫理観や道徳観を覆すほど大きいもので、イ監督は事件を映画化できないかと考えたそうだ。ただ、その手法について模索していたところ、旅行先の京都でTVに映った穏やかな海辺の風景と流れてきた音楽に触れた時に、ふと『詩』というタイトルにしようと頭に浮かんだとか。事件の真相を解き明かすような安易な手法ではなく、詩を書くことによってその事件を語るというプロットがそこで決まったという。
 
続いてストーリーの構成について話が及ぶと、イ監督は次のように説明した。「主人公は老女に設定しなければならないと直感的に思いました。残りの人生があまり長くなく、限られた時間の中で生きる人が、残される世の中や人々に対して抱く愛情や憐憫を下地に盛り込みたいと。罪を犯した青少年や躓いてしまう若者たちに向けられる視線や愛情が、この映画の中心になると考えました」
 
Poetry_3S.jpgさらに、本作のテーマである詩と美しいものとの関連性について、イ監督の踏み込んだ話が続いた。「主人公は、目に見える美しいものを求めて詩を書こうとするも、なかなか詩を書くことができず壁にぶつかります。やがて孫の犯した罪を知り、自殺した少女の苦痛を自分の苦痛として受け止めたことによって、ようやく詩を書くことができるのです。詩の主題として美しいものに目が向けられがちですが、目に見える美しさだけで真の美しさが得られるわけではありません。目に見える美しさの背後にある暗さ、醜さ、汚さを受け入れてこそ、真の美しさが理解できるのだと思います。そうした美しさに対する概念というのは、芸術全般に言えることではないでしょうか」
 
次に、ラストシーンの「アグネスの詩」の朗読が主人公ミジャの声から被害者の少女の声に変わる意図についての質問。これに対してイ監督は、「ミジャが書いた詩は、本人の気持ちだけでなく、少女の気持ちを代弁して書かれたもの。自分自身の感情を込めるのではなく、周りの人々の感情を代弁して込めることが、あらゆる芸術の本質、芸術の運命だと思います。声が変わるのは、少女が自殺する前の記憶、少女の視点から見た風景を取り入れたから」と明かしてくれた。
 
LEE ChangdongS.jpgここから少し作品を離れ、一昨日ソウルで行われたソル・ギョング映画祭でのソルさんのトークショーのエピソードを掛尾さんが紹介。ソルさんは、イ監督作品の撮影がいかに過酷なものだったかということをトークショーで語っていたそうだ。これについて、イ監督がユーモアを交えて反論。
 
『ペパーミント・キャンディ』(1999)で主演を任されたソルさんは、それまで舞台俳優として活躍していたものの、当時は映画俳優として新人。責任やプレッシャーを感じ、いつも暗い顔をしていたそうだ。イ監督が悩んだ表情をすると、ソルさんは自分のせいではないかと被害妄想的な感情を抱いていたようだったとか。確かに現場で褒めることはなかったと言うイ監督だが、「あたかも私が虐待をしているかのような印象ですが、怒鳴ったことも人前で叱責したこともありません。むしろ敬意を持って接していました。それにもかかわらず、(ソルさんは)ずいぶん辛い思いをしたと語っていたようで、大変遺憾です」と場内を笑わせた。
 
それでも掛尾さんが「ムン・ソリさんは『オアシス』(2002)の撮影中にイ監督に憎しみを感じたと語っておられ、『シークレット・サンシャイン』(2007)では同じシーンを何度も撮り直してチョン・ドヨンさんをずいぶん追い込んだそうですね」とイ監督をさらに追及。
 
すると、イ監督は俳優たちのエピソードを交えて次のように語った。「私と組んだ俳優たちは、自分たちの限界を超えてみたいと考えているのだと思います。繰り返しますが、私が彼らにああしろこうしろと強要したことはありません。すべて彼らが自分で考えたものです。それにもかかわらず、私の悪口を俳優たちが競ってばらまいているのですが、あくまでも噂ですので誤解なさらないでください」(一同笑)
 
「私の悪口が広まったのも、俳優たちの演技が素晴らしいからだと思います。ヴェネツィア国際映画祭で『オアシス』が初めて上映された時、観客はムンさんが実際に脳性麻痺の患者だと思っていたようで、健常者として登場するファンタジーシーンに驚いた観客からどよめきが起こりました。また『シークレット・サンシャイン』では、チョン・ドヨンさんの演技をあれだけ引き出すのはさぞや威圧的な演技指導があったからに違いないと、恐ろしく強圧的な監督という評判が海外でも一人歩きしました。悪口の反論になりますが、そうした悪口も俳優たちに恵まれているという幸運の証だと思っています」
 
Poetry_6S.jpg『ポエトリー』でユンさんが最も苦労されたシーンは、被害者の少女の母親に会いに行くシーンだったとか。ミジャは謝罪と示談のために少女の母親に会いに行くも、景色に気を取られて、何をしに来たのかも忘れてしまうという設定。映画の中でも複合的な意味合いのある重要シーンで、ユンさんもイ監督の意図を十分に理解され、自宅で練習を重ね、撮影当日朝は感情のコントロールも万全の状態で撮影に臨むはずだった。しかし、ユンさんを迎えに行ったドジなスタッフが撮影現場までの道のりを長々と迷ってしまったため、現場まで感情を持ちこたえようとしていたユンさんの緊張の糸がぷつんと切れてしまい、ユンさんは車の中でわんわん泣き、目を腫らしてしまったそうだ。それでも、イ監督の説得によって、ユンさんの目の腫れを氷でおさえて撮影は敢行されたとか。イ監督によると、このエピソードはここで初めて明かす撮影秘話とのこと。
 
イ監督がそのシーンで意図したことは、「芸術の本質、芸術に隠されたものを見せること。つまり、芸術というものは、その美しさに酔いしれて、現実問題を忘れてしまうものだということ」なのだそう。余談ながら道に迷ったスタッフの処遇について訊かれると、「ここはとても重要なのですが、私はそのスタッフを一切叱ったりしていません。そうした私の優しい部分が埋もれてしまっているようですが」と答え、再び会場の笑いを誘った。
 
Poetry_2S.jpg最後に、2012年の年間観客動員数1億8千万人を達成した韓国映画産業について話が移った。イ監督は、「今、韓国映画産業は活気に満ち溢れている」と認め、各国の状況についても触れた。フランスでは自国作品の劇場占有率は40%、韓国では50~60%、日本では65%だが、日本映画の内訳はアニメ映画、ドラマの劇場版映画に偏っており、自国作品の劇場占有率が高くても活力は韓国よりやや劣ると冷静に分析。続けて、「韓国映画の活力の源は映画のテーマの多様性にあり、娯楽性の低い作品も受け入れられるようになってきた一方で、ジャンルの多様性が大衆の好む映画の活性化にもつながる」と述べた。
 
さらに、今後撮りたい作品について観客から問われると、イ監督は「明言はできませんが、私も大きな衝撃を受けた東日本大震災を何かしら反映した作品を作りたいと考えています」と返した。
 
いよいよ締めの挨拶に移ろうとすると、東京国際映画祭審査委員として来日しているムン・ソリさんが客席から登場し、「監督はとても優しい方です」と日本語でジョークを交わした。イ監督は「長い時間ありがとうございました」と観客への感謝の言葉で締めくくり、観客から大きな拍手が寄せられ、1時間半に及ぶトークショーが終了。イ監督の丁寧な語り口とユーモアをたっぷり交えたトークと笑顔に、観客はすっかり魅了された様子だった。
 
(取材・文:海野由子)






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