11月26日、コンペティション作品『酔生夢死』(チャン・ツォーチ監督)の上映が行われ、上映後にゲストによるQ&Aが行われた。登壇者は主人公ラットを演じたリー・ホンチーさん、ダーション役を演じたワン・ティンチンさん、プロデューサー・スーパーバイザーのカオ・ウェンホンさん。リーさんは本作の演技によって、今年の台湾金馬奨新人俳優賞を受賞している。
司会の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターが「主役ということで、大変なシーンが多かったかと思いますが」とチャン監督の演出について訊くと、リーさんは「監督は常に自由にさせてくれたので、のびのびと演技できました。撮影中、監督から何度も言われたのは、僕自身の感情を大事にするということ。自分の感じたままに表現することができました。監督と一緒に演技を作り上げていくという意味で、面白い仕事でした」と語った。
ワンさんはもともと演出部のスタッフだったが、撮影前のミーティングでチャン監督から、出演してみないかと提案されたそう。ワンさんは「ほんの数シーンだけだと思って承諾したら、こんなことになってしまいました」と会場の笑いを誘った。
カオさんは、本作のプロデュースを手がけるにあたり、冒頭に引用される李白の詩と、それから台湾の伝統音楽である「南管」を使う点に興味をひかれた、と語った。「何か今までと違う、新しいものが作れるのではないかという予感がありました」
客席からの最初の質問は、「蟻や娼婦は、主人公にとってはどのような存在でしょうか」というもの。リーさんは「僕の考えですが、ラットの生活の中で蟻は兄と同じようにとても近くにあるもの。しかし、ラットと兄は近いけど微妙な関係です。ずっと一緒にいた母はすごくよく喋る人ですが、それに対し娼婦は聾唖で話さないキャラクター。彼は自分に欠けているものを求めているのではないかと思います。物語の中で、主人公は愛する方法を学んでいます」と説明した。
続いて、リーさんとワンさんに「映画の中では時制が行ったり来たりしているが、それを理解して演技していましたか? 」という質問が寄せられたが、二人とも撮影中は構成をはっきりと把握していなかったそう。しかし「人生ってこんなものなんじゃないかと思っていました」とリーさん。「何かすごく嫌なこと、辛いことがあった時、それが何月何日何曜日かなんて覚えていないものです。ひどい目に遭ってもそのまま人生は続いていく。幸せな出来事があったときは、その過去に浸ってしまったり。そんなふうに、人生と同じように、映画も、時間軸というよりも感情の軸で動いているんじゃないかと思います」
ワンさんも「撮影の時は何を撮っているかよくわからなくて、各シーン、与えられたシチュエーションの中で演技していた」という。「出来事の全体がわからないまま、自分の目の前にあるものに相対していく、そんな感覚は人生の中でよくあることですよね」
完成作品を初めて観た時は、「びっくりしました。こんなふうに使って、編集するなんて思ってなくて、くらくらしました」とワンさん。「今回の上映も観ていたのですが、また違った気持ちになりました。人生って予測できないもの。断片的なものが集まってできている。そうやってばらばらに過ぎ去っていくものを監督はとらえたんだな、と思いました」
リーさんも「何回観てもよくわかりません…」と冗談めかして応じた後、「毎回違う感想を抱きます。今回は、詩的だな、と思いました。引用されている李白の詩のように、時を経て受け継がれ、さまざまな解釈が出来るような懐の広さを持っている。物事は明確でなかったり、記憶の中で時間が倒錯したりすることも多い。不確かで曖昧だけど、最後には心の中に残ってる、そんな映画だと思います」と余韻をかみしめるように語った。
続いて、カオさんに「プロデューサーとして苦労したところは?」という質問が寄せられた。チャン監督とは常にいろいろなことを相談できる間柄だというカオさんは、今回の脚本について「観る人がよくわからないんじゃないか」と悩む監督に「わからないままでいい」と助言したそう。「あなたが感じたもの、見せたいと思ったものをそのまま撮り、編集してください。観客や映画祭の審査員がどう思うか?と考えるのはひとまず置いておいて、自身がやりたいことを大切にしてください」と伝えたという。
最後の質問は、タイトルの意味を問うもの。「中国語の原題では「酔、生夢死」とコンマが入っていますが、どういった意味が込められているのでしょうか」
カオさんによると、酔の字が母を、生・夢・死が息子たちを示しているため、その間にコンマを入れたという。それぞれのキャラクターについて、リーさんは「母はアルコール中毒で、死んだまま生き、生きたまま死んでいるように時を過ごしています。生は生活、生存。兄は生きるためにホストとして働いている。でも、母は学歴のある彼の将来に夢を託していた。死は、僕が演じた弟です。死が身近にあるのを見つめている人物」と説明し、「しかし、死は文字通りの死ではなく、そこから何かが始まっているのではないかと思います」と付け加えた。
各人の言葉から溢れる作品への愛情に、会場からは温かい拍手が贈られた。『酔生夢死』は11月28日(土)21:15よりTOHOシネマズ日劇3にて二回目の上映が行われる。
(取材・文:花房佳代、撮影:白畑留美)