『アバンチ・ポポロ』舞台挨拶
TOKYO FILMeX ( 2012年11月25日 22:30)
2012年は、イスラエルと日本が外交関係を樹立して60周年。この記念すべき年に、イスラエル映画史上に残る傑作から、厳選されたクラシック4作品が特集上映される。そして11月25日、『アバンチ・ポポロ』の上映に先立って、イスラエル大使館のニル・タークさんと今年度の審査員でもある批評家のダン・ファイナウさんによる舞台挨拶が有楽町朝日ホールにて行われた。
まずはイスラエル大使館のタークさんが今回の特集が実現した経緯について語ってくれた。
「今回の企画の発端は、2年前に東京フィルメックスの林・市山両ディレクターが実際にイスラエルを訪れたこと。エルサレムのシネマテークにて数多くの作品を鑑賞して頂き、同時に沢山の交流の場を設け、そこでの出会いが今回のプログラムを実現させた。ここで強調したいことは、沢山の人との出会いが文化交流のスタート地点であるということです」
今年、イスラエルと日本の両国で、文化交流を目的とした数多くのイベントが行われ、さまざまなアーティストが行き来した。この交流を通した出会いをきっかけに、今後数年に渡って様々なプロジェクトが立ち上がるだろう、とのこと。
今回は特集上映のほか、コンペティションに2本のイスラエル作品(『514号室』、『エピローグ』)が選出されており、またアモス・ギタイ監督の『父へのララバイ』『カルメル』が特別招待作品として上映される。
「東京フィルメックスは、非常に重要な問いを投げかけています。それは、現在のイスラエル映画の隆盛の源が、過去の映画たちにあるのかどうか、ということ。古典と現在の映画とが合わせて上映されるこの貴重な機会に、観客の皆さん自身が、その答えを見つけてくださるのではないかと思います」とタークさん。
次に『アバンチ・ポポロ』の制作背景を、ファイナウさんが語ってくれた。本作は、夭折の映画作家ラフィ・ブカイーの監督デビュー作であり、第三次中東戦争の末期、スエズ運河を目指してシナイ半島を敗走する2人のエジプト兵の視点を通して反戦のメッセージを打ち出した戦争映画。イスラエルにおいては"幻の宝物"だと考えられているそう。それは、悲運な運命が故にまだ一部の人にしか鑑賞されていないからであるという。
ブカイーはテルアビブ大学在学時にこの作品の制作に着手したが、脳腫瘍が見つかり、2年間撮影を中断せざるを得なかった。回復後、1年かけて完成させたものの金銭的問題からプロデューサーに権利を売却することになりロカルノ映画祭でのTV部門での受賞だったため、なかなか大きな注目を浴びられなかった。そして少し後になってから、ようやく才能のあるセールスエージェントの手に渡ったときには、すでに古い作品として扱われてしまうことになったのである。
しかし、批評家の中ではイスラエル映画史上最高の映画だと高く評価されている。「このイスラエル国内でも十分に上映されておらず、海外でもちらほらと紹介が始まったばかり。視覚的、内容的にも素晴らしい作品だと、皆さんにも感じて貰えるはずです」。また、ファイナウさんは、この映画の題材である中東紛争は現代でも続いている、と観客に訴えた。
最後にタークさんが「私は特集上映中、毎日足を運ぶつもりです。会場でお目にかかったら、ぜひ疑問や新しいアイデアを私に聞かせてほしい」と熱いメッセージを投げかけ、舞台挨拶は終了した。
「イスラエル映画傑作選」では今後、11/27『エルドラド』11/28『サラー・シャバティ氏』11/29『子どもとの3日間』が上映される。なお、東京フィルメックス終了後の12/8、9にオーディトリウム渋谷にて全4作品の追加上映が行われる。
(取材・文:草間咲穂、撮影:永島聡子、吉田留美)
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