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『ニッポン国VS泉南石綿村』舞台挨拶、Q&A

11月25日(土)、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『ニッポン国VS泉南石綿村』が上映された。8年にわたる大阪・泉南アスベスト訴訟を記録したドキュメンタリー。舞台挨拶には原告団の柚岡一禎さん、佐藤美代子さん、志野善紹さん、石川ちう子さんと、原一男監督が登場した。

本作は上映時間215分、途中10分の休憩を挟んで前半・後半に分かれている。原監督は「私たちの作品の中で、一番長い映画になりました。前半と後半が同じだと思わないでください。転調があります」と予告し、最後まで観るよう呼びかけた。また、会場について「非常に思い出深い場所」と切り出し、30年前、『ゆきゆきて、神軍』(1987)で日本映画協会監督新人賞を受賞した際、大島渚監督から表彰状を受け取った場所だと明かした。

「市民の会」代表の柚岡さんは、「映画の中では私は怒ってばかりだけど、本当は優しいおじさんです」と自己紹介。原監督について、原告団の佐藤さんは「ときには泣きながらカメラを回し、私たちの思いを受け止めてくださった」、石川さんは「アスベストの苦しみをよく理解してくださった」と称賛した。原告を支援する「泉南アスベストの会」事務局長の志野さんは、「私たちもいつ被害に遭うかわからない。被害を食い止めるために、原告は頑張っている。本当は私たちが原告に支援されているのだと思う」とその思いを語った。

原監督は「今まで撮った映画はだいたいトラブルを起こしている。今回は作品が完成した後も、出演者と和気藹々と過ごせている珍しい映画」と話し、会場の笑いを誘った。

上映後は早速、Q&Aへ。観客から「複雑なテーマをどのように映像化しようと考えたか」と質問されると、原監督は「お手上げでした。普通の人を撮って、面白い映画になるはずがないと、最後まで思っていました。尖った人をどう撮れば面白くなるかは蓄積があるけれど、この作品については今もまだ不安です。皆さんが『面白い』と言ってくださるのを待っています。その言葉がないと、次の作品を作れません」と訴えた。

本作は前半と後半で大きく構成が変わる。「原告団の会議に同席していると、口を出したくなり、勢い余ってカメラの前に出てしまいました。黙っていられないという衝動の表現なんです」と原監督。

林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターの「原監督は邪魔ではなかったですか?」という率直な問いに、柚岡さんは「邪魔でした」といたずらっぽく一言。 「8年半、いつもこの人がいるんです。皆にはカメラを無視して、自分たちの考えや思いを自由闊達に話そうと伝えていました。でも、邪魔でした」と原監督への信頼が窺える口ぶりに、会場からも思わず笑いが洩れた。佐藤さんは「原監督は人の心を読み取り、原告の心にすっと入ってきました。私たちも監督にだったら、自分の思いを打ち明けられると思いました。一生懸命に撮ってくださるので、それに応えたかったのです。嫌だと思ったことは一回もありません」と信頼関係を伺わせた。志野さんは「柚岡さんを焚き付けて、裁判中に隠しカメラを回そうとか、突撃しようとか、絵になる場面を撮ろうと必死だった」と暴露。「一瞬そうかとも思うんだけど、はたしてそれは運動なのかといつも柚岡さんと喧嘩になった」と振り返りつつ、「原さんの主観も含まれているが、事実も記録されている。泉南の隠された歴史が後世に残ることは嬉しい」と感謝した。石川さんは原監督の熱心な取材姿勢を語り、「映画の公開を皆、心待ちにしている」とコメントした。

ここで、石綿問題の詳細なルポルタージュ『国家と石綿』(永尾俊彦著/現代書館)が紹介され、原監督より質問者に贈られると伝えられた。

続いて、「当初、隠岐で被害者の家族に取材を拒否されましたが、裁判で勝った後に変化はありましたか?」と観客から問われると、柚岡さんは「拒絶されたままです。石綿業には汚い、危険というイメージがあり、仕事をしていたこと自体を隠したい人も多い。被害者を探すのも大変でした」と説明した。

賠償の対象者が、1972年で線引きされた理由について、佐藤さんは「国が空調設備を整えるよう通達したのが1972年。ただ、小さい工場は資金がなく、そのままでした」と言い、佐藤さんの夫・健一さんはアスベストの仕事に32年間従事していたにも関わらず、1972年から勤務していたために対象から外されたと話した。

柚岡さんは「原告団のうち、8人が対象外となったが、そのいずれもが中心的に活動してきた人ばかり。この判決は勝訴と言えないのではないかと、弁護団と揉めました。ただ、国が責任を一定程度認めたことを評価しようと、泣く泣く妥協したのです」と言い、「世界各地でこれからアスベストの裁判が行われるが、泉南の判決はきっと無視できない」と今回の判決の意義を語った。

原監督は「水俣病など同様の裁判でも、100%原告団に勝たせる判決を出していない。必ず線引きをして外す人も生み出している。内部での反目を狙っているのではないかと思う」と指摘した。

ドキュメンタリーは時代の空気を記録するものだと、原監督は言う。「時代が悪い方向に進んでいるのではないかという危惧があり、権力者に対して黙っていられない気持ちを出演者に託した。裁判は国のシステムの一部にすぎない。その中で戦うことの限界を意識しているのかという疑問があり、弁護団に直接問い質した。原告団に対する批判も描いている。泉南のアスベスト闘争の記録ではあるが、今を生きる日本人が抱えている課題を明らかにしたい、という気持ちが強い」

いつも波乱含みで映画が完成するため、出演者から「カットしてほしい」と言われることが多いという原監督。今回もそう覚悟していたが、原告団の人たちに作品を見せたところ、「原さんの映画なので、カットしてほしいとは言いません。私たちはそのまま受け入れます」と言われ、「この人たちは見事だと思った」と称賛した。

『ニッポン国VS泉南石綿村』は第18回東京フィルメックスで観客賞を受賞。2018年3月より、ユーロスペース他での劇場公開も決まっている。

(取材・文:宇野由希子、撮影:明田川志保、吉田留美)


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