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『エピローグ』アミール・マノール監督Q&A


TOKYO FILMeX (2012年11月27日 18:00)

1127epilogue_1.jpg11月27日(火)、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門の『エピローグ』が上映され、終映後のQ&Aにアミール・マノール監督が登壇した。長編デビュー作となる本作は、イスラエル建国に携わった世代が感じている無力感と絶望を描いた作品。マノール監督は、「60年前にすべてを捧げて新しい国を作り上げた人々が、今は社会から尊厳を奪われて生きている」と述べ、人々の価値観が変わってしまったというイスラエルの現状に触れながら、熱心に観客の質問に答えた。


まずは、司会の林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターが老夫婦を演じた二人の演技を絶賛し、それに応える形でマノール監督は彼らと仕事について振り返った。「二人ともイスラエルの有名な舞台俳優です。ベレルを演じたヨセフ・カーモンの顔は"イスラエルの地図"と言われてますが、私も彼の顔には国の歴史が刻まれていると思ったので、主役に起用しました。妻ハユタを演じたリブカ・グールにはバーで会った時に出演を打診し、服を脱ぐシーンがあることを説明したのですが、彼女はその場で服を脱いで『これが私の裸よ、これでいい?』と言いました。それで配役が決まりました」。舞台での力強い演技に慣れていた二人を演出して、スクリーン用の演技に変えていくという作業には苦労したそうだが、二人も最初のリハーサルから全力で臨んでくれたという。撮影が終了する頃には、第二の家族のような関係性を結ぶことができたと語った。


1127epilogue_2.jpg客席からは、「イスラエルは戦争に関するニュースが多いという印象があり、建国当初と比べて、社会もこの映画のように変わってしまったのか?」という質問が寄せられた。マノール監督は、「建国当初は社会民主主義を信じている国で、自由・平等・平和を愛する国だったと思いますが、80年代半ばから、資本主義国家、そして戦争好きの国に変わってしまった」と答えた。そして、昨年の夏にテルアビブで起きた大きなデモの話に触れ、若い世代が国の未来に対して希望を失っているという現状を説明した。「現代のイスラエルは平和を愛する国ではなくなってしまった。そんな国の未来に希望が持てなくなった若者によって起こった運動です。今の若い人々は、こういった運動で勝ち得ようとしている価値観が、かつてのイスラエルにあったということを知らないのです」。だからこそ、過去と現在、未来を繋ぐ物語を作ることで、価値観を共有しようと考えたのだという。


続いて、劇中でスピルバーグ監督の『インディ・ジョーンズ』をはじめ、リリアン・ギッシュの衣装の話やジョン・トラボルタのポスターなどが用いられていることから、「イスラエルにおけるアメリカ文化の受容や、ユダヤ系の監督に対する尊敬の念のようなものがあれば、お話を聞かせてほしい」という質問があがった。「素晴らしい質問ですね」とコメントした監督は、好きな作品はあるものの、ユダヤ系だからという理由でスピルバーグ監督に特別な感情を持っているわけではないと答えた。そして、アメリカの影響がイスラエル社会を覆い尽くしているという状況には悲観的であると明かした。「アメリカの文化に対する崇拝や憧れというものが、消費主義的なものに終始していることを残念に思います。私はこの映画で、もっと革命的なものを描きたかった。貸衣装屋にはトラボルタのポスターの他に、レディオヘッドという音楽バンドのポスターも貼っていたのですが、それは今の文化にも彼らのように建国当初の価値観を共有しているものがあると思ったからです。貸衣装屋の店主のような若者と、そこを訪れたベレルのような老人が、消費主義に終始しないという価値観を共有していた、ということを言いたかったのです」


1127epilogue_3.jpgさらに監督は、2003年にイスラエルの有力紙に掲載された現首相でベンヤミン・ネタニヤフ(当時、財務相)という人物のインタビューに言及し、現在の国のあり方を痛烈に批判した。「ネタニヤフは、イスラエル建国の父といわれるダヴィド・ベン=グリオンと、ベレルのモデルになった労働運動のリーダーの二人が大きな間違いを犯したと言ったのです。イスラエルを社会民主主義国家としたのは誤りで、その間違いを正さなければいけないという話でした。建国に携わった人々の尊厳に対する冒涜だと思いました。ネタニヤフはアメリカ主義を推進し、資本主義、市場の自由化、また公共福祉は不要だと主張する政治家です。60年前にこの国を作った人々は、すべてを捧げて新しい国を作り上げたのに、今では政府から無視され、年金も削除され、社会から疎外されているのです」


2008年の経済危機では、160人という多くの老人が自殺するという出来事があり、監督はどうにかしてこの話を人々に伝えなければいけないと思ったという。「脚本を書きながら祖母と話をしたのですが、彼女は自分たちがまるで存在しないかのように社会からみなされ、お金を持っていない人間は価値がないという社会に耐えられないと言っていました。彼女たちはたくさんの知恵を持っていて、歴史的な経験をしているのに、社会から疎外されているということが信じられないし、認められません。そのためにこの映画を作りました」


最後に、「映画とは文化と人々をつなぐ架け橋であり、未来に向けての対話であると私は信じています」と語ったマノール監督だが、国際映画祭での上映や本国公開での成功に、たしかな手応えを感じている様子だった。


(取材・文:鈴木自子 撮影:吉田留美)


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