『3人のアンヌ』ホン・サンス監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2012年11月23日 22:00)
11月23日有楽町朝日ホールにて、開会式に引き続きオープニング作品『3人のアンヌ』の上映が行われた。カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映されたこの映画は、フランスの名女優イザベル・ユペールが主演していることで話題を呼んだ。映画は韓国の海辺の町モハンを舞台とした3つの物語から構成され、ユペールはそれぞれの物語の中で、異なる3人のキャラクターを演じている。英語タイトル「In Another Country」の通り、異邦人であるユペールと町の人たちの間で交わされる、いささかぎこちないコミュニケーションが軽妙に描かれる。
上映後、ホン・サンス監督が登壇。林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターの「私にも経験がありますが、言葉が通じないというのはもどかしくて気まずいもの。国際映画祭に相応しい素敵な映画を有難うございました」というコメントに続き、観客とのQ&Aに移った。
「一つの作品の中で短編を描くことの意味は?」という質問に対しては、「それが私にとってどのような意味があるのか、ということよりも、そのような手法を用いて効果を上げる、もしくは映画的な実験を試みる、ということに重点があったと思う。映画を観ると、私たちはそこに意味を感じます。それは世界を眺める時の道具となるものです。しかし、人生を振り返ろうとした時に、日常的に使っている意味を使っただけでは不満に感じることがあると思うのです。ですから、映画を通して、通常感じる意味以外のことを生み出すこと、一つの映画のなかに幾つかの関係を並べること、構造がぶつかり合うことで、それが新しい意味を生み出すことを狙っているのです」と述べた。
次の質問も、映画における構成について。「脚本家志望の若い女性が3本の短編のシナリオを書いているという設定でしたが、なぜ劇中劇という構造が必要だったのでしょうか?」という質問に対しては「なかなか上手くお答えすることが出来ないかもしれません...でも、私は写真、音楽、美術など他の芸術ではなし得ない、映画だけがつくり得る新しい効果というものを得ようとして、劇中劇の構造を取りました。ただ、それをどのように解釈なさるかは皆さんの自由です」と答えた。
次は主演のイザベル・ユペールについて、質問が続いた。
「今回何故ユペールさんを起用したのか知りたい」という質問に対しては「パリで私の映画のレトロスペクティブがあった時に彼女と食事をする機会があり、俳優と監督という立場で興味深い話をすることができた。その後、5月にソウルでユペールさんの写真展が開催された際に再会し、「7月に新しい映画を撮ることになっているのですが、出てくれますか?」と打診したところ快諾を頂きました」とのこと。
「韓国を舞台で外国人の女性を主役にしたのはどうして?」「韓国語ではなく、英語で進めていこうと思ったのは何故?」という質問に対しては「私はユペールさんが大好きで彼女が主演の映画を撮りたいと思ったのですが、彼女が英語しか喋れないのでそのようになりました」と監督。すると林ディレクターが「フランス語も話せると思いますけど...」と、会場の笑いを誘った。
上映前の挨拶で「皆さんの反応がとても気になります。見慣れない映画だと思いますが、心を開いて楽しんで頂きたい」と言っていた監督は、観客の温かい反応にすっかりフィルメックスを気に入ってくださり、リラックスした様子。「映画を観て下さり有難うございました。皆さんどうぞ幸福に過ごされて下さい」と話し、Q&Aを締めくくった。
『3人のアンヌ』は2013年初夏、ビターズエンド配給によりシネマート新宿で上映が決定している。また今年の12月21日まで、同じくシネマート新宿にて『よく知りもしないくせに』(09)『ハハハ』(10)『教授とわたし、そして映画』(10)『次の朝は他人』(11)の4作品が上映される特集「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」が開催されている。
(取材・文:一ノ倉さやか、撮影:穴田香織、関戸あゆみ、永島聡子、中堀正夫、村田まゆ、吉田留美)
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