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水曜シネマ塾「映画字幕翻訳セミナー」


TOKYO FILMeX (2013年11月13日 22:30)

13jimaku01.jpg11月13日marunouchi café SEEKにて、水曜シネマ塾「映画字幕翻訳セミナー」が開催された。東京フィルメックスでは2006年から、三菱地所、丸の内カフェとの共催で国内外からさまざまなゲストを招き、映画に関する多くのセミナーを企画している。2009年から中国語通訳・翻訳家の樋口裕子さんの発案で始まった字幕翻訳セミナーは、昨年も同会場にて2回にわたって開催され、好評を博した。今回も定員を超えた参加申込みがあり、外国映画を見る上で欠かせない映画字幕への関心の高さをうかがわせた。前回同様、映画評論家・字幕翻訳家の齋藤敦子さんをゲストに迎え、樋口さんとのトークを繰り広げた。


まずは基本的な字幕制作過程についての説明。まず字幕のない状態で作品をチェック。以前は試写室で鑑賞することが多かったが、最近はもっぱらDVDを渡されるそう。次にハコ書きと呼ばれる、台本のセリフに番号をつける作業。「ハコ書き8割、翻訳2割」と言った人もいるほど、ハコ書きは大切な作業です、と齋藤さんは強調した。制作会社でのスポッティング(台詞の長さを測る)を経て、翻訳を開始する。海外では字幕はそれほど一般的ではないそうで、アメリカでは英語以外の映画は見ないという人が多く、ドイツやフランスではほとんどが吹き替えで公開されているという。そのためか、「英語で付けられた字幕はスポッティングがずれていることが多いですね。日本の観客は神経細やかな人が多いと感じます」と樋口さん。日本語の字幕が緻密に作られていることをうかがわせた。


続いて、参加者に事前に出されていた宿題についての質疑応答に。これは第14回東京フィルメックスの特別招待作品であるアニエス・トゥルブレ(アニエスベー)監督の『わたしの名前は...』の1シーンの字幕を翻訳するというもの。台詞はフランス語で、すでについている英語字幕から翻訳を行う。宿題に自分なりの翻訳を行ってセミナーにのぞんだ参加者から、次々と質問が齋藤さんに寄せられ、活発な議論が繰り広げられた。


13jimaku02.jpgこの作品の翻訳は齋藤さんが目下作業中で、仮ミックスの状態。「良いアイデアがあったらぜひ使わせてください、一杯おごらせていただきます」という茶目っ気たっぷりの言葉に、場内は笑いに包まれた。
宿題として出されたシーンは冒頭近くで、主人公の少女の両親が登場する。失業中でぼんやりと家で過ごす父親を、夜遅くまでカフェのウェイトレスとして働く母親が責める。「最初の方にすべての情報が詰まっています。ここで状況をちゃんと説明できると、後々の字幕もうまく行く」。重要な情報をはしょってしまうと、ストーリーが進んでから観客に「この人は誰?」「どういう状況?」といった疑問が生まれてしまう。ここで「俺」や「僕」といった日本語の一人称の使い分けを決めておくことも、人物のキャラクター付けに重要だ。


名前など、音で聞いても分かる部分は字幕を合わせる方がよい、と齋藤さん。また、日本語の文法に合わせるために内容をひっくり返して訳すのはあまり好ましくないという。「俳優がその言葉を発する時にはその言葉の顔をしている」という言葉に、参加者も深くうなずいていた。


13jimaku03.jpgシーンの最初、齋藤さんが「疲れたわ」と訳した台詞を、とても疲れていることを示すため「へとへとだわ」と訳した、という参加者の意見には「確かにありだけど、ひらがなばかりなので読みにくいですね。あまり凝りすぎてもだめ。最初の台詞だから、端的に母親が疲れていることを示すのがいい」との回答。
齋藤さんの訳では「職業紹介所」とされていた語について、文字数を少なくするため「職安」とするのはどうか?という意見が出されると、「私もちょっとそれは考えました」と齋藤さん。「ただ、職安というと日本の特定の機構を指しているので、それで置き換えてしまうのはよくない。観客の意識がそこにひっかかってしまうのを避けるため、フラットな「職業紹介所」を用いた。100人中99人が気にならないとしても、1人が気になってしまったとしたら、その人に申し訳ないと感じる」という。「流行語になっているような言葉を使うのも避けますね」と樋口さん。イメージのついた言葉を使わないのも、観客に映画に集中してもらうために気を遣う部分だ。
厳しい文字数の制限の下で翻訳をしなければならない字幕だが、だからといって内容をはぶいては観客に届かなくなってしまう。「観客は意外に前のシーンを忘れてしまっているもの」と齋藤さん。「あの人」などというと、思い出すために観客の意識が離れてしまう。字幕で2枚以上前のことを「あの」「この」という語を使って指しては伝わらない、と言われているという。


また、冷えきった夫婦という登場人物の関係性を加味して訳した、という参加者の翻訳例には、「映画の字幕としてはやや過剰ですね」と厳しい判断。映画字幕の場合、多少堅くなっても原意に沿って訳すべきという。「翻訳家」としては正しいが、字幕翻訳家としてはやりすぎという場合もある。「流れとして意訳になってしまう場合もあるが、台詞を書いた人には敬意を表したい。昨年のセミナーでも言いましたが、字幕は映画の邪魔をしてはならない。すばらしい翻訳でしたね、と言われたら負けです」。『わたしの名前は...』は監督が脚本・撮影も自ら担当したデビュー作。そういった思いのこもった作品であるほど、作り手を尊重した字幕をつけたい、と齋藤さんは力をこめた。


ここで参加者から、「専門でない言語の場合、英語字幕から翻訳するのか?」という質問が寄せられた。もともとフランス語の翻訳を専門としていた齋藤さんだが、それ以外は基本的に英語の字幕台本から翻訳するそう。その場合、原語話者のチェックは欠かせない。齋藤さんはイラン映画の字幕も手掛けているが、その際はイラン出身で映画字幕翻訳やプロデュースも手掛けるショーレ・ゴルパリアンさんの監修を受けた。専門外の言語の字幕を担当する場合、二つの方法がある、と樋口さん。一つはその言語の専門家が台詞をベタ訳したものを字幕として調整するという方法。もう一つは英語字幕をベースに字幕を作り、原語の専門家の監修を受けるという方法だが、英語を介することへの不安は常にあるという。劇場公開ではない上映イベントなどで、原語話者が字幕翻訳を行っているケースもあるが、たとえ言葉の意味が正しくてもよい字幕とはいえない、と齋藤さん。「字幕に正解はありません」と強調した。


字幕制作の裏側にまつわるエピソードも次々と飛び出し、終始笑いと驚きの声に包まれた今回のセミナー。日々「正解のない」字幕翻訳に挑むお二人の生の声を聞く貴重な機会に、参加者も熱心に耳を傾けていた。


(取材・文:花房佳代、撮影:白畑留美)

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