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『Peace』Q&A


TOKYO FILMeX (2010年11月23日 15:30)

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11月23日、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『Peace』の上映が行われた。『選挙』(07)『精神』(08)に続く想田和弘監督の第三作は、岡山で福祉に携わる柏木寿夫・廣子夫妻と、一人で暮らす91歳の橋本至郎さんの日常を中心としたドキュメンタリー。上映終了後、監督が登壇し、観客とのQ&Aを行った。


まず、司会の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターが、この作品を作るきっかけを訊いた。
「韓国のパジュで開催される非武装地帯国際ドキュメンタリー映画祭から、"平和と共存"をテーマにしたオムニバス映画のために短編を作ってほしい、という依頼があったんです。実は、これを引き受けるつもりはありませんでした。理由の一つは、テーマがあまりにも大きすぎると思ったから。それから、僕は普段、映画を撮る際にあらかじめテーマを決める、ということをしないんです。テーマに引きずられて、現実をよく観察することができなくなる。「観察映画」にならなくなってしまうから」と想田監督。ほとんど断るつもりだったというが、転機となったのは映画の冒頭から登場する野良猫たちの存在だった。
「岡山にある妻の実家に帰省した際、妻の父である柏木さんが猫に餌をやっているところを何の気なしに撮影していたんです。ちょうどその頃、猫たちの共同体に外から泥棒猫が入ってこようとしている、という状況があった。これは猫をめぐる"平和と共存"の映画が作れるんじゃないか? とその時思ったんです(笑)」
ここで、来場されていた柏木寿夫さんが紹介され、場内は大きな拍手に包まれた。寿夫さんの猫の餌やりから始まった撮影は徐々に対象を広げ、寿夫さんの仕事である有償福祉移送、一人暮らしの橋本さん、その橋本さんのケアを担当している廣子さんにもカメラを向けるようになり、「知らない間に長編になっていた」という。


続いて、会場からの質問が募られた。最初に手を挙げた男性の質問は、橋本さんが自らの戦争体験を語るシーンについて、「戦争のことは監督が訊ねたのか、それとも自分から話してくれたのか」というもの。


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それに対して監督は、あのような場面が撮れたことこそ「ドキュメンタリーの面白いところ」だった、と応じた。
「実は最初、橋本さんを撮ることを躊躇していました。なぜなら"平和と共存"に全然関係なさそうだったから。でも、テーマに縛られてはならないと思い、橋本さんという魅力的な存在をカメラに収めようと思い直しました。まず気がついてカメラを向けたのは、彼がPeaceというタバコを吸っている、ということでした(笑)」
あのシーンを撮ったのは、橋本さんに会った最後の日のことだったという。監督自身がまったく予期しないまま、橋本さんはいきなり戦争のことを話し始めたのだそう。「"これでひとつ映画ができる"と思った瞬間でした」。

「観察映画では、事前の打ち合わせやリサーチをしません。実際に撮影や編集をする過程で、対象を理解していくんです。先に橋本さんのことをリサーチしていたら、戦争の話をしてもらおうと思っていたでしょう。でも、(こちらからではなく)橋本さん自身があの話を始めたときは、僕の人生にとって特別な瞬間でした。このやり方だからこそ、その瞬間をカメラに残すことができた」


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次に挙手したのは、なんと想田監督の「観察映画」第一弾『選挙』に登場した元川崎市議の山内和彦さん。監督から山内さんが紹介されると、場内は大きく沸いた。「橋本さんが戦争の話をするのはラスト近く。このタイミングが作品にとって重要だと思うが、これは撮影の時系列に沿ったもの?」と山内さん。


これについて監督は「橋本さんの登場する部分については、時系列はそのままです。橋本さんに関しては入れ替えない方が自然な流れになると思った」。
しかし、通常は撮影の時系列にはとらわれないという。「その他の部分は編集で入れ替えたりしています。並び替えたり挿入したりすることによって、ばらばらに撮ったシーンとシーンが感情的な繋がりを持つ、ということを、いつも編集の段階で発見することができるんです」。


今回は「観察映画番外編」で、予期せぬ形で一本の映画ができあがったという想田監督。次にどのような対象にその透徹したカメラが向けられるのか、続く「観察映画」に期待したい。
想田監督の第二作『精神』は、渋谷アップリンクXにてアンコール上映中。また12月5日には、青山ブックセンターにて想田監督によるトークイベントが予定されている。


(取材・文:花房佳代、写真:関戸あゆみ)

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