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木下惠介生誕100年記念シンポジウム  第2部「しなやかな挑戦者~時代とともに映像の可能性に挑戦し続けた信念の人」


TOKYO FILMeX (2012年12月 1日 17:00)

1201sinayaka_1.jpg12月1日(土)、木下惠介生誕100年記念シンポジウム第1部に続き、第2部「しなやかな挑戦者~時代とともに映像の可能性に挑戦し続けた信念の人」が東劇にて開催された。司会を務めたのは「天才監督 木下惠介」などの著作で知られる作家・長部日出雄さん、登壇者には、文化社会学専攻の早稲田大学文学学術院教授・長谷正人さん、木下監督に師事した後に脚本家として活躍する山田太一さん、テレビ演出家でもあり昨年『モテキ』で映画監督デビューを果たした大根仁さんを迎えた。映画界からテレビ界への挑戦など常に時代の最先端を走り続けた木下監督の魅力について語られた。


まず、司会の長部さんが「忘れられた名監督と言われる木下監督が、実は現代と密接に結びついているということを語りたい」と今回の趣旨を述べた。早速、昨年大ヒットした大根さん初監督作の『モテキ』(2011)がミュージカル的な構図を持っていることに触れられ、木下監督の多くの作品、例えば『二十四の瞳』(54)や『楢山節考』(58)などでも音楽的要素が効果的に使われていることから、音楽という共通項を持つ大根さんに語ってもらうことに。


木下監督は先生の先生という遠い存在だったという大根さんは、雑誌「SWITCH」の企画でタイトルに惹かれた『お嬢さん乾杯』(49)を見て、脚本・演出はもちろん、セリフのテンポ、モダンな編集、音楽の付け方など何もかもが素晴らしくて大感激したそうだ。また木下監督の女優の撮り方について、「女優をチャーミングに良い角度から撮っておられます。僕も『モテキ』では女優の撮り方を意識したので、木下監督とはかすかに似ている部分があるかもしれません」と語った。


続いて、写真、映画、テレビと社会との関わりについて研究されている社会学者の長谷さんに、映画からテレビの世界に移って挑戦した木下監督がテレビ界に与えた影響について語ってもらった。


1201sinayaka_2.jpg長谷さんは、「映画とテレビは切り分けられて語られることがほとんどだが、アメリカでも日本でも映画とテレビは密接なもの」という。70年代くらいまでに、映画産業はテレビの出現によって斜陽となり、それまで映画スターだった人がお茶の間のテレビに登場し、映画会社はテレビ局のテレビ映画を撮らないと経営が成り立たなくなるという、映画はテレビ抜きに考えられなくなっていた事情があったそうだ。「そうした経緯にもかかわらず、映画とテレビがわけ隔てられて考えられてきているが、実際は違うのではないかと思う」と話す長谷さん。中でも木下監督は映像文化を支えている技術に敏感で、早い段階からテレビで何かを表現をしようとする先見の明があったのだという。木下監督はテレビの連続ドラマでプロデューサーを務め、若いディレクターや脚本家を育ててきた。ちょうどハリウッドでも、スティーブン・スピルバーグ監督やジョージ・ルーカス監督が80年代に監督として表現するよりもプロデューサーとしての役割を果たすことでハリウッド映画全体を盛り上げてきた。「木下監督は少し早すぎたのかもしれません。日本の映画やテレビの産業システムが木下監督の先見の明と上手く合わなかったことが、木下監督が古くさいと言われたり、いろいろな形で苦労されたりした理由、また日本のテレビ文化と映画文化がずっと分断されたまま今日まできてしまった理由なのかもしれません」


1201sinayaka_3.jpg続いて、木下監督が松竹を出てテレビ界へ入ったとき、ただ一人連れて出た弟子の山田太一さんに話が移った。木下監督は「脚本家山田太一を育てたことが、(自身の)テレビ界での最大の功績だ」と語っていたほど山田さんに信頼を置いていたそうだ。
山田さんは、木下監督にテレビの世界に誘われて嫌だと思わなかったという。木下監督のカバン持ちで地方も含めてあちこちのテレビ局を回りながら、当時のテレビ界に活気を感じていたのだとか。脚本が足りないので書いてくれと頼まれ、木下監督が入院療養されていた際も、病床から脚本の修正指示があったエピソードも明かしてくれた。


また、木下監督はドラマを作るときには、映画の手法(フィルム撮り)もテレビ独自の手法も使っていたそうで、映画とテレビの狭間からドラマが生まれたことも含め、テレビドラマの変遷について少し長谷さんから話してもらうことに。
子どもの頃にテレビを見ていると、フィルム撮影のものとVTR撮影のものとでは明らかに質感の違いがあったと言う長谷さん。70年代には、『水戸黄門』や『土曜ワイド劇場』のような映画撮影所で撮られたテレビ映画とスタジオで撮られたテレビドラマが混沌としていて面白かったという。80年代以降になると、ENGシステムの導入によりポータブルカメラでロケーション撮影がしやすくなり、今のようなテレビ局主導のドラマ作りになったそうだ。


山田さんからは、テレビドラマの質を上げたという点において木下監督の功績は大きく、TBSの『人間の歌シリーズ』ではある種のシリアスドラマの形を決めたとの話も。そこでテレビ演出家でもある大根さんが木下監督をどのように見ているかという話に移った。


1201sinayaka_4.jpg世代的にテレビドラマが一番面白い時期にリアルタイムで見られたことが今の仕事につながっていると語る大根さんは、映画もテレビも大好きなのだという。木下監督について、「作品を見ると、どの作品を見ても同じ監督が撮ったとは思えないフレキシブルさがあります。天才監督ということは間違いありませんが、それ以上にスタッフワークが上手いなと思います。一番の特色は監督の"ドヤ顔"が見えてこない、"どうだ。すごいだろう"というところが見えてこないところです」と話す大根さん。
するとすかさず山田さんが、「ドヤ顔でしたよ」と応じて場内の笑いを誘った。山田さんによると、木下監督にはお酒が入ると自分より才能のあるやつはいないと言う面も多少あったそうだが、スタッフをとても大事にしていたことも確かなのだそうだ。「でも、『楢山節考』の長まわしではドヤ顔でしょ」とユーモアたっぷりの山田さん。


大根さんは『永遠の人』(61)にも惹かれたそうで、長い移動ショットを見て、この撮影を今できるスタッフはいるかなと思ったほど、スタッフワークの素晴らしさには驚かされたという。CGのような技術がない場面を手作りで仕上げながら、音楽と美術、セリフと人間のドラマで演出するのみならず、空間を立体的に提供する3D映画のような現代的な感覚がするとも語った。また大根さんは『夕やけ雲』(56)にも触れ、ロケーションとセットの部分の差異が見えないところが素晴らしいと評した。テレビドラマでは、スタジオのセットとロケをどう溶け込ませるかと悩むことが多いのだという。


最後に、それぞれ木下作品について伝えたいことを述べてもらうことに。
長谷さんは世代的に若い頃に木下作品にきちんと出会えていなかったそうだが、「だんだん木下さんの良さわかるようになり、今回、木下さんの名作でないあらゆる作品の中にも、今見ると面白くて、非常に豊かな作品であることがわかるので、みなさんにぜひ見て欲しいです」と語った。
山田さんは世間が注目しなくなった晩年の木下さんの姿を見て、「世間はどうして自分の作品をなぜ見てくれないのか」という木下さんの無念さを感じられたそうだ。観客にむかって「ここに集まり見てくださって、ありがたく嬉しいです」と感慨深げに述べた。

テレビドラマも映画も両立したいという大根さんは、「両立するのはどこか後ろめたく難しいのかと思っていましたが、木下さんの足跡を知ることで自信が持てたことが嬉しいです。自分より下の世代にも木下作品を紹介するのが自分の役目だと思います」と語った。


「実際に現場でものを作っている方の生の声、包括的に見ていらっしゃる方の意見が聞けることは貴重な機会でした」と司会の長部さんが締めくくり、1時間のシンポジウムが終了。知られざる木下監督の姿を垣間見ることができるとあって、熱心に耳を傾ける観客たちの姿が印象的だった。


(取材・文:海野由子、撮影:穴田香織、清水優里菜)


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