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『永遠の人』仲代達矢さんトーク


TOKYO FILMeX (2012年11月24日 14:00)

1124eien_1.jpg11月24日、東銀座・東劇では「木下恵介生誕100年祭」の2日目を迎え、『永遠の人』(1961)が上映された。上映後には、この作品の主演で、足を戦地で負傷した地主の息子を演じた俳優の仲代達矢さんを招き、トークイベントが行われた。司会は、木下恵介監督の遺作『父』(88)で助監督を務めた映画監督の本木克英さん。全49作ある木下作品のうち、仲代さんにとっては唯一の出演作である『永遠の人』の撮影エピソードや、同時代の巨匠・黒澤明監督との想い出の数々を語った。


冒頭、本木さんは本作について「木下作品の中でベスト1だと言う評論家もいる。『二十四の瞳』(54)や『喜びも悲しみも幾歳月』(57)など非常に叙情的な人間讃歌が有名だが、その一方で人間の本質にある愛情と憎しみを描いた作品が『永遠の人』だ」と紹介し、「ものすごく胸に突き刺さる映画だと思う」と話した。


仲代さんと木下監督の出会いのきっかけは、木下監督の一番弟子で仲代さんとも親交のあった小林正樹監督を通じて。実は、若い頃から木下作品のファンで、自身が所属する俳優座の舞台でも人間の愛憎を見せるのが好きだったという仲代さん。木下監督からオファーを受け『永遠の人』の脚本を読んだ時、飛び上がって喜んだという。また、肉体的・精神的にコンプレックスを持った役を演じるのが好きだという仲代さんは、本作でも生きるエネルギーが嫉妬と憎悪という足を負傷した男を演じている。観客と一緒に客席から鑑賞した仲代さんは、「自分の出た作品だが、時空を越えて素敵な作品だと思った」と、感慨深げに50年前の主演作品を観た感想を述べた。


1124eien_2.jpgまた、仲代さんは、「昔は気がつかなかったけれども」と前置きをした上で、あらためて作品を観て、演出方法に木下監督の天才ぶりを垣間見たという。あまりにも生々しく愛憎をふくんだ人間像を覆うために、「1章」「2章」と場面をあえて区切ることで観客に「この話はフィクションですよ」というメッセージを発信している。また、要所々々で流れるフラメンコの音楽と熊本弁の歌詞も、どこか非日常的。フィクションであることを明示しつつ、人間の真実を追求していく演出方法は、「実に策士ですよね」と仲代さん。


撮影現場での想い出も尽きない。本作には、高峰秀子さん演じる妻を殴るという印象的なシーンがあるが、木下監督からは「仲代君、思い切って殴って!あの女、憎たらしいでしょ?」と言われたことを告白。大先輩の女優をどのくらいの力加減で殴ればいいのか迷っていた仲代さんは、その一言で気合いが入ったという。本番では、ビシッと決まってOKが出ると、高峰さんから「仲代さんは力が強いのね。芝居はヘタだけど」と言われたエピソードを明かし、会場の笑いを誘った。「高峰さんは一見厳しいが、実はすごく親切な方。いろいろと面倒を見てもらった」と仲代さん。舞台出身である仲代さんに、舞台と映画の違い、映画の難しさを教えてくれたという。「いま見ても、(高峰さんの演技は)つくづくうまいなと思います。私は生涯、高峰さんを映画・演劇の先生だと思っている」と話した。


1124eien_3.jpg『永遠の人』への出演当時、俳優座に所属していた仲代さんは、当時の日本映画界の五社協定(俳優は、専属契約している映画会社の作品にしか出演できないという協定)に縛られることなく、黒澤明監督の『用心棒』(61)や小林正樹監督の『人間の條件』(59-61)など数多くの作品に出演した。映画ファンの間では、仲代さんが『七人の侍』(54)のエキストラでセリフなしの浪人役をつとめて映画デビューを果たしたのは有名な話。


『七人の侍』は、当時19才だった仲代さんにとって、初めての出演映画。もちろんカツラをつけるのも刀を脇にさして歩くのも初めての経験。街道を歩くわずか数秒のシーンの撮影に、朝9時から午後3時までの6時間かかったそうだ。黒澤監督からは、「それは武士の歩き方ではない。俳優座は何を教えているんだ」と怒鳴られ、三船敏郎さんや志村喬さんなど7人の侍役の錚々たる俳優陣を待たせた状態で、何回も歩かされたという。あまりにも強烈な体験から「二度と黒澤組の作品には出ないぞと思った」と、当時を振り返った。


木下監督の最晩年に、助監督として木下組に参加していた本木さんは、木下監督から黒澤監督の話をよく聞いたという。木下監督と黒澤監督は同じ年にデビューし、親交も深かった。「あんなに勇ましい映画を撮っているのに、黒澤くんはうちに来てよく泣くんだよね。あんなに女々しい男がいるかな」と、木下監督が話していたことを紹介。「自分はずっと映画を書いてきたから、連続ドラマが書けない」と苦しんで泣いていたことや、日米合作映画『トラ・トラ・トラ!』の監督を途中降板させられた際も、木下監督の自宅を訪れ悔しがって涙を流していたなど、黒澤監督の知られざる一面を表すエピソードに、観客も熱心に耳を傾けていた。


最後に、本木さんから「木下作品の魅力は?」と尋ねられると、「真正面から人間を肯定的に、ロマンチックに描く作品をつくりながらも、少し斜めから人間の業や負と向き合っている。『永遠の人』のように観客を引きずりこむテクニックもすごい。1回観ただけでは理解できなくても、何回も繰り返して観るうちに、人間が生きるとはどういうことなのか、ああいう人になりたい、こういう世界もあるんだ、という様々な発見が生まれてくる」と、仲代さん。この機会に、様々な木下作品を見ていただきたいと思います、と締めくくった。


第13回東京フィルメックス開催期間中は、19作品を連日、東銀座・東劇にて上映。本年度のカンヌ国際映画祭では『楢山節考』(58)、ヴェネチア国際映画祭では『カルメン故郷に帰る』(51)が上映されるなど、海外での再評価の機運も高まりつつある木下作品。大スクリーンで上映される貴重な機会をお見逃しなく。


(取材・文:小嶋彩葉、撮影:穴田香織)


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