『The Depths』舞台挨拶・Q&A
TOKYO FILMeX ( 2010年11月24日 19:00)
11月24日、有楽町朝日ホールにて、特別招待作品『The Depths』が上映された。上映前の舞台挨拶と上映後のQAに、ゲストとして出演俳優の石田法嗣さんと村上淳さん、濱口竜介監督が登壇した。QAでは、濱口監督が韓国出身の主演俳優キム・ミンジュンさんの魅力について熱く語る場面もあり、ワールド・プレミア上映に駆けつけた多くのファンを大いに魅了した。
本作は、濱口監督が2年前まで在籍していた東京芸術大学大学院映像研究科と韓国国立映画アカデミー(KAFA)の企画コンペから生まれ、共同制作作品として選ばれた作品。その半年後、物語の筋が決まった段階で濱口監督の元に監督打診の話があったという。撮影は今年3月に行われた。
「非常に面白いと思う部分と、本当に大丈夫かなと思う両面がありました。観客に受け入れられる作品になるのかという不安はありましたが、自分では発想できない物語を撮る機会でもある、ということでやることに決めました」と監督。
日本と韓国の合作で、プロデューサーと撮影は韓国チーム、脚本と監督は日本チームが担当している。それゆえ、白熱した現場になったとのことだが、その様子について、村上淳さんは「韓国の女性カメラマンと濱口監督がずい分やりあってました(笑)。お互いに譲れないものがあって、それが最終的にとても力強い作品になったと思います」と当時を振り返った。また濱口監督について、村上さんは「監督は(周りの俳優仲間で)話題の監督です。『PASSION』も観ましたが突出した才能の持ち主であり、映画と向き合ってる監督だなと思います。あと『ヨーイ、スタート!』の声がとてもデカいです(笑)」と、監督の知られざる一面を明かした。
石田法嗣さんは、塩田明彦監督『カナリア』で6年前に東京フィルメックスに来場している。今回は男娼という難役だったが、撮影での苦労は絶えなかったようだ。「ほとんどのシーンが大変でしたが、とくに男性とのキスシーンは初めてだったので、とてつもなく大変でした。車の中でのキスシーンはハンバーガーを食べながらだったので、臭いとか本当にキツかったです(笑)」。
キム・ミンジュンさんの起用について質問が上がると、多くを語らない印象の濱口監督が「キム・ミンジュンさんのことなら、この場で15分は語れます!」と突如、饒舌に。
「一言でいうなら、本当に素晴らしい方でした。韓国映画についてそれほど詳しくはなかったし低予算といっていい規模の映画だったので、(韓国チームに)候補者リストを作ってもらいました。そのリストにキム・ミンジュンさんの名があったのですが、彼以外は候補として考えられませんでした。この人がいてくれたら、この映画は成立するかもしれないと思ったからです。ただ、やはりスターですので、出演していただけるかわからなかったのですが、脚本を送ったら興味を持っていただけたので、(韓国の)釜山まで行きました。どこの馬の骨かわからない日本の監督にたいして、彼は本当に最大限の礼儀で接してくれました。4〜5時間お話しし、出演して欲しいとお願いしました。実際、出ていただいて本当に良かったと思っています」。
監督は、キャスティングの経緯とキム・ミンジュンさんの人柄についてひと通り語ると、石田さんにも感想を求めた。石田さんも、「(キム・ミンジュンさんは)背中が広いというか、ついて行っても大丈夫だなと思いました」と、映画の内容にリンクしたコメントで応じ、会場の笑いを誘った。
タイトルについて、林 加奈子東京フィルメックスディレクターが「"深さ"だと"depth"になり、(通常は)sは付かないですよね?」と、そこに込められた意味を訊ねると、監督は「"被写界深度"などという時に使う"深度"という意味で、このタイトルがつけられていた。プロデューサーが資金集めのためにドイツの映画祭に行ったのですが、その時に"depth"にsを付けると、"人の心の奥底"という意味合いが出てくると聞きました。いろんな人の心の奥底が見える、この作品に相応しいのではないかと思い、sを付けることにしました」と、その理由を説明した。
最後に客席の女性から、「ラストの写真に書いたメッセージ」について訊ねられた監督は、「韓国に連れて行かずに、一人で帰国しなくてはならなかった理由」がヒントであるとコメント。それに対して村上さんが、「解釈は皆さんひとりひとりが自由で構わないと思う。想像に委ねるのは監督の誠実さですよね」。意味深な結末に思いをはせつつ、質疑応答は終了となった。
出来上がったばかりの本作は、韓国では12月に1日限りの上映が決まっているが、日本ではまだ公開は目指している段階だという。林ディレクターが「日本で上映されるためには、みなさんの応援が不可欠です。本作の魅力をぜひ周りの人に伝えてください」と呼びかけると、会場から大きな拍手が起こった。
(取材・文:鈴木自子 写真:米村智絵、内堀義之)
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