11月24日、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『白い光の闇』が上映された。本作は、第10回(2009年)東京フィルメックスコンペティション部門で『2つの世界の間で』が上映されたスリランカ出身のヴィムクティ・ジャヤスンダラ監督の最新作。生と死を巡る複数のエピソードが、美しい自然の風景の中で並行して綴られる。上映後は、編集を担当したサマン・アルヴィディガラさんと美術監督のラル・ハリンドラナスさんを迎えてQ&Aが行なわれた。 ジャヤスンダラ監督は、2005年にカンヌ国際映画祭で新人監督を対象にしたカメラ・ドールを受賞して以来、スリランカを代表する映画監督として活躍中。今回は新作の撮影のために来日が叶わず、「『2つの世界の間で』で東京フィルメックスに来た時のことを覚えています。今回来られずにすみませんでした。次はぜひお目にかかりたいです」とのメッセージが届けられた。
続いて、アルヴィディガラさんが制作の舞台裏を説明した。ジャヤスンダラ監督の前作『黄色い最期の光』(第13回東京フィルメックスで上映)から一緒に仕事をしているアルヴィディガラさんは、監督と同じくらいこの作品を知り尽くしている。その口からまず飛び出したのは、「この映画は5年かけて作りました」という驚きの一言。当初は商業映画のプロデューサーとともに制作を進めていたものの、その人物が映画の内容を理解できず、ジャヤスンダラ監督も別の映画を手掛けることになったため、一旦棚上げに。その後、再び監督がこの映画に意欲を見せたことから制作が再開した。「もう一度作ろうと思ってから、さらに3年かかって完成しました」短い言葉の中からも、完成までに紆余曲折あった様子が窺えた。
映画が上映された喜びを語ったのは、ハリンドラナスさん。「初めてこんな大きなスクリーンで見られて、とても嬉しかったです」実は、5年もの時間を費やしたこの作品に参加するに当たって、お金を一切受け取っていないという。「この映画を作っている間、お金を貰っていないことはとても大事です。この映画を通して、スリランカの仏教の考え方、哲学を皆さんに伝えたかったのです」
ハリンドラナスさんによると、ジャヤスンダラ監督は納得するまで時間を費やすタイプらしく、それも完成までに時間がかかった理由のひとつらしい。また、5年の間に映画の内容自体も、当初の予定から変わっていった。「その間に私たちの考え方も人生も変わっていきます。その時間が、この映画の味わいを生んだのではないでしょうか」
美しい自然の中でのロケ撮影が中心となった本作には、強い風や微妙な光の加減など、様々な自然現象が巧みに織り込まれ、スピリチュアルなムードも漂う。この点についてハリンドラナスさんは、「この映画はできるだけ自然を見せたいということで、撮影の時も強い風が吹くまでずっと待ちました。それによって、自然の強さや霊的な存在を感じることができたのではないでしょうか」。送風機などの機材やVFXなどのテクニックは一切使わず、映像はすべて自然現象が発生するのを待って撮影したものだという。さらにアルヴィディガラさんが「仏教の哲学と自然の哲学が一緒になって、この映画に出ていたのではないでしょうか」と補足した。
映画の内容にとどまらず、「ボリウッドを始めとした様々な外国映画が撮影されており、国産映画の製作本数は年間20~30本」など、スリランカの映画製作事情についても語ってくれたお二人。この作品のスリランカでの公開は来年に予定されているという。
『白い光の闇』は、11月27日(金)21:15よりTOHOシネマズ日劇3でも上映される。粘り強く撮影した自然の風景の中に、監督の仏教や哲学の考え方が込められたこの作品を、ぜひその目で確かめてほしい。
(取材・文:井上健一、撮影:明田川志保)