『微笑み絶やさず』モフセン・マフマルバフ監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2013年11月23日 22:00)
11月23日、有楽町朝日ホールに特別招待作品『微笑み絶やさず』が上映され、上映後のQ&Aにモフセン・マフマルバフ監督が登壇した。林 加奈子ディレクターは「ようこそいらしてくださいました。初めてのフィルメックスですね」と監督の登場を歓迎した。マフマルバフ監督の作品自体は、過去のフィルメックスでも『カンダハール』(01)、『セックスと哲学』(05)、『スクリーム・オブ・アント』(06)、『庭師』(12)が上映されているが、映画祭への出席は初。今年は審査委員長を務めている。フィルメックスの長年の熱意が結実した形だ。マフマルバフ監督は「フィルメックスは、芸術性や作家性が強い映画を支援する映画祭だと聞いています。参加できることを嬉しく思います」と挨拶した。
この作品は、釜山国際映画祭のディレクターを15年間務め、韓国映画界の顔として国内外の映画人の尊敬を集めるキム・ドンホさんの姿を追ったドキュメンタリー。制作の背景を聞かれると、「キムさんは自分の師の一人で、人生のモデル」とマフマルバフ監督。キムさんは韓国の映画を海外に紹介し、文化的な活動をしてきた人物。人を尊敬する気持ちを忘れず、謙虚に生き、シンプルな生活をする彼を「とても尊敬しているし、学べることがたくさんある」と語る。同時に、特にアート系の映画を支援する映画祭への感謝の気持ちを伝えたいという思いもあったという。「キムさんや林さんのような人がいるから、アート性の強い映画が生きていける」と感謝を表した。また、「予算がなくても映画が作れることを示せた」ともいい、昨年上映された『庭師』と同じく予算はゼロ。撮影は息子であるメイサム・マフマルバフさん。特訓の意味もあるが、プロデューサーが見つからず資金が集められないとき、「ペンのようにカメラを手にしたら映画を作れるのでは」と語った。
観客からは「キムさんは監督の人生のモデルだと言うことですが、キムさんは政府の役人からキャリアをスタートし、一方の監督はイラン革命の闘士だったとお聞きしています。全く違う経歴ですが、共通点はあるのでしょうか」という質問が寄せられた。これに対し「共通点はまったくありませんが、彼になりたい、という思いでこの作品を作ったのです」と監督。「彼は60歳で政府関係の仕事を退職し、釜山映画祭を創立し映画の世界に入りました。常にさまざまな人と会ってアイディアを得て、監督とスポンサーを結びつけています。そのことが多くの映画のモチベーションになっています。マネージメント能力とモラルがひとりの人間の中で両立することは難しいけれど、彼は二つを併せ持っている人物で、その点で、私は彼に人生の理想を見ているのです」と語った。また、監督にとって重要な点として、キムさんが映画の検閲官だったときに検閲を廃止する法案を成立させたことを挙げた。監督はイランでの政治活動で逮捕・投獄された経験を持つが、「同じ立場にいた人の中には釈放後、芸術家になる人もいれば検閲官になる人もいた」と語った。
次に、この作品の撮影はどのくらいの期間で行われたのか、との質問が上がると、「前作『庭師』のポストプロダクションのため韓国に行った際、ちょうどキムさんが自身の初監督作となる短編『JURY』(2013年10月東京の韓国文化院で開催された「コリアン・シネマ・ウィーク」で上映)を撮影中で、そのメイキングとしてカメラを回したのが最初。その後釜山映画祭の現場や彼の自宅などで、少しずつ彼の姿を撮ってきました」と監督。完成した作品を見たキムさんは「自分は醜いし、英語も下手ですね」と、またしても謙虚なコメントを寄せたという。
「監督もカメラを持つ姿が映っていましたね」と訊ねられると「メインカメラは息子でしたが、自分もたまに回しました」と答えた。これには、メインはメイサムさん、リアクションショットは監督が撮るという『庭師』の撮影経験が生きているという。「キムさんがカメラの存在を全く気にしていない様子でした」という感想には、「キムさんはあまりに精力的に色んなことをやっているので、私たちはただ後ろを走ってまわっていた感じです。起きるのは朝4時で、私たちは7時になった頃にはもうヘトヘトになっていました」と明かした。一方のキムさんは、その後も元気にジョギングに出掛けたそう。
マフマルバフ監督の次回作は、グルジアを舞台にデモクラシーを題材とした英語の作品。大規模なプロジェクトになるそうで、2014年1月半ばから撮影に入る予定という。『微笑み絶やさず』は11月25日(月)にも上映される。
(取材・文:宇野由希子、撮影:関戸あゆみ、永島聡子)
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