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『ニーチェの馬』 The Turin Horse / A torinói ló
ハンガリー、フランス、スイス、ドイツ / 2011 / 154分
監督:タル・ベーラ (TARR Béla)
配給:ビターズ・エンド
【作品解説】
主人公は人里離れた荒野の中の一軒家で暮らす初老の男、その娘、そして年老いた馬。映画は彼らの日常生活を描写するが、時おり訪れる人々がいる以外、これといった事件は起こらない。男は、ついに娘と馬を連れてこの家を出てゆこうと決意する。だが、2人と1頭の道のりは、吹きすさぶ強烈な風のために過酷なものとなる......。美しいモノクロ映像、驚異的な長回し、説明的台詞の欠如などに代表されるタル・ベーラ特有の美学的スタイルが極限まで追求され、見る者を圧倒する傑作。『落ちる人』などで映画監督としても活躍するフレッド・ケレメンが前作に続いて撮影を担当した。原題の"トリノの馬"とは、1889年、イタリアのトリノを訪れていた哲学者ニーチェが、通りで馬が御者にひどく鞭打たれているのを見かけてそれを止めに入り、その後発狂したという故事のことを言う。本年のベルリン映画祭コンペティションで上映され、銀熊賞(審査員特別賞)を受賞した。






© Marton Perlaki
タル・ベーラ (TARR Béla)

1955年、ハンガリー生まれ。81年、ブタペストの映画アカデミーを卒業後、MAFILMに勤務。94年にはベルリン国際映画祭フォーラム部門でカルガリ賞を受賞した7時間半の大作「サタンタンゴ」を発表。その後も、2時間25分をわずか37カットで描いた『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(00)、ジョルジュ・シムノン原作の『倫敦から来た男』(07)と新作を発表するごとに世界の映画ファンを魅了。01年にはニューヨーク近代美術館で大規模な特集上映も開催された。本作が監督としての"最後の作品"だと表明している。





11/24『ニーチェの馬』Q&A
from ブロードキャスト 2011/11/24


 
11/24『ニーチェの馬』Q&A/有楽町朝日ホール
タル・ベーラ(監督)

林 加奈子(東京フィルメックスディレクター)
大倉 美子(通訳)
 
The Turin Horse / A torinói ló
Hungary, France, Switzerland and Germany / 2011 / 154 min.
Director: TARR Béla





新情報は順次、追加されます。


『ニーチェの馬』タル・ベーラ監督Q&A
from デイリーニュース2011 2011/11/24

1124tarr_01.jpg11月24日、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『ニーチェの馬』が上映された。今年のベルリン国際映画祭で審査員特別賞に輝いた傑作は、満員の観客を圧倒。上映後にはタル・ベーラ監督が、壇上には上がらず、舞台の下で立ったまま観客とのQ&Aに応じた。林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターに観客への一言を求められると監督は、「この醜い白黒の、退屈な、ゆっくりとした..."何か"を観てくださってどうもありがとう」と静かな口調で語り、早速タル・ベーラ・ワールドに会場を引き込んだ。


この作品に描かれるのは、荒野の一軒家に暮らす父娘、そして一頭の馬の日常。井戸で水を汲み、馬に飼い葉をやり、ランプに火を灯し、縫い物をし...流麗な長回しのカメラが、単調な日々の作業の繰り返しを映し出す。
時折来訪者がやってくるものの、登場するのはほぼ父と娘のみ。父親役のデルジ・ヤーノシュは主に舞台で活躍している俳優で、娘を演じたボーク・エリカは、『サタン・タンゴ』(94)や『倫敦から来た男』(07)にも出演している。今はレストランで皿洗いをしていて、監督によると「女優になる気はまったくない」そう。


1124tarr_02.jpg「父娘の動作が、あたかも何年もそこで暮らしているかのようだった」と述べた観客から「リハーサルをどのくらい重ねたのか」と訊ねると、監督からは「リハーサルは必要ない」と意外な答えが返って来た。
「映画を撮るには、リアルな状況を作らなければならないと私は考えています。誰もが、あの場所、あの状況に置かれれば、きっと彼らと同じように動くでしょう。これが、真の映画作りの論理。つまり、人生というものがどのように辿られるのか、しっかりと捉える、ということです」。監督は、それによって日々繰り返される生活の中にある人生の論理を表したかった、と語った。


次に、「モノクロの映像、画面の質感が非常に美しかった」という感想が寄せられると、「自分にとっては、モノクロが撮り易い」と監督。
「白黒の画面を目にした観客は、これは自然主義のスタイルの映画ではない、とすぐに理解できる。つまり、これは"誰か"の視点から描かれているのだ、という心の準備が出来る、と考えています。映画は現実ではない。そうであるふりをしてはならないのです。ですから、先程申し上げた人生の論理というのも、人生についての我々の見方をお見せしているわけで、それを受け容れるのか、それとも拒否するのかというのは、観る者に委ねられている。あることが正しいとか悪いといったことを"審判する"という行為は、映画作りの一部ではないと考えています」


撮影手法を絶賛する声を寄せた観客は、流れ者がやってくる場面―家の中から窓の外を捉え、やがて娘と一緒にカメラは家を出ていく―というワン・カットを挙げ、「どうやって撮ったのでしょうか」と質問した。監督は、「それは料理の説明をするようで、非常に難しい」と苦笑しながら、「お訊ねのシーンですが、カメラはまず、窓越しに流れ者がやってくるのを追っています。しかしある瞬間から我々もまたその状況のただ中にあるのだ、と感じて欲しいためにあのような動きになっているのです」と解説してくれた。


1124tarr_03.jpg劇中の音楽についての質問が上がると、「音楽は大好きです」とニヤリ。「音楽は人生の一部」という監督が信頼を寄せるのは作曲家・詩人・哲学者であるヴィーグ・ミハーイ。83年からずっと、ともに仕事をしているという。「今回の場合はあえてひとつの曲を使用しています。これは、人生の日々の営みが繰り返しであるということを示すためでもありますが、ただ、いつも同じではありません。同じだと思っていた日々も、少しずつ変わっていくもの。これもまた、今回見せたかったものの別の側面でもあります」


『ニーチェの馬』は6日間のうちに展開する。「「創世記」には、神が6日間でこのクソみたいな世界を創造なさり、そして7日目に休息をとった、とある。『ニーチェの馬』はこの6日間を逆行しています。その日々のうちに少しずつ何かを失っていく。6日目になると、そこに待ち受けているものは終末です」と物語の構成の意図を明かした。
「毎日同じような日々が続いている、と我々は思っていますが、毎日は実は少しずつ違っているのです。それは、毎日我々の人生は短くなっているからです。生きていく中で、だんだんと弱まっていき、そしていずれ、静かに、孤独のうちに終末の時を迎え、我々は皆、消えゆく運命にあるのです」


終始、質問者の方をじっと見つめながら、ゆっくりとした口調で語りかけたタル監督。ここで、質疑応答も「終末の時」を迎え、監督は最後に「おやすみなさい」とささやき、満場の拍手に見送られて会場を後にした。


『ニーチェの馬』は2012年2月より、シアター・イメージフォーラムにて公開予定。


(取材・文:花房佳代、撮影:清水優里菜)

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