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【レポート】『静かな雨』舞台挨拶、Q&A

11月24日(日)、コンペティション部門の『静かな雨』が有楽町朝日ホールにて上映された。宮下奈都の同名デビュー小説を、新鋭・中川龍太郎が監督を務め、映画化。本作は第23回釜山国際映画祭に正式招待され、ワールド・プレミアを飾った。
上映前舞台挨拶には、中川監督、行助役・仲野太賀、こよみ役・衛藤美彩、音楽を手がけた高木正勝が登壇。

仲野は『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(16)に続いて、中川監督作品へ2度目の出演となる。仲野によれば、中川監督は「歩みをそろえて一緒に映画を作れる、数少ない同世代の仲間」。よりいっそうお互いを高めあい、刺激し合って作品をつくれる監督だと、今回あらためて思ったという。また、「主人公は観客が共感できる人間だというのが重要かなと、行助の感情に普遍的なものが宿るよう、心がけました」と語った。

 

衛藤は今年3月に乃木坂46を卒業、グループ在籍時に撮影した本作が、映画初出演および初主演作となる。どんな役柄かと訊かれ、観客へのネタバレを気づかって言葉に悩みながら、「すんなりと役に入れたのは、こよみさんのなかに自分に近い何かがあったからだと思いました」と振り返った。「たくさんリハーサルの時間をとってくださって、“衛藤さんらしさが出てほしい”と何度もおっしゃっていただいた。本当に助けられました」と、中川監督に感謝を伝えた。

 

高木は、これまでに細田守監督作品の音楽を手がけてきた。アニメーションの場合には絵コンテから劇判を制作するというが、本作では「届いた全編を観ながら、即興で弾いたものが最後まで残っているんです」と明かす。主演の2人とのセッションのようだったともコメントした。

中川監督は「原作のおとぎ話のような世界観を、現代を生きる若い世代にとっての寓話になるように映画化しました」と、本作のコンセプトについて語った。この上映がジャパン・プレミアである旨にも触れ、会場いっぱいに期待感がふくらむなか、上映がスタートした。

 

上映後にはQ&Aのため、中川監督が再び舞台上へ。

まずは本映画祭ディレクターの市山尚三が、企画についてたずねた。『四月の永い夢』(18)と現在公開中の『わたしは光をにぎっている』(19)を共同で作ったWIT STUDIOの和田プロデューサーから、2年ほど前、この原作を衛藤を主演に据えて映画化しないかというオファーがあったと中川監督は言う。「すぐに本を読んでみたのですが、うつくしい小説であると同時に、非常に抽象的な世界観を描いているので、映画でカタルシスをもって表現するのが難しいのではないかといちばんに感じました」と当初の不安を話す。「悩んだ末、塩谷大樹さんがカメラ、高木さんが音楽、そして太賀が主演をやってくれるという状況になってはじめて、映画化が可能なのではないかと思い、撮ることにしました」。

客席からは、「スタンダードサイズにした意図は?」という質問が寄せられた。中川監督はまず、足を引きずる行助を、希望を持ちづらい社会を生きていく自分たちの世代の象徴として描いたと説明。そして、「走るのも遠くに行くのも難しくて、視野が狭くなっている。その狭さを表現するために、このサイズを選択しました」と答えた。また、ラスト近くの、ドローンを使って撮影された壮大なカットに話は及ぶ。「あそこで行助には、自分とこよみさんだけではない大きい世界のつながり——街があって、その向こうには山があって、もっといえば大気や月、宇宙があって……という別の時間の存在に気づいてほしかった」。

さらに、原作との相違点についての質問がいくつか挙がった。「“静かな雨”にどんな意味づけをしたか」と訊かれ、中川監督は「原作では、外の世界への想像力、外の世界があるなかに自分たちの生活があることの象徴として描いていると理解しました」と答えた。しかし、作中で印象的な「雨が降っているのに、月が出ている」という描写は、原作にはないという。「原作から受け取ったものを表現するとき、“僕らの空間では雨が降っているけど、少し離れたところではきれいな満月が見えているかもしれない”という空間のズレ、時間の違いをあらわすために、思いつきました」と語った。

『静かな雨』は、2020年2月7日(金)より東京・シネマート新宿ほか、全国順次公開予定。
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(文・樺沢優希、写真・王 宏斌、白畑留美、穴田香織、明田川志保)


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