『ILO ILO(英題)』アンソニー・チェン監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2013年11月26日 22:00)
11月26日、有楽町朝日ホールでコンペティション部門の『ILO ILO(英題)』が上映され、上映後のQ&Aにアンソニー・チェン監督が登壇した。チェン監督は、東京フィルメックスが東京都などと開催している映画人材育成プログラム「ネクスト・マスターズ2010」(現「タレント・キャンパス・トーキョー」)の参加者。その際、本作の企画をプレゼンし最優秀企画賞を受賞したことに触れ、「その時の講師兼審査員が私の尊敬する台湾のホウ・シャオシェン監督でした。おかげで大変自信がつき、この映画を完成させることができました。今日は日本で初めてこの作品を上映できる特別な日です」と感謝の気持ちを語った。
映画の舞台は、1997年のアジア通貨危機の影響下にあるシンガポール。共働き夫婦の一人息子と、フィリピン人メイドの交流を描く。最初にキャスティングについて問われると、チェン監督は「私は演技を非常に重視していますが、その成功の半分はキャスティングにかかっていると思います」と話した。「少年役の選考には10ヶ月かけました。オーディションで2000人の候補者を150人に絞り、彼らに半年にわたるワークショップを実施しました。最終的に選ばれたのは全く演技経験のない少年です。父母役は役の年齢に合うあらゆる俳優に会って決めました。母親役は5年前に私の短編に出演したヨー・イェンイェンさんです」。メイド役の選考にはネクスト・マスターズで出会ったフィリピン在住の監督の協力があったという。「予算がなかったので、滞在したマニラの安ホテルで1週間オーディションをしました。ホテルの受付の方は、なぜこんなにきれいでセクシーな装いをした女性たちが次々と私の部屋に出入りするのか、不思議に思ったかもしれません」と話し、会場の笑いを誘った。
観客からタイトルの意味を問われると、「この映画は私の子ども時代の体験が元になっています。97年のアジア通貨危機の際、私の父も失業しました。また、4歳から12歳までの8年間、私の家庭にもフィリピン人のメイドがいました。"ILO ILO"は彼女の故郷の地名。可愛い音の名前でよく覚えています」と説明した。
また、「子供の描き方が大変素晴らしく、清水宏やフランソワ・トリュフォーを連想しました。そういった作品の影響はありますか」という鋭い指摘には「よく気づいてくださいました。企画時に子供のイメージとして思い描いたのはトリュフォーの『大人は判ってくれない』です。非常に印象的なイメージとして私の心の中に残っていました」と答えた。
続いて、「シンガポールの一般的な家庭が描かれていますが、どうしてこれだけ広い観客層に受け入れられたのでしょうか」と訊ねられると、「家族の問題、少年の成長、金銭的なトラブル、移民や階層の問題といった普遍的なテーマは文化や言語を超えるのでしょう。フランスでは10歳から12歳の子供に好評だと聞きます。主人公と共感するところがあるのかもしれません。また、この作品は台湾金馬奨で4つの賞を獲得しましたが、審査委員長のアン・リー監督からは"他にアート性の強い映画が多い中、誠実で正直な映像のあり方が突出している"と評価していただきました」と話した。
編集方法についての質問も挙がった。「時の流れに隔たりのあるカットを、ダイレクトにつないでいるところが新鮮に感じました。これは監督の作風でしょうか」と問われると、「短編ではこういう編集方法ではありませんでした。この映画では暴力的ともいえるほど、規律正しく、直覚的な編集をしました。センチメンタルで感情に溺れるような編集をしたくなかったからです。いつまでも同じシーンを延ばしておくと、お涙頂戴になりがちな題材なだけに、あるショットのエネルギーが切れたところで、スパッと切るという大胆な編集をしました。他の方からは"タイトな編集だね"とお褒めいただきました」と語った。
満席となったこの日の会場。Q&Aでも観客から次々に質問が寄せられ、予定時間を大幅に超えての終了となった。好評を受け、『ILO ILO(英題)』は29日(金)午前10時から朝日ホールでの追加上映が決定している。
(取材・文:宇野由希子、撮影:穴田香織、白畑留美)
|