『ギマランイス歴史地区』ペドロ・コスタ監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2012年12月 2日 20:00)
12月2日、有楽町朝日ホールで特別招待作品『ギマランイス歴史地区(仮題)』が上映された。本作は、ポルトガル北西部に位置する古都ギマランイスをテーマに、アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラ、4名の映画監督が参加したオムニバス映画である。上映終了後には、ペドロ・コスタ監督がQ&Aに登壇し、いずれも熱烈なファンを持つ映画監督たちが顔を揃えた本作の裏話などを語ってくれた。
登壇したペドロ・コスタ監督はまず、「アキ、ビクトル、マノエルから、皆さんに"こんばんは"とお伝えするように言われてきました」と、参加した4名の監督を代表して挨拶。
続いて、客席からの質問に答える形で、意外な裏話が明かされた。「この作品は当初、ジャン=リュック・ゴダール監督も含めて5名で製作する予定でした。ところが、ゴダールは3D撮影を希望。現在は2Dと3Dの作品を1本の映画にすることは不可能なので、彼は作品から離れることになりました」この思いがけない話に、驚きと残念がる気持ちの入り混じった空気が会場を覆った。
本作でコスタ監督が手掛けた『命の嘆き』は、精神病院のエレベーターの中で、クーデターに参加した男性と兵士の彫像が、過去について対話するシュールな作品。彫像が登場した経緯について、「どのような映画にするか話し合っていた時、主演のヴェントゥーラが"エレベーターの中で悪魔を見たことがある"と言ったことがきっかけです。そこで、悪魔の代わりに兵士にしようという話になりました」ここでコスタ監督は、身動きせずに静止するパフォーマンス・アートで、チャップリンやモーツァルトなども演じて世界チャンピオンになった人物がポルトガルにいた事を思い出す。劇中でも微動だにせず、人が演じているのか、本物の彫像なのか区別がつかないほどだが、「日本の能や舞踊などにも詳しい彼を、兵士の彫像役に起用しました」。この他、『命の嘆き』の英語タイトル『sweet exorcist』についても、アメリカのミュージシャン、カーティス・メイフィールドのアルバムタイトルからの引用であると明かした。
また、元々はそれぞれの監督がポルトガルの古都"ギマランイス"を舞台にする予定だったが、『命の嘆き』はギマランイスで撮影していない。この件に関して、「どうしてもギマランイスで撮ることができなかったので、いつもと同じ場所で撮影したいとお願いしました。」と説明。続けて、「ギマランイスで撮影したのは、カウリスマキ監督とオリヴェイラ監督ですね。こういう企画はしばしば観光プロモーションになりがちですが、本作ではどの監督もそういったリスクを回避できたのではないでしょうか」と巨匠たちによるカルテットの出来栄えを、満足そうに語った。
3D映画に対する興味や他の監督が手掛けた作品に対する印象など、様々な質問にも一つ一つ言葉を選ぶように、丁寧に答えてくれたコスタ監督。考え抜いたその話しぶりに、観客も満足した様子だった。『ギマランイス地区(仮題)』は来年劇場公開予定。夢のような巨匠たちの組み合わせを、ぜひ劇場で楽しんでほしい。また、コスタ監督は映画祭後もしばらく日本に滞在し、東京・品川にある原美術館の「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」と題した展示やオーディトリウム渋谷で開催される特集上映「ペドロ・コスタ&ルイ・シャフェスのカルト・ブランシュ」に参加する予定。ぜひとも足を運んで、その世界に触れてみてはいかがだろうか。
(取材・文:井上健一、撮影:関戸あゆみ)
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