『おだやかな日常』舞台挨拶、Q&A
TOKYO FILMeX ( 2012年11月29日 22:00)
11月29日、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門の『おだやかな日常』が上映され、上映前の舞台挨拶には、内田伸輝監督をはじめ、プロデューサー兼主演を務めた杉野希妃さん、出演者の篠原友希子さん・山本剛史さん・渡辺杏実さんが登壇した。本作は、『ふゆの獣』で2010年東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した内田監督の待望の新作。ジャパンプレミアとなった会場には、内田作品の熱心なファンの姿も見られ、壇上の内田監督や出演陣に熱い視線が注がれた。
本作は、首都圏に暮らすふた組の夫婦を主人公に、震災直後実際に起こった、人々の様々な反応を描いた作品。「震災と原発事故を東京で経験し、様々なことを見聞きするうちに、「本当にこのままで平気か」と不安を覚えた。この映画を作らなければ、この先、次の映画は作れないんじゃないか。どうしても作らなければいけないと思った」と内田監督。杉野さんは「震災というテーマを扱うこともあり、悪戦苦闘して作り上げた作品。この映画の好き嫌いに関わらず、観終わった後は、感じたことを色々と議論して欲しい」と挨拶した。続いて、出演者それぞれから観客へ挨拶と感謝の言葉が述べられた。
上映後のQ&Aでは、内田監督と杉野さんが再び登壇。まず、司会の林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターから、内田監督と杉野さんがタッグを組んだ経緯について質問。内田監督と杉野さんが出会ったのは、『ふゆの獣』が出品された2011年1月のロッテルダム国際映画祭。その2ヶ月後に震災が起こり、同年6月に内田監督から杉野さんへオファーしたという。杉野さんはオファーを受けた理由について「震災後、多くの映画監督が被災地へ行きドキュメンタリーを撮影した。私も表現者としてその行為は共感できる。一方、自分が生活をしている東京に目を向けると、福島から微妙に離れた東京は、何が危険で何が安全なのか不明瞭な土地だと感じた。その東京で生きるということは、人としてのあり方を問われているのだと思った。東京を舞台にしてフィクションを撮ることに意味を感じました」と話した。
観客からは、内田流の撮影手法についての質問が相次いだ。『ふゆの獣』では、脚本は作られず、プロットの鍵となる台詞以外は役者の即興で撮影された。一方、本作では第10稿まで脚本が練られており、その撮影手法は対照的かと思われたが、内田監督は「台詞は、きっちり書いてあるが、あくまでもキーワードとして捉えている。役者さんには、セリフは忘れていいので、その時感じた気持ちのままで演じて欲しい」とリクエストしたという。
杉野さんは役者としての立場から「課題は、「脚本をいかに破壊していくかということ」と言われた。感じたままを演じることで、役者として試されている感覚は大変だったが、とてもエキサイティングな現場だった」と当時の心境を語った。脚本はあるものの、役者自身の言葉で演じるため、台詞の読み合わせやリハーサルは一切行なっていない。その狙いを「テイク1が一番良い可能性が高い」と内田監督。
杉野さん演じるサエコは、子どもを放射能から守ろうとするあまり、錯綜する情報や周囲の目に苦悩する母親。内田監督は、「震災後、ある母親がネット上に「未来を奪われた。未来を返してほしい」と書いているのを読んだ。子どもは未来であり、この映画はその未来を取り戻す映画。未来を取り戻すために、私たちはどうするのか、という想いを込めた」と、観客へ熱く語りかけた。
観客からの質問の挙手が途切れることはなかったが、予定時間を越えてQ&Aは終了。『おだやかな日常』は、12月22日(土)より渋谷のユーロスペースほかで上映される。また、次の新作『さまよう獣』も完成しており、2013年2月2日に公開が決定している。
(取材・文:小嶋彩葉、撮影:穴田香織、村田まゆ)
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