『BAD FILM』園子温監督舞台挨拶・Q&A
TOKYO FILMeX ( 2012年11月24日 17:00)
11月24日、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『BAD FILM』が上映され、園子温監督が上映前の舞台挨拶および上映後のQ&Aに登壇した。本作は、今では使われなくなったHi-8という方式のビデオカメラを使用して1995年に撮影が行われたものの、長らく完成を見ることのなかった幻の作品。日本で今最も注目を集める映画監督の作品だけに、詰めかけた観客の期待も大きく、数々の質問が寄せられた。
舞台挨拶では、園監督が製作の背景を語ってくれた。「この映画を撮影した1995年当時、僕はちょっと映画から離れて、渋谷のハチ公前交差点を大きな横断幕や旗で囲んで、みんなで詩を叫んだりする"東京ガガガ"という集団を作って活動していました。その規模が2000人ほどに膨らんだ頃、この沢山の人間で何かできないかと思い、もう一回映画を作ってみようということに立ち返った映画です」
上映終了後のQ&Aに登壇した園監督はまず、司会を務める林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターの質問に答える形で、『BAD FILM』というタイトルの意味を説明。「1995年当時の優等生的な日本映画への反逆も含めて、最もタチの悪い映画、劣等生な映画を撮ろうという意味ですね」
1997年の高円寺を舞台に、外国人排斥を訴える日本人自警団グループと中国人自警団グループの対立を描いた本作。客席から、撮影後17年が経過して2012年に完成したことによる観客の受け止め方の違いについて質問されると、
「尖閣諸島問題などもあり、逆に今の方がリアルに受け止められるのではないでしょうか。当時、"将来、日本でも色々な国の人々が混じり合って、こんなことが起きるかもしれない"と、東京ガガガのみんなで話し合っていたことがこの映画のきっかけになりました。ブラック・ジョークのつもりだったのに、本当にこんな滑稽な時代が来るとは思いませんでした」
2012年の社会情勢と作品のシンクロ具合に自身も驚いたという園監督。続いて「自分の感覚を頼りに、時代を先読みして作った映画」という本作に関して、次のようなエピソードを披露してくれた。「ラストは、地下鉄でテロが発生するという展開を構想していたんですが、撮影終了間際、実際に地下鉄サリン事件が起きたのでやめました」。園監督の時代感覚の鋭さを物語るかのような話に、客席からは感心した様子が窺えた。
ちょうど撮影が行われた1995年に生まれたという17歳の観客から「この作品を作ったエネルギーを、今後どうぶつけていくのか」と尋ねられると、「"東京ガガガ"をやったことが、次の表現方法につながったと思う」と語り、「あの頃、僕は映画の"画作り"に夢中になっていて、そのままだったら、時代や人間の魂との接合点を見失い、綺麗な日本画を描いているような"どうでもいい人"になっていたでしょう。だから一回、映画から離れてよかったんです。そういうエネルギーを維持するためには、自分をも破壊しなければならない時があります。これからは、自分を毎日破壊することが大切です。破壊してください」と、最後は自身に向けたとも、質問者への期待ともとれる園監督らしい言葉で締めくくった。
「宣伝も兼ねているんですけれど...」と言いながら、発売中の自伝「非道に生きる」を持ち出すなど、作品から受けるパワフルな印象とは対照的に、ユーモアも交えて落ち着いた様子で質問に答えてくれた園監督。丁寧な受け答えと、作品の舞台裏に関わる数々のエピソードには、笑いや感嘆の声も聞かれ、観客も十分楽しんだ様子だった。『BAD FILM』は現在発売中の「園子温 監督初期作品集 DVD-BOX」に収録されている。また、園監督の最新作『希望の国』も現在公開中。ぜひ、2つの作品で17年に渡る園監督の歩みに触れてみてほしい。
(取材・文:井上健一、撮影:村田まゆ)
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