【レポート】『夜明け』Q&A

11月21日(水)、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門の『夜明け』が上映された。本作は、是枝裕和監督のもとで演出助手を務めてきた広瀬奈々子監督の長編デビュー作で、地方の町に現れた青年をめぐる人間関係の中に生じる複雑な感情の機微を紡いだ作品。上映後には広瀬監督が登壇し、「今日はお集まりいただきありがとうございます。先日、完成披露させていただき、Q&Aは日本で初めてなので楽しみです」と少し緊張した面持ちで挨拶した。

まず、市山尚三東京フィルメックス・ディレクターから、原作ベースの作品が多い中で、オリジナル脚本で映画化した本作の着想について訊かれ、広瀬監督は次のように応えた。
「大学卒業の年に東日本大震災があり、就職先が決まらず、悶々とした時期を過ごしながら、社会との関わり方に悩んでいました。その頃のことをベースにしようと考えました。当時、謳われていた絆や家族愛などに懐疑的な視線を加えたいと思い、関係性の美しい部分と闇の部分と両方を見つめようと思いました」
特に具体的な事件やニュースをベースにしておらず、企画を書いては是枝監督に見せるということを十数本繰り返して、ようやく認めてもらえたのがこの企画だったという。「映画化にあたっては、是枝監督からサポートを受けることができ、とてもラッキーでした」と述懐した広瀬監督。

次に、シナリオの書き進め方について、シナリオの構想では最初から結論があったのかどうかという点とアテ書きだったのかという点について話が及んだ。最初から結論があったかどうかという点については、「どこに決着するかわからないまま書き進めていた」と語った広瀬監督。気持ちと行動が一致しないシーンを作りたかったことや、上手く感情表現ができない人間が好きなので拙いまま終わりたかったこと、立ち止まって初めて行先を考え自分の足で自立に向かう終わり方にしたかったことなど、物語の着地点に至るまでの経緯を説明してくれた。

また、アテ書きだったかどうかという点について、小林薫さんに関しては先にオファーしていたそうだが、主人公に関してはアテ書きというわけではなかったという。「なかなか筆が進まない時期に柳楽優弥さんの名前があがり、柳楽さんの顔を思い浮かべると、柳楽さんの生きる欲求のようなものが筆を動かしてくれました」と広瀬監督。ただ、柳楽さんは師匠である是枝監督が見出した俳優だったことから、広瀬監督自身は、柳楽さんを主演に迎えることに抵抗があったそうだが、「その因縁が面白く作用するかもしれない」という予感もあったようだ。

続いて、その柳楽さんにどのような演技指導をしたかという質問があがった。広瀬監督は、「私が指導するというよりも、柳楽さんに引っ張ってもらいました」と述べた。役作りに関しては、柳楽さんが考え過ぎずに現場にいることを望んでいたため、できるだけリアクションに徹する、つまり、周囲のキャラクターに揺さぶられて反応するようにしたという。難しい役どころだったので、何度も話し合いを重ねたとか。

さらにカメラマンとはどういう経緯で組むことになったのかということに話が及んだ。カメラマンの高野(大樹)さんは、是枝監督が懇意にしているカメラマンのお弟子さんのような方で、これまでも何度か一緒に仕事をする機会があったという広瀬監督。「高野さんが撮る画は、被写体と微妙な距離を保ち、被写体に対する奥ゆかしさみたいなものがあって好きです」と述べ、カメラマンとの強い信頼関係に自信をのぞかせた。
ここで、会場で鑑賞していたアミール・ナデリ監督が挙手し、広瀬監督に次のような賛辞を贈った。
「素晴らしい映画をありがとうございました。エンディングも、ペースも、役者の演技も素晴らしかったです。見せすぎず最小限にとどめているところもとても良かったです。これからが楽しみな監督が出てきて、まさに、あなたのような人材が日本の映画界に必要だと思います。今後を期待しています。Cut!」

最後に、広瀬監督は、自身が撮影で一番感動したシーンのエピソードを披露してくれた。それは、主人公が海に出てくるシーンでのこと。「夜が明けてバックショットを撮り終えカットをかけたのに、柳楽さんが海を前にして動こうとせず、今、撮ってくれといわんばかりの背中をしておられたので、慌ててカメラを持って回り込み、光が射す柳楽さんの表情を撮りました。素晴らしいカットが撮れたなと思いましたが、後でご本人に聞いたところ、単に私の「カット」の声が聞こえなかっただけだったそうです」と語ると、場内は笑いに包まれた。

本作は、2019年1月18日より、新宿ピカデリーほか、全国ロードショーが決定している。日本映画界の期待の星、広瀬監督の今後をこれからも見守っていきたい。
追記
『夜明け』は授賞式にてスペシャル・メンション(※)を授与された。
※選外ではあるが特に審査員が触れておきたい作品がある年に授与される
文責:海野由子 撮影:吉田(白畑)留美

【レポート】『アイカ(原題)』Q&A

11月23日(金)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『アイカ(原題)』が上映された。モスクワの産院から脱走した25歳のキルギス人女性のアイカは、産後間もない体を酷使しながら借金返済のために働き、奔走する。モスクワに出稼ぎに来るキルギス人女性の過酷な日常を臨場感あふれる映像で描いた作品。カンヌ映画祭で上映され、主演のサマル・イェスリャーモワさんが最優秀女優賞を獲得した。
上映後のQ&Aに、セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督が登壇し「本日はありがとうございます。日本で2作目の上映を嬉しく感じます」と喜びを伝えた。
ドヴォルツェヴォイ監督作品の日本での上映は、2008年に東京国際映画祭にて上映された『トルパン』(08)以来。本作のストーリー設定のきっかけは「モスクワの産院で約250人のキルギス人女性が出産した新生児が放棄された」というショッキングなニュースを見たことだという。「私自身カザフスタン出身で、キルギス人女性はこんな冷酷な人達ではないとよく知っていたので、なぜこんな事件が起きたのかと興味を持ち、この設定を思いついたのです」と明かした。

会場からの質問に移ると、主演のサマル・イェスリャーモワさんをキャスティングした経緯と演出について質問が上がった。イェスリャーモワさんはドヴォルツェヴォイ監督の前作『トルパン』(08)でも主役を務めている。今回の主人公アイカは難役で、演じられるのはイェスリャーモワさんしかいないとオファーしたそうだ。「彼女はこの難役を演じられるか心配していましたが、私は逆にその姿を見て、彼女ならやれると確信しました」とドヴォルツェヴォイ監督。
過酷なシーン撮影が続く中で、モチベーションや感情をコントロールしてもらうことは難しかったが、イェスリャーモワさんの持っている才能を引き出すことを心掛けたという。「肉体的にもハードな撮影だったと思うが、常に全力で演じてもらうのは無茶なので、彼女の体調に合わせてシーンを撮影していきました。彼女自身の考えや感覚も尊重しながら彼女の持ち味を引き出せたと思います。独身で子供もいない彼女にとっては未知の世界を演じる不安もあったと思うが、体調面も含めよく演じてくれました」と、主演のイェスリャーモワさんを称えた。

手持ちカメラによる臨場感あふれる映像が強く印象に残る本作。撮影監督は、前作『トルパン』も担当したポーランド人の女性で手持ちカメラのコントロールに長けていたという。さらに監督自身も撮影していたと明かし「今回のカメラワークで特に重要視していたのは、人物の目の動きでした。目の中の風景が語るもの、訴えるかける表現をいかに撮るかということに集中しました。困難な撮影環境の中で、手持ちカメラで被写体を追っていくという撮影をよく成し遂げてくれました。本作は、彼女の中にある目を通して、そこで何が起きているかを表現したかった映画なのです。映画には、見えるものと見えないものがあるが、今回は、見えない部分を重要視したのです」と語った。撮影方法は半分がデジタルで、半分は16mmフィルムで撮影したという。16mmフィルムを使用したのは雪中での撮影に耐えるためで、地下鉄内のシーンでは小さなポケットカメラを活用したと撮影技法の工夫を明かしてくれた。
全編を通して背景にあるのが、豪雪に見舞われるモスクワの厳しい冬の風景。この大雪はもともとの設定だったのかという質問に「当初のシナリオでは春を想定していたのです」と、会場を驚かせたドヴォルツェヴォイ監督。「撮影予定が遅れ、たまたまモスクワで記録的な大雪となった時期にクランクインとなったのですが、私はもともとドキュメンタリー監督なので、この状況を使わなければと感覚で思いました。本作にとって、雪は大きな舞台装置であり、重要な登場人物なのです。雪という存在を通して、人々の生活、生き方を凝縮させた思いを表現できると思いました。主人公のような母親にとって、自然とは人々を育て養うもの、大地の恵みだと感じるのが一般的でしょう。しかし今回は大雪という背景を使うことで、逆に自然の怖さを表現したかったのです」と述べた。

最後に、主人公の背景を説明してくれたドヴォルツェヴォイ監督。「キルギス人女性がモスクワで働くのは、キルギスの1年分の給料を1ヶ月で稼ぐことができるからです。彼らは劇中のシーンのように、狭い部屋にひしめき合って住み、貧しい食事を食べ、一日中働いて故郷へ送金するのです。モスクワは家賃も高く、彼らキルギス人は床があるだけの一間を借りて生活をしているのです」。
本作は、今後国内でも公開を予定している。ニュースだけでは読み取れない、過酷な女性の現実がリアルに描かれた本作、日本でも多くの方へ届いてほしい。
文責:入江美穂 撮影:明田川志保

【レポート】『自由行』Q&A

11月22日(木)、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門の『自由行』が上映された。本作は、『私には言いたいことがある』(’12)以来7年ぶりとなるイン・リャン監督の新作で、東京フィルメックスでは4作目の出品となる。上映後にはイン・リャン監督が登壇し、「この作品は古い友人と語り合うような意図で作りました。馴染みの観客のみなさんがいるフィルメックスで上映していただくのにふさわしいと思います」と、観客との再会を喜び、監督自身が過ごしてきたこの6~7年間の総括となる本作について語ってくれた。

本作は、当局との問題を抱えたため中国を離れて香港に暮らす女性映画監督が、夫と息子とともに台湾の映画祭に参加する一方で、中国本土からツアー客として台湾にやってきた母親と久しぶりに再会するという物語。中国から香港に移住して創作活動を続けるイン・リャン監督の境遇を投影した作品である。イン・リャン監督は、本作が実際に体験した台湾旅行に基づくこと、実体験で再会したのは自分の妻の親である点が異なることを説明。制作の動機としては、現在5歳の息子が、将来成長して、なぜ祖母に会うために台湾へ行ったのだろうかと考えたときに、本作から解きほどいてもらいたいからだという。また、「中国人は何世代にもわたり苦難に見舞われてきました。国家に対する怖れを直接的に表現することができません。私はその部分を映画で変革したいと思いました」と続けた。イン・リャン監督は来場していた夫人と息子さんを観客に紹介し、観客から温かい拍手が寄せられた。
また、劇中の女性監督が自らを「異邦人」と称する場面について、イン・リャン監督は次のように説明した。「人生の中で、自由というものに価値があるとするならば、自由を得られないということは、すなわち失望です。故国に自由がなければ、自由の価値を手放すか、あるいは、手放さずに故国を離れるという選択肢があって、故国を離れた時点で国籍を越えた異邦人となるのです。」
続いて、主人公を女性監督に設定した点やシナリオについて話が及んだ。脚本は、イン・リャン監督、監督夫人、香港の小説家チャン・ウァイさんの3人で担当。チャン・ウァイさんが参加したことにより、自分たちには近すぎて見えていないことが、見えてきたという。主人公を男性監督として描くと、100%監督自身のことだろうと言われてしまうため、自分と同じような境遇の多くの人たちの集団的な経験を組み込むために、女性監督に設定したという。また、チャン・ウァイさんが母娘を題材とした作品を得意としていたことは、母娘の関係性を描く上で良い効果をもたらしたようだ。

最近、香港の永久居留権を得たというイン・リャン監督。香港に移り住んだ当時は、多くの困難があったそうだ。「多くの人たちの支援を得て、7年経ち、ようやく永久居留権を得ることができたのが今年の9月28日のことです。まさに、雨傘運動が起きた日と同じ日で、特別な意味合いがあると思います」と振り返った。しかし、香港では、多くの監督が大陸の目を怖れて作品を発表できないという問題があるという。それでもイン・リャン監督は、「状況がどうあれ、自分が語りたいことがあれば、映画で表現したいことがあれば、そして、それを観てくださる観客の方がいるのであれば、私は撮り続けていくと思います」という力強いメッセージを残してくれた。会場からは大きな拍手が寄せられ、質疑応答が終了した。
本作は、11月25日(日)にTOHOシネマズ日比谷スクリーン12にてレイトショー上映される。イン・リャン監督のさらなる飛躍に期待したい。

文責:海野由子 撮影:吉田(白畑)留美

【レポート】『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』

11月22日(木)、TOHOシネマズ日比谷12にてコンペティション作品『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題) 』が上映された。舞台は中国貴州省の凱里。父の葬儀のために久しぶりに帰郷し、ネオンに彩られた街を歩く主人公ルオの脳裏に、過去の記憶がよみがえる。約1時間にわたるワンカットの3Dに挑戦した、野心的な作品だ。上映後のQ&Aにはプロデューサーのシャン・ゾーロンさんが登壇した。

シャンさんは、2010年の東京フィルメックスの人材育成事業「ネクスト・マスターズ・トーキョー」(「タレンツ・トーキョー」の前身)の修了生。本作の中国での劇場公開直前のタイミングのため、プロモーションなどに多忙で来日が叶わなかったビー・ガン監督の代理で出席した。
観客からはまず、3Dのシーンの撮影手法についての質問が挙がった。
シャンさんは「長回しはビー・ガン監督がどうしても譲れないところでした。ただ、3Dカメラでの長回しは難しく、2Dのカメラで撮影し、後から3Dに変換しました」と説明した。3台のカメラで撮影し、ワンカットに見えるよう、2回繋いでつくっている。ドローン撮影も取り入れ、様々な手法を駆使した。撮影には2度挑戦したが、1回目は何テイク撮っても失敗。人気俳優が出演している作品のため、なかなか彼らのスケジュールを確保できなかったが、今年2月に全員が集まり、再チャレンジした。5日間で準備し、2日に分けて撮影。5テイク中2テイクが成功したという。

劇中、馬が突然暴れ出す場面がある。どうやって撮影したかとの質問には、「あのシーンは天の采配です」とシャンさん。馬も何回もやらされて疲れきっており、怒りを爆発させたタイミングだった。そこへやはり疲れ切っていた主人公二人が登場。映画の雰囲気とも合っていたことから、そのまま採用したそうだ。
主題歌には中島みゆきさんの「アザミ嬢のララバイ」が使われている。ビー監督はこの曲を聞きながら脚本を書いていた。そこでシャンさんは、この楽曲を映画で使えるよう奔走したが、ビー監督は最後になって「使わない」と言った。そのため、カンヌ映画祭では別の中国の曲がかかっている。しかし、シャンさんが「すでに予算超過している作品なのに、この曲のために高額の楽曲使用料を払っているのだから、使わないのはおかしいだろう」と言ったところ、ビー監督も同意し、この楽曲を使うことになったのだという。

最後に、「3Dは上映の機会が限られる面もあるのでは」と観客から指摘されると、「いいご質問をありがとうございます」と答えるシャンさん。中国では80~90%の映画館が3Dに対応しているので問題はない。しかし、例えばフランスでは40~50%と各国で状況が異なる。そのため、2D版と3D版の両方を提供することにしているが、「製作サイドとしては、できるだけ3Dで観てもらいたいと考えています。これは技術的な面ではなく、映画の美術を追求した結果、3Dの方がいいと判断したためです」と訴えた。
なお、本作は2019年夏に日本の劇場公開が予定されている。ビー監督の長編第1作『凱里ブルース』(15)も併せて公開される可能性があるとシャンさんから発表されると、会場からは一際大きな拍手が起こった。

※深夜にもかかわらず多くの方が残ってQ&Aに参加してくださいました。
文責:宇野由希子 撮影:明田川志保

【レポート】『シベル』Q&A

11月21日(水)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品の『シベル』が上映された。本作は、トルコの山岳地帯にある村を舞台に、言葉を喋れない少女シベルの逞しい生き様を通じて、様々な問題を浮き彫りにしたドラマ。上映後には共同で監督を務めたチャーラ・ゼンジルジさんとギヨーム・ジョヴァネッティさん、そして主人公シベルを演じたダムラ・ソンメズさんがQ&Aに登壇。客席からの質問に答える形で、作品の舞台裏を語ってくれた。

 これが三作目となるチャーラ・ゼンジルジ監督とギヨーム・ジョヴァネッティ監督のコンビは、前作「人間」を全編日本で撮影している。そこでまず、ジョヴァネッティ監督が「5年前、日本で映画を作りました。今日は東京に戻ってこられて幸せです」と日本語で挨拶した。

Q&Aでは、まずジョヴァネッティ監督が物語の舞台となった地域について説明。豊かな自然と森の風景が印象的なこの村が存在するのは、トルコ北東部の黒海に面した山岳地帯。トルコの他の地域と比較して森林が多いのが特徴で、その反面、生活するには厳しい環境でもある。「そういう地形的な事情により、人々は昔から口笛で会話する文化を育んできました」。その口笛を使った独特の会話法は、本作で重要な位置を占める。口のきけないシベルは、全ての会話を口笛で行なうからだ。

シベル役のダムラ・ソンメズさんは、劇中でその口笛を見事に使いこなし、力強い演技と併せて見る者に鮮烈な印象を残す。だが、彼女にとっては「全てが初めての経験」。当初は「何から手を付ければいいのかわからなかった」のだという。そこでまず、長い時間を掛けて監督たちと一緒に口笛で会話する文化について学び、自分のリズムで喋れるように、言葉を口笛に「翻訳」する作業を実施。さらに、ひとつひとつの動作と口笛のタイミングがシンクロするまできめ細かい練習を積み、シベルという主人公が出来上がった。

ゼンジルジ監督は、そんなソンメズさんについて「信じられないほどの努力を積んだ」と絶賛。これに応えてソンメズさんが劇中と同じように口笛を吹くと、客席から大きな拍手が送られた。
さらにゼンジルジ監督は、日本人に馴染みの薄いトルコの村を舞台にしたこの物語で描かれた社会的な問題について説明。
「映画を製作する時は、地域性を意識しながらも、普遍的に描くことを心がけています。この作品で扱った問題は、トルコに限らず、全世界で起こり得る事」と前置きした上で、2つの問題を挙げた。

まずひとつ目が「女性に対する社会の不平等」。近年は世界的な問題でもあるだけに、「もしかしたら、日本も似たような状況にあるのでは」と指摘した。
さらに、2つ目の問題として「父権社会、家父長制が女性に与える影響」を挙げると同時に、「父権社会、家父長制が男性に与える影響も意識した」と補足。そして、「どれほど(女性を公平に扱う)進歩的な家庭で育った男性でも、社会に出て何らかの問題に直面した時は、元に(旧態然とした家父長制、父権社会的な態度に)戻ってしまう可能性がある」と問題を提起した。
この他、ヨーロッパでインディーズ映画を作る難しさや合作映画におけるプロデューサーの重要性など、日本では知りえない欧州の映画製作を巡る事情についても説明。数々の質問に、予定時間をオーバーしながらも丁寧に応じてくれた。
『シベル』は11月23日(金・祝)21:15より、TOHOシネマズ日比谷12にて2度目の上映がある。上映後の舞台挨拶では、この3名に加え出演のエルカン・コルチャックさんも登壇予定だ。
取材・文:井上健一 撮影:明田川志保

【レポート】『轢き殺された羊』Q&A

11月20日(火)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『轢き殺された羊』が上映された。チベットの荒地で、トラック運転手のジンパは同じ名を持つ男を車に乗せる。彼はこれから父の仇を討ちにいくのだという。カラーとモノクロ映像を挟み、二人の出会いを現実と幻想を入り交えながら描いた。上映後のQ&Aにはペマツェテン監督と、録音技師のドゥカル・ツェランさんが登壇した。

ペマツェテン監督は、東京フィルメックスのコンペティションへの参加は3回目となる。過去に『オールド・ドック』(11)では最優秀作品賞を、『タルロ』(15)では最優秀作品賞及び学生審査員賞を受賞している。ペマツェテン監督は、「フィルメックスにまた新作を持ってこられて嬉しいです」とコメント。ドゥカルさんは、「フィルメックスへの参加は初めて。皆さんと一緒に映画を観られて嬉しいです」と挨拶した。

本作は二つの短編小説が原作となっている。一つはツェリンノルブさんの『人殺し』、もう一つはペマツェテン監督の『轢き殺された羊』だ。数年前に『人殺し』を読んだ監督はぜひ映画化したいと考えたが、5000~6000字程度と短い小説だったため、それが難しかった。そこで、自身の短編小説と組み合わせることを思いつく。『人殺し』は父の仇を討とうとする男、『轢き殺された羊』は轢き殺した羊の魂を来世に送ろうとする男の物語であり、その二つを軸に話を構成した。

脚本が完成したのは4年前。その頃、ウォン・カーウァイ監督の製作会社ジェット・トーン・フィルムズがチベットを題材にした作品を撮りたいと考えていたため、ペマツェテン監督に声が掛かった。一度ロケハンに行ったが、その時は作品として成立しなかった。脚本を練り直し、申請が通った結果、ウォン監督がエグゼクティブ・プロデューサーとして制作に参加することになったという。

映画の冒頭には、チベットの箴言が登場する。「夢を話しても忘れられる。夢を実行したら覚えられる。関係ができると、私の夢はあなたの夢になる」。これは、チベット族の間では共有されている概念だが、チベット族以外の人にはこの映画で語ろうとすることは分かりづらいかもしれない。そう考えたペマツェテン監督は、物語をリードし、映画の雰囲気をつくる要素として、この箴言を冒頭に置いたのだという。

「この作品を観た人は、トラック運転手のジンパの夢の中に、復讐をしようとしているジンパが出てくると考える人もいるかもしれません。夢か現実か、映画の中でははっきりと語っていません」とペマツェテン監督は言い、解釈は観客に委ねたいと語った。狙いは映画自体がまるで夢であるかのようなイメージで撮ること。「二人のジンパは表裏一体で、一人の人間の両面を表しているともいえる。物語を強化すると共に、荒唐無稽な雰囲気も出したかったため、主人公の名前を同じジンパにしました」とペマツェテン監督は明かした。ジンパには、チベット語で「他者のために施しをする」という意味がある。「互いに名前を尋ねるシーンでは、二人が対になるように撮影しました。鏡に映った一人の 人物の両面であるように表現したいと思ったからです」

エンドロールで流れる主題歌も印象的だ。これはチベットの「西蔵病人」というバンドの楽曲で、「悔いの中で人生を送る」という歌詞のテーマが映画に登場する人物の心情とも合うことから選んだ。歌手は、主役のトラック運転手を演じた俳優ジンパさんの実弟だという。

ペマツェテン監督がプロデューサーを務めた、ソンタルジャ監督の『草の河』(15)でも、音響・音楽を担当しているドゥカルさん。現在、監督として準備中の一作があり、年末から撮影に入る。音楽の要素を盛り込んだロードムービーで、遊牧民を描く。ジャ・シャンクー監督がエグゼクティブ・プロデューサーを、ペマツェテン監督がプロデューサーを務める予定だ。ドゥカルさんは、「新作を持って、またフィルメックスに来たい」と決意を語った。作品の上映を楽しみに待ちたい。

文責:宇野由希子 撮影:明田川志保

【レポート】『幸福城市』Q&A

11月20日、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『幸福城市』が上映された。

本作は、2056年という近未来の台北を舞台にした刑事の物語から、現在、過去と主人公の人生を遡る3部構成の作品。監督、脚本、編集を担当したホー・ウィデン監督の長編3作目で、トロント映画祭のプラットホーム部門で最優秀作品賞を受賞した。上映後のQ&Aにホー監督が登壇し「本日はせっかくのいいお天気の中、こんな暗い映画を見にきていただきありがとうございます」と会場の笑いを誘った。

映像美やカメラワークが印象的な本作はフィルムで撮影された作品。市山尚三東京フィルメックスディレクターからフィルムでの撮影を選んだ経緯を訊かれたホー監督は、フィルム撮影が得意で、今までも3本の作品を35mmフィルムで撮影してきたという。「パリのラボで大量の富士フィルムが見つかり、誰も使わなかったら劣化してしまうので使いたいと思って。台湾にはまだ現像所もあるし。35mmフィルムを使ってみたいという若手作家がいたら、高いからやめた方がいいと止めるのではなく、どこかに未使用のフィルムがあるかもよ、と言いたい」と微笑んだ。

会場からの質疑応答では冒頭から多くの手が上がった。最初の質問は、全編を通して効果的に使われていた主題歌について。台湾では80年代を代表する有名な曲で、歌手のリウ・ウェンジェンさんの曲だそう。「主題歌には、母親を象徴するような、母親の時代の曲を探していた。編集中に見つけたこの曲は、”私に愛を与えすぎないで”(原題:愛不要給多太)という曲名もストーリーにぴったりだった」と明かしてくれた。

第1部の初老のチャン役はホウ・シャオシェン作品の常連でもあるガオ・ジェさん。彼と同世代の役に、台湾のロックバンド「メイデイ(五月天)」のストーンさんをキャスティングした経緯について訊かれると「台湾で希少な”いぶし銀”的な俳優、ガオ・ジェさんはすぐ決まった。ストーンさんにこの役をオファーしたのは、一見、悪者に見えない、でも心の底に何かありそうな人物像が、たまたま見つけた彼の雰囲気にぴったりだったから。お金持ちで表面的にはいい人そうだけど、悪者っぽい感じが良かった」とホー監督。物語については、偶然が多すぎるなど批判もあったが、台湾で実際に起きたニュースを元にしていると説明した。

未来、現在、過去と時系列を遡る構成は、シャワーを浴びている時に思いついたというホー監督。「この手法は、イ・チャンドン監督の『ペパーミント・キャンディ』(99)のようだと言われることもあるが、もっと昔のジェーン・カンピオン監督の『ルイーズとケリー(原題:Two Friends)』(86)で使われたのが最初だと思う。その後、ギャスパー・ノエ監督の『アレックス』(02)にも影響を受け、いつかこの手法で撮りたいと思っていた」と述懐。

撮影監督にフランス人のジャン=ルイ・ヴィアラールさんを起用した理由、フィルム撮影の魅力については「映画におけるヨーロッパの審美眼が素敵だと思っている。パリで大量のフィルムを発見してくれたのも彼だ。私はデジタルでしゃれた映像をとる人ではなく、フィルムでしっかり撮影できる撮影監督を起用する。フィルムの柔らかい雰囲気が好きだ。デジタルの時代は、明るく、シャープに、クリーンに、という整った映像ばかりにこだわっている。そもそも、映画製作とは未完成なものだと思っている。ピントが合っていないとおかしいという人もいるが、私はそれこそが映画だと思う」と監督自身の映画への思いを語った。シーン毎にメイク直しされた顔も不自然に映るので、俳優たちにはできるだけノーメイクで演じてもらったというエピソードも。

最後に、ホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』が想起されたという観客からタイトルについて訊かれると「今の中国には、消費者心理を惹きつけるために”幸福”という広告コピーが街中に溢れている」と原題のヒントを明かした。英題の「Cities of Last Things」については「作家のポール・オースターが好きで、彼の作品「最後の物たちの国で (原題:In The Country of Last Things)」の語感が良かった。「最後の物」には宗教的な意味合いがあり、天国と地獄、審判、死、という4つの要素を指している」と説明。ここで惜しくも時間となり、活発な質疑応答が終了した。
本作品は、11月21日(水)21:15よりにTOHOシネマズ日比谷12にて再上映される。

文責:入江美穂 撮影:吉田(白畑)留美

【レポート】『幻土(げんど)』

11月19日(月)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『幻土』が上映された。シンガポールの刑事ロクは、埋立地の建設現場で働く中国人移民労働者ワンの失踪事件を担当する。次第に明らかになっていく男の過去。上映後のQ&Aにはヨー・シュウホァ監督と、撮影監督の浦田秀穂さんが登壇した。

ヨー監督は、東京フィルメックスの映画人材育成プログラム「タレンツ・トーキョー2015」の修了生でもある。「この映画の企画は、タレンツ・トーキョーから始まりました。完成した作品をフィルメックスのお客様に観ていただけて嬉しいです」と挨拶し、企画の着想を語った。
「原題『A Land Imagined』は、私が魅了されている母国シンガポールを表しています。シンガポールは50年以上前の植民地時代より、他国から輸入した砂で土地を埋め立て、今では国土を25%拡大しています。人口の1/4が移民であり、重労働者の99.9%が移民です。シンガポールを描くには、彼らの物語が欠かせないと思いました」

浦田さんは、2011年からシンガポールのラサール芸術大学で教授を務めている。脚本の草稿は3年前に受け取り、クランクイン前に6~8ヵ月かけて監督と撮影場所を探した。監督からの唯一のリクエストは、「今まで見たことのないシンガポールの夜を撮ること」。美術監督はイギリス人、プロデューサーはスペイン人であり、浦田さんは「僕も含めてアウトサイダー的なスタッフを集めたのではないか」と指摘する。撮影では事前にカット割りはせず、現場で決めたという。

劇中では様々な音楽が使われている。観客から「途中で懐かしい感じのする曲が流れましたが、選曲の理由を教えてください」と尋ねられると、ヨー監督は「夢の世界を作り上げるため、記憶の引き金となるような音楽を選びました」と明かした。「ご質問いただいた曲は、80年代の日本の曲をマレーシア人の歌手がカバーし、台湾で人気を博したバラードです。そういうミックスされた要素も、この作品にぴったりだと思いました」

現実的な労働問題に、幻想的な夢の要素を取り入れた理由について、「敢えて違う手法で撮りたかった」とヨー監督。「シンガポールは、繁栄しているという意味で夢の都市といわれますが、埋め立てによって自らをつくり直し続け、変容する国でもあります。たった数年で国の形が変わります。そこで生きる私自身が、いつも夢の場所にいるかのようなふわふわした感覚を味わっています。足元にあるのは堅固な土ではなく、砂です。映画をつくる過程で様々な移民労働者に会いましたが、面白いことに彼らもシンガポールでの生活は夢の中にいるようだと言っていました。私自身の立場は映画の刑事ロクと同じ。移民労働者と背景は違いますが、映画では夢で皆の意識を繋げました。厳しい労働環境だけでなく、シンガポールで生きるという経験を表したかったのです」

ヨー監督の発言を受けて、浦田さんは「中国語のタイトル『幻土』の『土』には、マイノリティーという意味もあります。刑事ロクは、シンガポールのメタファーと捉えて撮影しました」と解説。「実は許可が下りず、きれいな景色はほとんどマレーシアで撮っています。そういった意味で、現実的な描写とコントラストが生まれたと思います。シンガポールに山はありません。そういったことも含めて、この映画は監督が夢見たシンガポールだったんでしょうか?そうですよね?」と浦田さんが念押しすると、会場から笑いが起きた。

ヨー監督は「そうです。かつてはシンガポールにも山があったのですが、埋め立てで平地になりました」と同意。「私は前作でドキュメンタリーを撮り、半分はドキュメンタリー作家という意識があります。撮影の制約はありましたが、できるだけリアルなシンガポールを捉えたいと思い、様々な手法を使いました。主役以外は本物の移民労働者です。それは作り物ではいけないと思ったからです」
本作は第71回ロカルノ国際映画祭で金豹賞、第63回バリャドリッド国際映画祭で撮影監督賞を受賞。『幻土』は11月22日(木)、有楽町朝日ホールでも上映される。

文責:宇野由希子、撮影:村田麻由美、明田川志保

【レポート】『マンタレイ』Q&A

11月19日(月)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品の『マンタレイ』が上映された。本作は、世界的に注目を集めるロヒンギャ難民の問題を念頭に、1人の漁師と彼に助けられた男、そして漁師の別れた妻が織り成す人間模様を綴ったドラマ。上映後にはプッティポン・アルンペン監督がQ&Aに登壇し、客席からの質問に答える形で、作品に込めた思いを語ってくれた。

登壇したアルンペン監督はまず、「ロヒンギャ難民に捧ぐ」と冒頭に表示される意味を含めて、本作が誕生した経緯を語った。
企画がスタートしたのは2009年。具体的な内容は未定のまま、国境を舞台にアイデンティティをテーマにした作品を作りたいと考えていたアルンペン監督は、2010年にあるニュースを目にする。それが、迫害を逃れてミャンマーを出国したロヒンギャの難民300人が、タイから入国を拒否され、行方不明になったという痛ましい事件だった。
「国籍や宗教の違いがこの悲劇を生んだと考え、それを物語にしたいという思いから、この映画が生まれました」。

さらに、2015年にはマレーシアとタイの国境付近で、地中に埋められたロヒンギャの難民の遺体が多数発見されるという衝撃的な事件も発生。この事件も映画に取り入れたいと考えたアルンペン監督は、発光する石や赤ちゃんの人形など、地中から様々なものが出てくるという形で表現している。
また、本作で強い印象を残すのが、夜の森に浮かぶ色とりどりの光や色彩感覚に溢れた遊園地の照明など、随所に盛り込まれた鮮やかな光のイメージ。
ここには、アルンペン監督自身の体験に基づく思いが込められている。2009年にタイとミャンマーの国境地帯を旅した時のこと。国境を守る施設もなく、警備の兵士すらいない場所に辿り着いたアルンペン監督が目にしたのは、モエイ川という小さな川。そこでは、タイ側からやって来た少年2人と、ミャンマー側の少年1人が、一緒に仲良く遊んでいたのだという。
「その時、感じたのです。想像上の国境や私たちを隔てる線のようなものは、実際には存在しないのだと。その想いを映画的言語に落とし込もうとした結果、生まれたのがこの光を使った演出です。有機的で美しい森に、人工的なLEDの光が入り込む様子が、それを象徴しています」。

タイトルになっている「マンタレイ」とは、日本名「オニイトマキエイ」という巨大なエイの一種を指す。劇中ではラストにそのイメージが挿入されるが、ここにも監督の深い思いが。
ダイビング好きなアルンペン監督は、2009年に初めて訪れたアンダマン海でマンタレイに遭遇する。未知の生物だったために恐怖を感じたものの、「後で調べてみたところ、実はとても人なつこい生き物だと分かりました」。
タイトルは、その時の経験からつけられた。未知の相手に対して、無条件に恐怖を感じる人間の性質を実感したアルンペン監督の中で、それがロヒンギャの問題と結びついたに違いない。

この他、漁師の妻役にタイの有名な歌手を起用したというキャスティングの裏話や、フランスなどとの合作映画になった経緯など、アルンペン監督はひとつひとつの質問に丁寧に回答。Q&Aは短いながらも充実した時間となった。

取材・文:井上健一、撮影:明田川志保

【レポート】『空の瞳とカタツムリ』舞台挨拶、Q&A

11月18日(日)、有楽町スバル座にて特別招待作品『空の瞳とカタツムリ』が上映された。上映後、舞台挨拶とQ&Aが行われ、斎藤久志監督、出演者の縄田かのんさん、中神円さん、藤原隆介さん、脚本を担当した荒井美早さんが登壇した。

左より斎藤監督、縄田さん、中神さん、藤原さん、荒井さん
斎藤監督より「どういう感想を持たれたかぜひお聞かせいただければ」と一言。本作が初めての主演作であった縄田さんは「撮影期間は10日間で、本当に濃い毎日でした」と振り返り、「役と自分が同化する瞬間や、観ている景色、光、匂い、空気が触れる瞬間を味わうことができて、贅沢でかけがえのない瞬間を経験させてもらった」と挨拶。初めてセリフのある役をもらったという中神さんは「斎藤監督はカメラを回すまでのテストを何回もするので、映画でこんなにカメラが回らないものなんだ」と思ったそうだ。初めて映画出演となった藤原さんは「オールアップがちょうど19歳の誕生日でその日に、濡れ場のシーンがあって、前貼り記念で19歳になった壮絶な誕生日でした」と笑いながら話し、「スタッフさんから貰ったケーキと花束をもらって、それを見ながら僕は役者で生きていこうと覚悟した作品」だと語った。荒井さんは「不器用な人たちもいるんだと思ってもらえたらうれしい」と挨拶した。




そのままQ&Aに移り、市山尚三東京フィルメックスディレクターが作品制作の経緯を尋ねたところ、アクターズ・ビジョンのワークショップから始まったそうだ。「相米慎二さんが遺したタイトル案である『空の瞳とカタツムリ』で荒井さんに脚本を書かないかという話が荒井さんに伝わって物語が出来上がりました」と斎藤監督。続けて、市山ディレクターがタイトルからインスピレーションを得て書いたのかという問いに「タイトルをいただいた時に、カタツムリのことを調べました」と荒井さん。調べるとカタツムリが交尾をする時、恋矢(れんし)という生殖器官を頭に突き刺すことを知り、その恋矢を突き刺すことは相手の寿命を低下させることを知って、本作を着想したそうだ。

本作は縄田さんをキャスティングすることは早めに決まっており、脚本が出来上がった時に、ワークショップに受講していた中神さんが決まったそうだ。中神さんは「もともとワークショップの時は縄田さんが演じた役を与えられていて、縄田さんがその役に決まったので、もう一人が決まらなくて、オーディションすることになり、立候補しました」と配役のエピソードを話してくれた。

リハーサルも本番テイクも重ねる制作方法に質問に対し、斎藤監督は『サンデイドライブ』(2000)まではフィルムでテイクをあまり重ねることはできなかったが、デジタル以降はそれが可能になったと前置いたうえで、「演じるということより、そこに存在してほしい、芝居しているかわからなくなるくらい彼女たちを麻痺させたいという想いが伝わっているのでは」と斎藤監督は話した。
作中の2人の女性が再会するのではという質問に荒井さんは「10代、20代は付き合ったり別れたりしてたんですけど、30代になってまた一度別れても40年後に会うことができるのかもしれないように、2人はまた出会うかもしれないです。出会うことができなくても別の人の中に生きていて出会うことができるのだと思います」と答えた。
作中に出てきた映画館はどこにあるのか、という質問が上がり、斎藤監督は「あれは高崎電気館という場所で、今は映画館として機能していませんが、イベントとして高崎映画祭で使用される場所です。映画館のシーンは朝から夜中の2時までかけて撮影しました」と回答した。
市山ディレクターが映画評論家の宇田川幸洋さんが出ていられましたね、とコメント。それを受けて、「宇田川さんは面白い人で、過去にも作品に出てもらったのですが、今回もお願いして高崎まで来てもらいました」と斎藤監督。
本作が映画初出演の縄田さん、中神さん、藤原さんの映画で演技をしたことについての質問が及び、まず縄田さんは「今までは舞台が多かったんですけど、自分の中であまり違いは感じていません。でも、撮影を経ていく上で、アンテナのようなものが張った気がします」と語った。中神さんは「今まで頭の中で役を考えて演じていましたが、すごく楽にお芝居ができるようになりました」と答えた。藤原さんは「演じていたというより、存在しようって思いました」と語った。
作品の物語性の質問に対して、斎藤監督は「お話という部分に関しては脚本家が作っています。一緒に話しながらつくっているものもありますが、基本的に荒井さんのオリジナルストーリーです」と話したうえで、「特殊な人たちかもしれないけれど、特殊であると簡単に捉えず、存在している一人一人は誰の心の中にもある存在として、自分自身の中に投影して作っていました」と語った。
本作は2019年2月に公開を予定している。市山ディレクターが「ぜひとも知り合いの方にお勧めいただきたい」と締めの言葉を語り、会場より温かい拍手が送られた。

文責:谷口秀平、撮影:明田川志保、吉田(白畑)留美