『記憶が私を見る』ソン・ファン監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2012年11月30日 18:00)
有楽町朝日ホールにて、コンペティション部門の『記憶が私を見る』が上映された。ソン・ファン監督自らが演じるヒロインが南京に暮らす両親のもとを訪れ、過去の記憶が呼び起こされるという極めてシンプルなストーリー。近年、若手監督のプロデュースに力を入れているジャ・ジャンクー監督がプロデューサーを担当。本作はロカルノ映画祭でワールド・プレミア上映され、最優秀新人監督賞を受賞した。
上映後、ソン監督の「観客席で緊張して観ていました」という挨拶の後、まず司会の市山尚三プログラム・ディレクターが「作品を作るきっかけについて訊いてみたい」と問うと、「暫く前から自分の両親の生活ぶり、自分の両親の世代が背負っている多くの物語に感動して、それを撮りたいと思いました」という答え。
観客からの質問は、まず監督のカメラアングルに集中した。
「横向きのシーンが多かったのですが、意識的なものだったのでしょうか?」という質問に対しては「ごく個人的な趣味で、後姿や斜めから映すというのが好きなんです。シャイだからだと思います」と述べた上で「正面から撮る必要性がある時は、正面から撮るようにしました。ただ、横顔を撮っていても人の感情はよく分かるものだと思います。カメラに面と向って話すというのは、あまり好きではないのです。後姿であっても多くの感情を語ることはできますし、情緒がそこから溢れるということはあると思います」と独自の美学を述べた。
「セリフを言っている人の顔が見えないと生理的に気になってしまう」という観客のコメントに対しては「実は、今日初めて自分のフレームがどのように観た方の目に映るのか、ということを聞かせていただきました。今後は正面から撮ることもトライしたいです。ただ、この作品に関しては、出来るだけ実際の生活の雰囲気を壊すことなく自然に撮りたかったのです。記録し、観察する、という視点で撮りたかったので、このようなアングルになりました」と謙虚にコメントをした。
ソン監督のカメラワークに共感を示したカメラマンの観客の方の、「カメラマンは二人の名前が出ていますが、彼らにはどのように指示したのか?」という質問に対しては「リレー方式で、カメラマンは常に一人でした。カメラマンの方には脚本を読んでもらい、過去の短編映画や自分の撮った写真を見てもらい、雰囲気を伝え、ロケハンに行き、構成を把握してもらい、場面場面でどのような表現をしたいかを伝えた上で撮影を行いました。話し合いもしましたが、フレームのコントロールは監督として自分が行っていました」と答え、綿密な準備を行った様子が伝わってきた。
次に脚本に関しての質問が続いた。
「監督の作風はドキュメンタリーに近いものに思われますが、シナリオは用意されていたのでしょうか?」という質問に関しては「脚本を書く前に、実家に帰る度に家族と話しをし、そこからプロットが生まれました」と答えた。
また「登場人物は全て素人です。脚本は時間を掛けて練ったものですが、現場では出演者たちにシーンの説明をして、自然に演じてもらいました。アドリブの必要性も感じていましたが、内容は完全に私がコントロールできるようにしました」と明かしてくれた。
「映画のなかの音づくりがとても繊細でしたが、何か工夫されたことは? また、ロケハンなど丁寧に準備をされたようですが、ジャ・ジャンクー監督から具体的なアドヴァイスはありましたか?」という質問に関しては「現場のサウンド・デザインは、熱心に取り組んでいただきました。自分の家族に関する映画だったので、自分の感覚を大事にしたかった。ジャ監督からはポスト・プロダクションの段階で色々とアドバイスを頂きました」と監督。ここで来場していた音響デザインの山下彩さんが紹介され、客席から盛大な拍手が贈られた。
Q&A終了後も、ソン監督は「今日は来てくださり有難うございました。この後も私はロビーにおりますので、何かご質問等あれば声を掛けて下さい」と、観客席に向って名残惜しそうな様子を見せていた。終了後のロビーには沢山のファンが監督を囲み、映画祭ならではの光景が見られた。
(取材・文:一ノ倉さやか、撮影:村田まゆ)
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