トーク&サイン会「映画祭の楽しみ方」
TOKYO FILMeX ( 2012年11月13日 22:50)
第13回東京フィルメックスの開催を記念し、アミール・ナデリ監督と市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターによるトークショー&サイン会が、11月13日夜、代官山蔦屋書店にて開催された。いよいよ開幕まで十日となった第13回東京フィルメックス。『マラソン』(2002)『サウンド・バリア』(2005)『べガス』(2008)『CUT』(2011)など多くの作品が上映され、フィルメックスとは非常に縁の深いナデリ監督に、その見どころを語ってもらうという今回のトークイベント。今回は生誕100年記念特集が開催される木下惠介監督について、その魅力をたっぷりと語った。
今年8月のヴェネチア国際映画祭でオリゾンティ部門の審査員を務め、クラシック部門でデジタルリマスター版が披露された『カルメン故郷に帰る』(1951)を観たナデリ監督。「まるで昨日作られたように新鮮な映画だった。木下惠介は日本映画の黄金時代の最も重要な監督。生誕100年をお祝いすることができて嬉しい」。
特集上映の作品について、「木下惠介の実験的な側面を見られるセレクションになるよう意識しました」と市山Pディレクター。「木下監督というと非常に叙情的な作品を作る監督というイメージがありますが、今回の特集上映を観ることによって新しい発見があると思います」。
木下惠介は1943年のデビューから88年の『父』まで、全49本の作品を撮った、松竹黄金時代の巨匠。ナデリ監督は「最初期の作品から、役者選び、ロケーション、レンズ、キャメラ、ストーリーに至るまで自分のスタイルを確立していて、自分の考えをいかに映画の中に示せるかを獲得している」と評した。「インテリだが、とてもセンシティブで、自分の感情的な部分を重視している」。
木下監督のスタイルについてナデリ監督は「非常にモダンで、全ての伝統的なものを壊してしまうようなスタイルを持っている。そのためか、同時代の監督たちよりも後になって理解され、評価された。彼は当時の世界の監督の作品を観て、取り入れています。例えばウィリアム・ワイラーのように、喜劇、悲劇、実験的な作品、社会派などいろいろなジャンルを試し、自分のものにしている。知識を世界から学んだ監督は数多くいますが、それらを最も内面化し、自分の属する文化・伝統に基づいて作品を作ったのは木下監督です」と語った。
ナデリ監督は今回のトークイベントに合わせて、木下監督の全作品をビデオで見直したという。「木下の映画を見ると、映画を作りたくなる。その意味で、映画監督を育てる監督です。最も重要な3本『日本の悲劇』(1953)『カルメン故郷に帰る』『喜びも悲しみも幾年月』(1957)には、のちに続く監督たちが大きな影響を受けていることが分かります」と、20年あまりにわたって日本映画を研究してきた視点から語った。
「『二十四の瞳』は日本映画のトップ10に入る名作ですが、非常に力強い。子どもたちと先生という登場人物を使って、印象派風の絵を描いたといえるでしょう。この中に、一生忘れがたい編集があります。大石先生が子どもたちの名前を呼ぶシーンですが、クローズアップは最小限で、私たちはその僅かなショットで子どもたちの顔を見るしかありません。子どもの泣くシーンでも泣き顔は見せず、その背中で示します。それがより深い感動をもたらすのです。木下監督ほどクローズアップにケチな監督はいません。1本の中に多くて5〜6ショット程度で、クローズアップによって語ることを避けています。木下のストーリーはセンチメンタルですが、その撮り方は反センチメンタルといえるものです。"動かない"というやり方は大きな特徴のひとつです。あるいは、役者が動き出してからキャメラが動くというやり方をしています。キャメラは、役者が動き出す前には決して動かないのです。映画監督にとって、5〜6人の役者がひとつの狭い部屋にいるというシーンは非常に難しいもの。それを、木下は容易にやってのける。その編集の特徴は、役者が動かない時に勝利するのです。例えば、会話している2人の人物のクローズアップを撮りたいときに、あえて撮らない。動かずに座っている2人を撮ることによって、あたかもクローズアップが行われているかのように感じさせる。観客の想像の中で見せるのです」
ナデリ監督が東京フィルメックスで出会った西島秀俊さんを主演に迎えて撮った『CUT』の冒頭シーン、小津安二郎監督の墓でロケを行っているが、「その撮影中、背中を誰かにじっと見られていると感じました。後ろを見ると、そこには木下の墓があったのです」という運命的なエピソードも披露。(※鎌倉・円覚寺の墓地には、小津安二郎の墓と木下惠介の墓がすぐ近くに建っている)
ナデリ監督は「日本には、多くの素晴らしい映画の遺産が眠っています。皆さんの足下を少しでも掘れば、たくさんの宝が出てくるんです。ぜひたくさん観て、自らの文化や伝統といったルーツを認識してください」と『CUT』の主人公・秀二さながらに来場者に訴え、トークを締めくくった。
ナデリ監督の初期作品『駆ける少年』(1985)が製作から27年を経て、12月22日よりオーディトリウム渋谷にて公開される。ナント三大陸映画祭でグランプリを獲得するなど、イラン映画として最初に高い国際的評価を得た。監督自身「自伝的映画で、心と魂を賭けて作った」と語る通り熱い思いの籠った圧倒的な映像を、是非劇場で体感してほしい。
特集上映・木下惠介生誕100年祭は東銀座・東劇にて第13回東京フィルメックス会期中に英語字幕付きで19作品が上映される。また、会期後の12月3日〜7日にも字幕なしの5作品も加えて上映される。
(取材・文:花房佳代、写真:清水優里菜)
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