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『ひろしま 石内都・遺されたものたち』リンダ・ホークランド監督Q&A
from デイリーニュース2012 2012/11/25
11月25日(日)、有楽町朝日ホールにて特別招待作品 Focus on Japan 『ひろしま 石内都・遺されたものたち』が上映され、リンダ・ホーグランド監督が上映後のQ&Aに登壇した。本作は、広島の平和記念資料館に収蔵されている原爆犠牲者の遺品を撮影し続けている写真家・石内都さんに焦点をあて、カナダのバンクーバーにあるMOA(人類学博物館)で開かれた展覧会の準備の様子や来場者の感想などを綴ったドキュメンタリー。
日本で生まれ育ったホーグランド監督は日本語が堪能で、数多くの日本映画の英語字幕も手がけている。Q&Aでは自ら通訳を務められ、朝早くから詰めかけた熱心な観客との距離がより一層近いものとなった。
まずホーグランド監督から、この映画の実現に際して信頼を寄せてくれた方々やNHKへの感謝の言葉が述べられ、また、映画の完成時には石内さんから「遺品たちが喜んでくれている」との言葉が贈られたことも紹介された。
ホーグランド監督と石内さんとの出会いは、2008年に石内さんの初期作品の展覧会がニューヨークで開催され、監督が出版物のインタビューを依頼されたときのこと。出会って1分で大親友になったそうだ。監督は石内さんの作品の重要性を認識し、初監督作品『ANPO』('10)がバンクーバー映画祭に招待された際に、バンクーバーの美術館に石内さんの作品を紹介したという。
司会の林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターが、「写真を見てもらう時間がどれだけ割かれているかということで、監督の石内さんへの尊敬の念が画面から伝わってきます」とコメント。これに応じてホーグランド監督は、「この写真たちを通して違う広島への糸口を発見できました。出来上がってわかったことは、この作品がアートの主観的な体験であるということです。私がずっと携わってきた字幕制作も役者のセリフを通した主観的な体験なので、もしかしたら字幕作業の延長線上に私独自の映画の手法があるのかなと思います」と述べた。
続いて会場からの質問へ移った。展覧会で写真について語る来場者について訊かれると、彼らはキャスティングされた、と明かしてくれたホーグランド監督。一番恐れていたのは、写真を見て人々が「戦争は悪い」と連発することだったので、戦争や被爆について複雑な体験を持っている人たちを事前に仕込んだのだそうだ。
次の質問では遺品を寄贈した家族との接点があったかどうかについて話が及んだ。ホーグランド監督は、モノクロ映像や悲惨な人々の姿など、みんなが知っている広島のイメージを使わないという明確なルールを撮影前に決めていたそうだ。「写真の前で人々が物語を語り秘密をシェアしたのは、写真にラベルがないから。美しいドレスの写真を目の前にして何の説明もなければ、そこに物語や秘密を語ろうという人間の根本的なニーズがあるはず」で、第二次世界大戦の体験を次の世代へ引き継いでいくためにも、あえて遺族へのインタビューはしなかったと説明した。
すかさず林ディレクターが「この映画は間接について考えさせてくれる」と評すると、ホーグランド監督はアメリカの現実を口にした。「アメリカではどんなリベラルな人でも広島については正面玄関がピタッと閉じられています。アメリカ人に直視してもらうためには勝手口、間接的な入口しかないとわかっていました」
最後にホーグランド監督は、「プロデュース作品『特攻/TOKKO』('07、リサ・モリモト監督)、『ANPO』、『ひろしま』の3部作を通して自分の中での太平洋戦争は終わりましたが、太平洋戦争は誰の勝利でもなくアメリカの永久戦争依存の幕開けだったと思います。この作品のアメリカでの上映は難しいでしょうが、大学などで教材として残ると思います」と締めくくった。日本とアメリカの両国をまたぐ監督の深い洞察力に触れた観客からは大きな拍手が寄せられた。
本作は、2013年7月中旬から岩波ホールでの公開が決定。また、12月7日からカナダ大使館の画廊で石内さんの写真展も予定されている。映画と併せて実際の写真にも触れてほしい。
(取材・文:海野由子、撮影:永島聡子)
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