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『これは映画ではない』 This is not a film / In Film Nist
イラン / 2011 / 75分
監督:ジャファール・パナヒ、モジタバ・ ミルタマスブ (Jafar PANAHI, Mojtaba MIRTAHMASB)
【作品解説】
2010年3月1日、『白い風船』や『オフサイド・ガールズ』で知られるジャファル・パナヒがイラン警察によって逮捕される。その後、パナヒは釈放されるが、映画製作、国外への出国、マスコミとの接触を禁止される。『これは映画ではない』は逮捕から1年を経た本年の3月、パナヒの自宅において撮影された作品だ。映画の前半は共同監督のモジタバ・ミルタマスブの撮影によりパナヒの日常が描写され、その会話の内容からパナヒが現在置かれている厳しい立場が浮き彫りにされる。この日はイラン暦の年末最後の水曜日を祝う"チャハールシャンベ・スーリー"にあたり、子供に会わねばならないミルタマスブがカメラを残して立ち去る。かくして、パナヒ一人が部屋に残される......。一見するとドキュメンタリーの形はとっているが、見る者を飽きさせない様々な創意工夫に溢れている点が素晴らしい。どんな状況にあっても映画を撮り続ける、という宣言ともとれる傑作である。















ジャファル・パナヒ

1960年、イランのミアネーに生まれる。イラン放送大学を卒業し、95年、『白い風船』で監督デビュー。カンヌ映画祭カメラ・ドール他、数々の賞を受賞。その後の主要作品に『チャドルと生きる』(00)、『オフサイド・ガールズ』(06)等がある。



モジタバ・ミルタマスブ

1971年、イランのケルマンに生まれる。テヘラン芸術大学を卒業。『ブラックボード-背負う人-』(00)、『私が女になった日』(00)、『カンダハール』(01)等の助監督を務める一方、数多くの短編やドキュメンタリーを監督。主要作品にドキュメンタリー映画"Lady of the Roses"(08)等がある。






11/26 イラン映画作家たちの現状 2/2
from ブロードキャスト 2011/11/26


 
11/26 イラン映画作家たちの現状/有楽町朝日 スクエアB
市山 尚三(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)



11/26 イラン映画作家たちの現状 1/2
from ブロードキャスト 2011/11/26


 
11/26 イラン映画作家たちの現状/有楽町朝日 スクエアB
市山 尚三(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)





新情報は順次、追加されます。


イラン映画作家の現状
from デイリーニュース2011 2011/11/26

1126iran_01.jpg第12回東京フィルメックスの8日目となる26日、有楽町朝日ホール11階スクエアにて、「イラン映画作家の現状」と題したトークイベントが開催され、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターが、イラン国内で映画作家たちの活動に制限が加えられている現状について解説した。

今年の東京フィルメックスでは、ジャファル・パナヒ、モジタバ・ミルタマスブ共同監督の『これは映画ではない』、モハマド・ラスロフ監督の『グッドバイ』の2本のイラン映画が上映された。
ジャファル・パナヒ監督は2010年3月にイラン当局に拘束され、現在は自宅軟禁状態にある。『これは映画ではない』は、その自宅で撮られた作品である。
市山Pディレクターは「情報が錯綜しており、現在日本で把握できる範囲での情報」とことわった上で、この問題に関わる経緯を説明した。


2009年6月に行われたイラン大統領選挙において、改革派ムサヴィ候補の優勢が伝えられたにも関わらず、アフマディネジャド大統領が再選を果たした。これについて不正な操作があったのではないか、と選挙結果の無効を訴える改革派のデモが沸き起こり、多数の逮捕者を出したことは、ハナ・マフマルバフ監督の『グリーン・デイズ』(09、第10回東京フィルメックスで上映)にも描かれている。
翌2010年2月、ベルリン国際映画祭でイラン映画に関するシンポジウムが開催され、パナヒ監督が招待されたが、イランから出国することができなかった。パナヒ監督は2009年12月、ムサヴィ派支持を理由に一度逮捕された、という情報があり、この出国拒否と関連があるものと見られる。同年3月1日、パナヒ監督が自宅にいる時、助監督を務めていたラスロフ監督らスタッフや家族とともに当局に拘束される。ラスロフ監督らは釈放されたが、パナヒ監督は長期間拘束された。


1126iran_02.jpg4月、カンヌ国際映画祭がパナヒ監督を審査員として招待することを発表。これはイラン当局の拘束に対する一種の抗議行動としてとられたものだったが、結局参加はかなわなかった。
その後5月25日になって、保釈金を支払うことでパナヒ監督は拘置所から自宅に戻ることを許された。そして12月20日、パナヒ監督とラスロフ監督に対する裁判所の判決が下る。パナヒ監督は6年間の懲役刑を言い渡され、また映画製作、イラン国外への出国、マスコミとの接触を20年間禁じられた。ラスロフ監督も6年間の懲役という判決を受けた。罪状は「国家安全に対する反逆を企てた」という曖昧なものであった。なお、二人が企画中だった映画は、大統領選挙後のある家族の姿を描いたものであったという。


この判決に対して、海外のさまざまな映画人や団体による抗議声明が出され、2011年2月、ベルリン映画祭がパナヒ監督を審査員として招待する。そして2011年5月、カンヌ映画祭で『これは映画ではない』が上映され、ミルタマスブ監督が舞台挨拶に立ったが、それまでの経緯について具体的な発言はなかった。また、「ある視点」部門でラスロフ監督の『グッドバイ』が上映され、監督賞を受賞したが、監督本人は参加できなかった。


1126iran_03.jpg『これは映画ではない』の中で、パナヒ監督がテレビで日本の津波が映されているニュースを見ていることから、撮影時期は今年の3月だということが分かる。「深刻な作品ではあるが、ユーモアやしぶとさが感じられ、一種のエンタテインメントとして仕上がっている」と市山Pディレクターは語る。映画製作を禁止されているため「映画ではない」とするなど、パナヒ監督のしたたかさを示す作品となっている。『これは映画ではない』と『グッドバイ』の2作品は、データを収めたUSBメモリをお菓子の箱の中に隠してイランからカンヌまで届けられた、というエピソードが披露されると、会場はどよめいた。


2011年9月、ミルタマスブ監督はトロント国際映画祭に招待されるが出国できず、今回、東京フィルメックスからも招待状を送ったが、来日はかなわなかった。
その直後の9月17日、ミルタマスブ監督ら5人の映画監督とセールスエージェントのカタユン・シャハビ氏が、イランで撮影されたBBCドキュメンタリーに協力したことが「スパイ活動に当たる」という理由で拘束される。BBC側の声明によると、ドキュメンタリーは政府の許可を得て撮影されており、BBCに関わりの無い人まで拘束されているという。その後ミルタマスブ監督を除く5人は釈放されたものの、監督はいまだ拘留中であることが確認されている。


10月14日、パナヒ監督とラスロフ監督の件についての控訴審の判決が出る。一審判決が支持され、ラスロフ監督は懲役1年に減刑されたが、その他については一審判決のまま、確定となった。二人とも刑務所への収容はされていないが、パナヒ監督は行動の制限された状態が続いている。ラスロフ監督は9月に『グッドバイ』のフランスでの劇場公開に立ち会っており、出国することは可能なもようである。


そして10月18日、こうした状況に対し、モフセン・マフマルバフ監督ら国外在住のイラン映画人21名による抗議声明が発表された。
21名の中には、東京フィルメックスとも関わりの深い監督たちも名前を連ねている。まず、マフマルバフ・ファミリー。モフセン監督は『セックスと哲学』(05、第6回東京フィルメックスで上映)以降イランに戻らず、パリを拠点に活動している。サミラ監督とハナ監督はテヘランに住んでいたが、『グリーン・デイズ』以降家族全員でパリに移った。
バフマン・ゴバディ監督は『ペルシャ猫を誰も知らない』(09、第10回東京フィルメックスで上映)がカンヌ映画祭に出品されたのを機に出国し、現在はヨーロッパで暮らしている。
バパク・パヤミ監督は、アフマディネジャド政権となる以前『2つの思考の間の沈黙』(03、第4回東京フィルメックスで上映)のネガが没収された事件以降出国している。もともとカナダ生まれということもあり国外での生活に不自由はないというが、新作のための資金が得られず、その後は製作できずにいるという。


このように困難な状況にあるが、イラン国内ではなお映画製作が続けられており、東京フィルメックスにも多くのエントリーがあるという。東京フィルメックスでもおなじみのアボルファズル・ジャリリ監督もイランに留まって製作を続けており、現在は新作のポスト・プロダクションの最中とのこと。予断を許さない状況ではあるが、新作が日本でも披露されることを期待したい。


市山Pディレクターは「このような状況について、なにより報道の必要性がある。カンヌ、ベルリンなどヨーロッパからのアクションも、事態を好転させるには至っていません」と述べ、この問題に対する関心を喚起してほしい、と会場に呼びかけた。


次に、会場からの質問を受け付けると、「パナヒ監督がそれほど政治的な映画作家とは思われないが...」という声が上がった。
それに対して、『チャドルと生きる』や『オフサイド・ガールズ』、『クリムゾン・ゴールド』など、社会的、政治的メッセージが強く、国内で上映禁止になった作品は多い、と市山Pディレクター。
しかし市山Pディレクターは今回の判決については「映画の内容とは別に、ムサヴィ派への積極的協力による面が大きいのではないか」という。イランにおいては、映画の文化的な存在感は大きく、映画人が政治的発言を求められることも多いという。映画での表現活動に対して、というより、政治犯的な扱いということのようだ。


続いて、「政治問題を扱っておらず、政府から表現活動を制限されていない映画作家の中で、国際映画祭で注目されている作家はいるのでしょうか」という質問。
これについて市山Pディレクターは、「以前から国際的に高く評価されてきた児童映画は政治的要素を含まないイラン映画と言えるが、近年評価されているイラン映画は、何らかの社会問題を扱っているものが多い」と説明。2011年のベルリン映画祭グランプリを獲得したアスガー・ファルハディ監督『別離』にもその片鱗が見られるという。


ここで時間切れとなり、トークイベントは終了。会場は立ち見も出る満席となり、観客の関心の高さをうかがわせた。


なお、上述したイラン映画人21名の声明は、下記ウェブサイトに掲載されている(英文)。
http://www.iranhumanrights.org/2011/10/iranian-filmmakers-boycott/


(取材・文:花房佳代)





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