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東京フィルメックスinしんゆり『ティエダンのラブソング』トークショー


TOKYO FILMeX (2013年10月15日 13:59)

fc05sub01.jpg10月12日、KAWASAKIしんゆり映画祭(川崎市アートセンター他)にて「東京フィルメックスinしんゆり」が開催された。「映画は人生を変える?」というテーマのもと、前年度の東京フィルメックスコンペ部門からはハオ・ジェ監督の『ティエダンのラブソング』が選ばれた。ハオ監督の作品は処女作の『独身男』(2010)に引き続き、本企画には早くも二度目の登場。縁のある監督作品ということもあり、会場には多くの観客が詰めかけた。上映後は市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターによるトークが行われた。聞き手はしんゆり映画祭スタッフの田口茜さん。

 
fc05sub03.jpg最初に市山Pディレクターより、本作は中国政府の検閲を通過しており、10月18日より一般館での上映が決まったとの朗報が伝えられた。前作は中国国内では映画祭のみでの上映だったため、本作で初めてハオ監督作品が広く中国国民の目に触れることになる。また、現地の宣伝広告によれば、中国映画史上初めて内モンゴル、山西省など中国北西部に広く伝わる民族歌謡の二人台(アルレンタイ)を扱ったものになるとのこと。

fc05sub02.JPG続いてキャストの年齢や役どころの話題に。ティエダン役のフォン・スーさんは劇中の役よりも年上であり、監督も一時は年齢に合った俳優をキャスティングすることを考えていた。しかし、映画にはどうしても二人台の第一人者であるフォンさんの歌声が必要。結局、フォンさんのキャスティングを決断した、とのこと。この映画がきっかけとなり、フォンさんは『トゥヤーの結婚』『再会の食卓』で知られるワン・チュアンアン監督の次回作にも出演が決まったそうだ。客席から最も大きな驚きの声があがったのは、『独身男』に続いて本作にも出演した女優、イエ・ランさんの役どころについて。ティエダンの恋に関わる三人の女、発声や仕草、キャラクターも異なる三役を実はイエさんが巧みに演じ分けている。

fc05dir.jpg次に、ハオ監督の作風について、市山Pディレクターが監督に会ったときの印象も交えて語った。ハオ監督は北京電影学院卒業のいわゆるエリート。しかし、一作目から視点は変わらず庶民であり、「ほっとけば"埋もれてしまう物語"を拾って映画を作っている」。また、『独身男』ではハオ監督の生まれ育った周辺を描いていたが、本作では自分が生まれる前の時代の出来事を扱っている点でチャレンジングだと評した。ここで、田口さんからハオ監督の作品が『サウダーヂ』(11)『SRサイタマノラッパー』(09)など、日本の地方映画と通ずるものがあるとの意見が挙がった。これに対し市山Pディレクターは「たしかに似ていると思います」と答え、以前の中国インディペンデント映画は都市部の人間模様を描くことが多かったが、ジャ・ジャンクー監督が『一瞬の夢』(97)『プラットホーム』(00)で地方の青春を描いて以降、若手監督の中でもそのような映画が多く作られるようになったと説明した。

fc05main.jpg客席からの質問は「映画の中で"Go West"という言葉が使われ、当時の中国では西の方が豊かだったのだろうか、と思ったのだが、実際にはどうだったのか」というもの。これに対し市山Pディレクターは「映画の舞台となった山西省は農地も少なく貧しい地域だったので、人々は今の生活を抜け出したいという気持ちを持っていたのだと思います。当時の中国で豊かだったのは広州のような南部であり、西の方が特に豊かだったとは思えませんが、今いるところから出てゆこうという登場人物たちの鬱屈感や外部への憧れを強調する意味があったのではないでしょうか」と語った。 
続いて「劇中に占い師が出てきたが、中国では占い師はどういった存在なのか」という質問には、「中国では占い師が地方の庶民の生活に溶け込んでおり、ただ占うだけでなく、様々な相談ごとを受ける存在として機能しています」とコメントした。

fc05sub08.jpg最後に市山Pディレクターから、本作の制作会社ヘブンピクチャーズの紹介があった。この制作会社は中国の若手監督の低予算映画を多く手がけており、その多くが国際映画祭に選ばれ、着実に実績を重ねている。中国のインディペンデント映画に興味がある方は是非チェックして欲しいとのこと。
その後、しんゆり映画祭のマスコットキャラクター、シネマウマから市山Pディレクターにプレゼントが贈呈されるなど、終始暖かい雰囲気に包まれたトークショーだった。

fc05sub05.JPG今年の東京フィルメックスでは、特別招待作品としてジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』、コンペティション部門ではジャ監督がプロデューサーを担当した女性監督チュエン・リンの『見知らぬあなた』が上映される。
また、オーディトリウム渋谷で開催される「中国インディペンデント映画祭」では、ヘブンピクチャーズの作品や検閲を通っていない先鋭的な作品が上映される。

(取材・文:高橋直也)






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