記者会見
TOKYO FILMeX ( 2012年12月 1日 17:00)
12月1日、有楽町朝日ホール11階スクエアにて、第13回東京フィルメックスの審査員会見が開かれ、観客賞、と「タレント・キャンパス・トーキョーアワード」を除く各賞の発表が行われた。
最初に、司会の市山尚三プログラム・ディレクターから、学生審査員の山戸結希さん、三原慧悟さん、長井龍さんが紹介され、昨年に続き2回目の試みとなる学生審査員賞が発表された。
選ばれたのは、高橋泉監督の『あたしは世界なんかじゃないから』(日本)。山戸さんが「日本映画ではなく地球の裏側で作られた映画だとしても、あるエネルギーが炸裂する普遍性を持っています。そのエネルギーは観る者を絶句させるほどに圧倒的ですが、この素晴らしいタイトルの新鮮さを実証しています。映画を観始めた時、あまりにも他人事のように思えたシーンが、ベクトルごと逆転し、確かに私たちの体験として感じられました」と受賞理由を読み上げた。
高橋監督からは、「これから映画に関わろうという凄くギラギラした若い学生から作品を認めて貰えたことは、 "やってやった!"という感じ。凄く嬉しいです、ありがとうございます」との言葉が寄せられた。
次に、ファテメ・モタメダリアさんから、審査員特別賞がソン・ファン監督の『記憶が私を見る』(中国)に贈られると発表され、ヴァレリ=アンヌ・クリステンさんより受賞理由が読み上げられた。「日常の何気ない動作を、繊細な視点で見つめている。この作品は、それらの細やかで小さな描写の積み重ねによって、人間の営みの大切さを伝えている。音楽でいう旋律を追うかのような首尾一貫したスタイルで、生きる事への意味を問うている事を審査員は高く評価し、このデビュー作を審査員特別賞に選んだ」
ここで大きな拍手と共に、ソン監督が登場。「ありがとうございます。余りにも嬉しすぎて、おまけに賞金があることを知らなかったんです。この賞金で、作品に出演してくれた俳優さん達にギャラが出せるかなと思います。先ほど審査員から頂いた受賞理由の言葉は私の心に響きました。次の作品では人間存在の意味を問う映画を作りたいと考えています。この受賞は私にとって大きな励みとなりました。本当に嬉しいです」と、感謝の言葉を述べた。
続いて、最優秀賞が『エピローグ』(イスラエル)に贈られることがダン・ファイナウさんから発表され、秦早穂子さんより受賞理由が読み上げられた。「この作品は、老人たちの悲劇的な問題について、また20世紀のひとつの思想の崩壊について、個人的な視点から若い監督が歴史を真摯に見つめようという試みがなされている。主演の二人は魅力にあふれ、ラストまできちんと主題を追い続けている作り方は高く評価される。映画は悲しみと怒りを越えて、一つの国の問題が世界の普遍的な視点とつながっている。この点で審査員はこのデビュー作を最優秀作品賞に選んだ」
大きな拍手で迎えられ、アミール・マノール監督が登場。マイクの前に立った監督は、「大変興奮しています、大変驚いています、そして光栄です。この映画と共に長い旅路を続けてきました。ヨーロッパ、アジアで上映し、今後アメリカに行きますが、何処に行っても年をとるという事は大きな問題なのだと発見しました。20世紀の思想が崩壊されつつある時代において、私たちは何か共有できる道徳、人間を結びつけるような傷跡となるようなルーツを深く探し求めなければならないと感じました。特に強い社会、人間を作るために、未来の為に。この賞を頂けた事に感謝申し上げると同時に、映画は世界を変えることができると確信しました。それは映画の使命であり、文化や境界を超え、世界に自由と平等をもたらすでしょう。審査員の皆様には、本当に感謝しています。映画を娯楽と考えるべきだと人もいますが、ここにいる皆さんは映画がより良い未来を作り、世界を変える道具の一つだと考えていることでしょう。この事は、私の次回作や今後の在り方にも大きく関ることです」と受賞の喜びを語った。
ここで各賞の発表及び表彰を終え、審査員を代表してSABU審査委員長が挨拶した。
「今回初めてコンペの全9作品鑑賞しましたが、まずお客さんがかなり入っていることに驚きました。3Dを駆使して破壊を繰り返し、快感を得るような一般的な娯楽映画が溢れている中で、東京フィルメックスで上映されるような作品に沢山のお客さんが集まるという事は、私自身作り手として安心しました。まだまだ捨てたもんじゃないな、と。映画は好き嫌いが分かれますが、色々な意見があり、凄く盛り上がった楽しい審査会でした。東京フィルメックスは凄く大切な映画祭ですので、記者の皆さん、ちゃんと書いてやってくださいね」と最後は笑いを誘いつつ語ってくれた。
続いて会場との質疑応答に移り、まず審査委員長のSABU監督に、審査会の中でどのような議論があったか訊ねる声が上がった。
「今回は各個人の1、2位を出し合うやり方をとろうと思いましたが、結局好きな作品を3、4本出し合うことになりました。1、2位は割とすんなり決定しましたが、それ以外を語りだすと意見がぶれたりする場面がありました」
ここで「皆さんはどうですか?」とSABU監督が他の審査員に話を振ると、まずファイナウさんが「今回は、通常の審査会でよくあるように、話し合いながら何本かの推薦作品を選出し、あまり支持されない作品が落とされていくという過程をとりました。ですが、受賞の2作品に関しては、初めから強い印象を誰もが持っていたと言えると思います。審査会では、何故この作品が他よりも優れているのかというディスカッション、その評価を言葉にしていくということを行いました」と語った。続いて秦さんは「全員一致の作品はなかったという意味で、いいディスカッションができた。コンペ以外で言いたいことは、『アバンチ・ポポロ』という素晴らしい作品との出会いがあったこと。記憶賞というものがあれば是非贈りたい。プレスの方で観られた方がいらっしゃれば、是非このような作品の素晴らしさを伝えて欲しい」と訴えた。モタメダリアさんは「私たちは2つの受賞作品についてのみ話し合った訳ではないことをお伝えしたい。各作品について十分話をしました。作品を論じることによって、何故選ばれないのかという事まで深く話し合えたと思います。現代はインディペンデント映画を作ることが非常に難しい時代だという事を踏まえて、彼らに賞賛を送ると同時に、皆さんには我々がコンペの作品全てを見逃さずに議論したことを知っていただきたい」とコメント。最後にクリステンさんが「賞は2作品にしか与えられなかったが、受賞しなかった7作品についての議論が私にとっては一番面白かった。素晴らしい方々と議論できたことをとても嬉しく思います」と語ってくれた。
次に、受賞2作品の監督に対して、若い年齢の両者が共に「老い」をテーマとした事への理由や思いを訊ねる質問が上がった。まずマノール監督が「私がこのテーマを選んだのは、建国以来、文化的変貌を遂げてきたイスラエルの歴史を描きたかったからです。そして変貌の過程の中で一番犠牲になったのは、この国のルーツを作り上げ、創設した老人だと思ったからです。彼らの顔や体、生き方の中には初期の創設した記憶が刻まれています。私の祖父母は3年前に亡くなりましたが、ちょうどその頃、私はこの作品の脚本を書き上げていました。沢山のインスピレーションを与えてくれた彼らのおかげで、貧困についてではなく、人生の意味を問う映画になったと思います。ある時代を経て道筋を振り返る中で、絶望や達成や人生の意味があることを描いてきました。祖母は知恵や経験ではなく、金銭的な理由で人間の価値が定められることを嘆いていました。この映画こそ、人生の意味や悲しみを反芻していく記憶の映画だと考えています。特にアジアは過去の歴史を振り返るときだと思います」と答えた。
続くソン監督は「このテーマで撮るにあたっては2つの理由がありました。まずは時間が流れることに非常に興味があったからです。何故人間の生命には終わりが来るのか、疑問と興味がありました。それから、私と家族との関係は非常に密接なのですが、両親の暮らしをしっかり捉えておきたいと思ったからです。彼らの世代独特の感情や価値観を捉え、その考え方に近づきたいと思いました」と答えてくれた。
最後に市山Pディレクターによって改めて感謝の意が伝えられ、多くの拍手の中、会見は終了した。
(取材・文:草間咲穂、撮影:永島聡子)
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