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『ぼっちゃん』舞台挨拶、Q&A
from デイリーニュース2012 2012/12/ 1
12月1日、有楽町朝日ホールにて、特別招待作品『ぼっちゃん』が上映された。上映前に舞台挨拶が行われ、大森立嗣監督をはじめ、出演者の水澤紳吾さん、宇野祥平さん、淵上泰史さん、田村愛さんが登壇した。2008年に実際に起こった"秋葉原無差別殺傷事件"の犯人をモデルにした渾身作のワールドプレミアとあって、会場には多くの観客が詰めかけ、盛大な拍手が贈られた。
最初に大森監督が「昨年の春撮影した作品が、やっとスクリーンで上映できて嬉しい」と挨拶。続いて、出演者がそれぞれ、観客へ挨拶と感謝の言葉を述べた。水澤さんは「監督、スタッフ、キャストのお膳立ての中でお芝居をさせていただきました。ほんと俳優というものは恐ろしく、今日も初めてお客様に観ていただけることがまた恐ろしく思います」と挨拶。宇野さんは、緊張した面持ちで「素晴らしい映画祭に参加できて光栄です」と、劇中で演じた田中のキャラクターそのままの雰囲気で挨拶した。ヒロインのユリ役の田村さんも、「こんなに多くの方に来ていただいて嬉しい」と喜んだ。
上映後、再び大森監督と出演者4名が登壇しQ&Aへ。最初に、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターから、大森監督にこの事件をモチーフにした理由について質問。インターネットの掲示板で、犯人である加藤智大の書き込みを見ていて、その中の一つ「人を愛したい、それだけです」にひっかかり、興味を持ったことがきっかけだそうだ。さらに市山Pディレクターから「梶が携帯で書き込んでいる文章は実際にあったものか」の質問に、携帯も、劇中画面に大きく現れる文章も実際の書き込みから引用したと監督は答えた。
続いて、会場から「この作品はコメディの面と、過酷な社会批評の2つの顔を持っている。映画の企画段階からそう設定したのか」と質問があった。「コメディ的にしたい意図がまずありましたが、自分の作品は、社会への批判が自然と中に入ってくるのです。役者に叫ばせたい、と思いながら作りました」と、常に日本社会と社会的弱者を見つめてきた大森監督ならではの回答。さらに監督は、日本の名監督である今村昌平、森崎東監督の名前を挙げ、「特に今村監督の"重喜劇"の影響があるのかもしれません」と語った。
「ロケ地に長野県佐久市を選んだ理由について、また梶が派遣される会社はエンドクレジットから実在するとわかったが、ロケが決まった経緯や撮影中のエピソードなどを教えてほしい」と質問が挙がった。
佐久市は登山した帰りに車で通った際、光がきれいだったから、と監督。ロケで使用した吉田工業株式会社は、オファーしたところ「社長が同い年で、自分に興味を持ってくれ"何でも協力するよ"と言ってくれた」そう。
続いて、「口元を尖らせた主人公・梶の姿が印象的だった」という観客から、「監督は水澤さんをどう演出したのか、また水澤さんは演技をしてどうだったか」との質問。梶役の配役は悩んだという。当初、実は宇野さんが思い浮かんだが、弟で俳優の大森南朋さんに水澤さんが良いのでは、と言われ、水澤さんを知っていた監督はパズルがはまったように一気に解決したそうだ。「水澤の日常を見ていると、こいつできるかもしれない、と思って」とのコメントに会場から笑いが起こった。現場に入ってから「事件のことは忘れて、感じたまま演じてほしい」と監督から要望があった、と水澤さん。口元については、「人の言葉にすごく反応して、言ったり、飲み込んだり、考えて、感じている様子が表れたと思います」。そして「普段から僕は口がとんがっています」とコメントし、会場は再び笑いに包まれた。
市山Pディレクターに撮影時の苦労を訊かれ、宇野さんが「小学校入学の時、おじいちゃんに『友達100人できるかもしれないけど、大人になったら、おっても1人だぞ』と言われ、ショックだった。今回監督に当時の思いを掘り起こされました。水澤さんとも友達ですが、『ほんとに友達だろうか』と思ってしまうのです」と語ると、会場は笑いの渦に。
台本を読んで、最初は怖くなってしまった、とユリ役の田村さん。しかし「お芝居は現場に入ってから感じることもある。台本を読んでいる段階ではない」と思って演技に望んだそうだ。現場では大森監督からよく「考えないで」と言われたという。「よく相手の声を聞いて、とにかく反応することだけを考えて演じました。1ヶ月の撮影期間中、とても勉強になりました」。
悪役・岡田を演じた淵上さんも、撮影前に監督から「役として、いてくれるだけでいい」と言われ不安だった気持ちが楽になったという。「台詞を完璧にして、あとは監督の演出どおりに演じました」と語る淵上さんに、役になりきってアドリブ入れていたよね、と大森監督から突っ込みが。「『ヤス、やりすぎ』と言われたこともありました」と淵上さんは笑いながら答えた。
最後に、「梶と岡田は、外見は違うけれども同じ人種に見えた。そのような意図はあったか」という質問に、監督は深くうなずき、そうなのです、と答えた。「特に後半、二人が重なってくることを狙っていたのです。気づいてもらえて嬉しい」と感謝の意を述べた。
個性的な若手俳優やフランクに語る大森監督のコメントに、終始笑いに包まれたQ&Aとなった。『ぼっちゃん』は2013年春、渋谷ユーロスペース他にて公開される。
(取材・文:大下由美、撮影:関戸あゆみ、吉田留美)
ラインナップ発表記者会見のレポート
from デイリーニュース2012 2012/9/26
第13回東京フィルメックスのラインナップ発表記者会見が9月26日、東京・渋谷の映画美学校で行われた。本映画祭の林加奈子ディレクターは、「社会に対してきちんと向き合い、何をどのように伝えるかという工夫が際立っている。映画としての完成度の高さ、挑戦する志、描こうとしている問題の深さ、そして個性の気高さ......今年も本当に傑作が揃いました」とコンペティション部門に選ばれた9本の作品を紹介。ラインナップへの自信を覗かせた。今年の同部門には、イスラエル、イラク、香港、中国、韓国、日本の6カ国・地域の作品がエントリー。バフマン・ゴバディ監督の妹ナヒードの監督デビュー作『111人の少女』など、デビュー作や2作目といったフレッシュな作品が集まった。
コンペティション部門の国際審査員として紹介されたのは、映画監督のSABUさん、映画批評家のダン・ファイナウさん、同じく秦早穂子さん、イランの女優ファテメ・モタメダリアさん、ユニフランス・フィルムズのヴァレリ=アンヌ・クリステン日本支局長の5名。審査委員長を務めるSABU監督からは、「東京フィルメックスは大好きな映画祭です。熱いお客さんと刺激的な映画を観られ、海外からの大事な人たちにも会える、元気をもらえる映画祭だからです。『幸福の鐘』(02)の寺島進さんに出演交渉したのはフィルメックスの上映会場でした。他の審査員と映画を語り合うのは貴重な体験です。すごく楽しみです。一生懸命がんばります」との熱意のこもったメッセージが寄せられ、林ディレクターが代読した。登壇した秦さんもまた、「この映画祭はブレていないし、エッジもきいている。私はいつでも"白紙の状態で映画を観る"ということを心しているので、虚心坦懐にこの映画祭に参加させていただき、いい映画に出会えたら幸い。一生懸命務めさせていただく」と抱負を語った。
また、特別招待作品の枠では14本の上映が決定。オープニング作品には主演にイザベル・ユペールを迎えたホン・サンス監督の最新作『3人のアンヌ』が、クロージング作品にはバフマン・ゴバディ監督が亡命生活を送りながら撮り上げた新作『サイの季節』が選ばれた。ほかにも、市山Pディレクターが「説明するまでもない方々の名前が並んでいる」と表現するほど、気鋭の監督の新作・話題作がならぶ。
今年の特徴として、ヨーロッパとアジアから、それぞれ注目の監督が参加する豪華なオムニバス映画2本が参加。現在まだ未完成という『ギマランイス歴史地区』は、ポルトガル発祥の地といわれる古都ギマランイスをアキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラという4巨匠が様々な側面から切り取ったオムニバス映画だ。一方の『チョンジュ・プロジェクト2012』はチョンジュ(全州)国際映画祭で毎年行われているアジアの監督3人に映画製作を依頼するデジタルプロジェクト。今年は、09年のフィルメックスで『2つの世界の間で』が上映されたスリランカのヴィムクティ・ジャヤスンダラ監督、日本初紹介となるフィリピンのラヤ・マーティン監督、フィルメックスではお馴染みの中国のイン・リャン監督が参加している。
さらに、ラインナップには今年のヴェネチア国際映画祭コンペティション部門で金獅子賞を受賞したキム・ギドク監督の『ピエタ』(原題)と、同映画祭オリゾンティ部門最優秀賞を受賞したワン・ビン監督の『三姉妹』(原題)も含まれており、市山Pディレクターは「ヴェネチアのメイン部門最高賞を2作品ともフィルメックスでいち早く上映できるという非常に恵まれた結果となった。両作品とも日本配給が決まっているので、フィルメックスでの上映が興行成績に結びつけば」と、映画祭を通した今後の盛り上がりにも期待を寄せた。
今年はまた、"ジャパン・フォーカス"と題して、特別招待作品の枠内で日本映画3作品が紹介される。会見には、上映が決まった『BAD FILM』の園子温監督と『ぼっちゃん』の大森立嗣監督がゲストとして出席した。『BAD FILM』は、現在もう生産されていないHi-8を使って1995年に撮影し、未完成となっていた幻の作品。このほど改めて編集し、上映することとなった園監督は、「今、作っている映画に通じるものはすべてこの作品で生まれたのだと分かった」という。「東京フィルメックスはストイックな映画祭で、観客はレベルが高い。ここで上映できるということは、非常に密度の濃い経験というか、密度の濃い宣伝にもなる。口コミで伝わるには一番良い環境をこの映画祭は持っていると思う。まさか、まさか、Hi-8で撮ったこの作品を、こんな素晴らしい環境で上映できるということが本当に誇らしく、嬉しい。観客の皆さんがどういう反応を示されるか楽しみにしている」と上映を心待ちにしている様子で語った。
一方、鋭意ポストプロダクション中だという『ぼっちゃん』は、秋葉原で起きた連続殺傷事件がきっかけで生まれた作品。『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』でもフィルメックスに参加している大森監督は、「『ケンタとジュン~』も完成前に林さん、市山さんに観ていただいて出品が決まったので、東京フィルメックスには作品を"発見"してもらったという印象を持っている」と振り返り、「観客の目も肥えているので、自分にとって良い物差しというか、今後作品がどうなっていくのか最初に試される感じ」と笑顔交じりに意欲を示した。
今年はイスラエルと日本の国交樹立60周年でもあることから、「イスラエル映画傑作選」として4作品の紹介も決まった。「近年様々な映画祭で評価されているが、イスラエル映画はなにも最近始まったわけではなく、やはり歴史がある。3年前にエルサレム映画祭に参加し、新作はもちろん、シネマテークのライブラリにあるDVDや市販のDVDを山のように見た。その中から、厳選した作品が今回の4本」と紹介した市山Pディレクター。いずれもイスラエル映画躍進の萌芽が現れた1960年代に製作、もしくは60年代を舞台にした作品だが、ゲストとして出席したイスラエル大使館文化・科学技術担当のニル・タークさんはこの時期について、「イスラエル建国(48年)からまだ10~20年しかたっていない、国として大変若い時代」と説明。「理想に燃えて国づくりをしようとするが、現実にはできなかったという微妙な状況が分かる」と語り、上映作をPRした。
このほか、木下惠介監督が残した49本の映画作品のうち、24本を「木下惠介生誕100年祭」として特集上映するのも今年の大きな見所。東京フィルメックスの会期中は、このうち19本を英語字幕付きで上映する。この企画の始まりについて、林ディレクターは「(木下監督は)黒澤明監督とほぼ同年代の紛れもない巨匠だが、黒澤監督と比べると国際的には脚光を浴び損ねており、私たちとしても忸怩たる思いがずっとあった」と振り返る。上映素材のうち6本は、「東京都文化発信プロジェクト」の一環として作成された35mmニュープリントとデジタルリマスター版(『楢山節考』)となるが、こうした取り組みについて、「時間をかけて海外にきちっと紹介できるような下地を作ってきた」という林ディレクター。「木下監督は、観客を泣かせ、楽しませただけではなく、革新的なアーティストだった。斬新な作品を作っていた"しなやかな挑戦者"だったことを発見できる貴重な場所として、会場となる東劇が"歴史的なランドマーク"になるぐらいの気持ちでその瞬間をともに実感していただければと思う」と意気込みを語った。
今年で3回目となる人材育成事業「タレント・キャンパス・トーキョー 2012」のメイン講師にアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の招聘が決まるなど、映画の上映以外にも、まだまだ多彩なプログラムがいっぱいの第13回東京フィルメックス。東京・有楽町朝日ホールをメインに、東劇、TOHOシネマズ日劇にて11月23日(金)から12月2日(日)の日程で開催される。前売券は11月3日(土)より、チケットぴあにて発売予定(「木下惠介生誕100年祭」は9月29日(土)より、チケットぴあ、東劇窓口にて発売)。なお、今年の授賞式は例年と異なり、最終日1日前の1日(土)に行われる。
(報告:新田理恵/撮影:吉田留美)
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