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審査員会見

11月25日、有楽町朝日ホールスクエアにて、第18回東京フィルメックスの審査員会見が行われ、各賞が発表された。

まず司会の市山尚三東京フィルメックス・プログラムディレクターより、学生審査員の鈴木ゆり子さんが紹介され、鈴木さんより学生審査員賞が発表された。受賞作は『泳ぎすぎた夜』(ダミアン・マニヴェル、五十嵐耕平/日本、フランス/2017)。授賞理由は「孤独や家族を複雑に描く作品が多い中で、本作はシンプルに見える映画だからこそまっすぐに届いた。すこし大人になってしまった私たちは、忘れてはいけないことを小さなタカラくんから教わった」と述べられた。マニヴェル監督は、「本当に素晴らしいコメントを頂き嬉しい」と日本語で感謝を述べ、五十嵐監督は「若い人たちにこの映画を届けられて嬉しい。本作はダミアンやタカラくんなど様々な出会いの映画。観客の皆さんもこの映画と出会うことで新たな発見や対話が生まれたら」と喜びを語った。観客賞については、集計中のため授賞式での発表となった。

次にいよいよコンペティション部門の結果発表へ移った。今回は審査員特別賞がなく、最優秀賞が2作品となる異例の結果となった。審査委員長の原一男監督より最優秀賞の2作品が発表された。受賞作は、西部劇の舞台を彷彿とさせるスンバ島のインドネシアの風景の中で新しい女性像を描いた『殺人者マルリナ』(モーリー・スリヤ/インドネシア、フランス、マレーシア、タイ/2017)、そして、生死を分けた双子の物語を現実と幻想が交差する世界観で描いた『見えるもの、見えざるもの』(カミラ・アンディニ/インドネシア、オランダ、オーストラリア、カタール/2017)の2作品。副賞としてそれぞれの監督に75万円が授与され、原監督より各作品の授賞理由が述べられた。

『殺人者マルリナ』の授賞理由は、「マカロニウエスタンの音楽に乗って戦うヒロインの敵は男と男性社会。心身ともにタフな女性像というエンターテインメント型アクション映画に込められたメッセージ。戦うヒロイン像を作り出した、イキのいい痛快な傑作の誕生」と評された。
『見えるもの、見えざるもの』については「双子として生を受けた姉と弟が生死を分けられる、理不尽とも言える命のありよう。現実とファンタジー、光りと影、昼と夜、過去と現在。それらの混在こそが地上のパラダイス。懐かしくて新しくて感動した傑作」と原監督ならではの詩的なスタイルで評した。

『殺人者マルリナ』のスリヤ監督は、2010年にタレンツトーキョーの前身のプロジェクトに参加した修了生。「再び参加できたフィルメックスで受賞できるとは思いもよらなかった。カミラ監督とともに受賞できたこと、初のコンペティション出品となるインドネシア映画で最優秀賞を受賞できたことを大変光栄に思う」と感動を表した。

『見えるもの、見えざるもの』のアンディニ監督は、関係者への感謝を述べ、「特に嬉しいのは、受賞した2作品の作風が全然違うということ。この全く異なる2作品を最優秀賞に選んでいただき“映画というものは、自由に様々な形で作っていいのだ”と証明してくれた。私たち女性監督の背中を押してくれたことにも感謝したい」と受賞への思いを語った。

ここで、開会式で「今年は観客の皆さんも一緒に審査しましょう」と観客へ呼びかけた原監督から新たな提案が。「我々審査員は特権的な地位にいるわけではない。開会式で提案した通りだが、観客の皆さんが審査したであろう授賞作以外の7作品についても審査員コメントを伝えたい。様々な評価の形を知り、自分の言葉を吟味する機会にしてもらえたら」と、映画祭の締めとして全作品の審査員評を公表すると伝えた。

『馬を放つ』(アクタン・アリム・クバト/キルビスタン、フランス、ドイツ、オランダ、日本/2017)については國實瑞惠審査員がコメント。「かつてTVの撮影で行ったキルギスで、主人公と同様に裸馬に乗った緒方拳さんを回想した。世界の変動がこの地にも押し寄せていると考えさせられた力作」
次に『トンボの眼』(シュー・ビン/中国/2017)を評したエレン・キム審査員。「人間が二つの目で見るという常識を壊し、何百何千というとんぼの目で表現した大胆さ。現実とは、アイデンティティとは何か。自分自身への本質的な問いかけを促し、人間の信念がいかに簡単に壊れるものかということを見せてくれた。新しい概念を持ち込むという意味では1つのアートと呼べる作品」
『ジョニーは行方不明』(台湾/ホァン・シー/2017)についてはミレーナ・グレゴール審査員より。「雰囲気に溢れ、登場人物だけでなく台北という都会的な街のポートレイトでもあった。人と人のつながりが煌くように表現された、視覚的にも聴覚的にもデビュー作と思えないほど素晴らしい作品」
クレランス・ツィ審査員より『氷の下』(ツァイ・シャンジュン/中国/2017)についてのコメント。「フィルム・ノワールの素晴らしい一例。抑圧された感情を抱く主人公の力強い演技が光った。氷の土地に息づく燃え盛るような魂の物語」
『泳ぎすぎた夜』については先ほどの学生審査員賞の授賞コメントを讃えつつ「作風も内容も重厚な作品で、技術的にも優れていた。少年と家族の物語でありながら、日本の地方の労働者階級の肖像としても拝見した」とツィ審査員。
『シャーマンの村』(ユー・グァンイー/中国/2017)については原監督より。「コンペ部門で唯一のドキュメンタリー。“神の導きに従って人間がどう生きるかということを表現したかった”というユー監督の言葉と、実際の作品内容の間には違和感を感じたが、彼にとっては映画の手法やテーマの一貫性など大したことではない。ただ目の前の愛する対象を記録したいという純粋な姿勢に感動した」
続いて『暗きは夜』(アドルフォ・アリックスJr/フィリピン/2017)について「かつて日本にあった社会派映画がフィリピンにあることを羨ましく思った。強大な権力を持つ指導者と、苦しむ民衆。”民衆を描いてこそ映画”という価値観から本作にシンパシーを感じ、エールを送りたい」と原監督。
各賞の発表及び表彰を終え、最後に審査委員長の原監督より総評が述べられた。
長年映画に携わってきた原監督は、最近は観客の映画を読み解く力が低下していることを危惧しているといい「批評の力が弱いと作家は鍛えられない。最近、作家のパワーが感じられないのは、観客の映画の読解力の低下と一対なのではないか。そして、一人ひとりの生きるエネルギーの低さが、映画のリテラシー低下に直結しているようにも感じる。もう一度、日本人全体でエネルギッシュに生き方を問い直し、かつて世界で日本映画が評価された時代があったように、映画に活力を取り戻したい。私は“お互いにもっと体をはって、生きることをかけて批評力を高めよう!”と観客へ呼びかけたい」と強いメッセージで締めくくった。

質疑応答に移ると、最優秀賞受賞作について質問が寄せられた。『殺人者マルリナ』のスリヤ監督は、本作のアイデアについて訊かれると「舞台のスンバ島を初めて見た時に西部劇のような風景だと感じて着想した。インドネシアの地方の村という共感しづらい場所に西部劇というエッセンスを取り入れることで理解しやすくなるとも考えた。アジア映画らしさを失わないよう日本の時代劇なども参考にした」と背景を明かした。今回はアジアの女性の地位や理不尽さを表現した作品が多かったように思うが、その点をどう捉えたかという質問に、グレゴール審査員は「見方によっては違う感想もあると思うが、今回は審査員として、普遍的な問題として拝見した」と述べた。最優秀賞に2作品を選んだ決定的な理由を訊かれると「作品作りのアプローチは異なるが、審査員全員が応援したいと思った2作品だった」とキム審査員が改めて語った。

最後に受賞者と審査員の記念写真を撮影し、第18回東京フィルメックスの審査会見が終了した。

(取材・文:入江美穂、撮影:明田川志保、吉田留美)


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