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『幻の薔薇』Q&A


TOKYO FILMeX (2010年11月28日 12:50)

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11月28日、有楽町朝日ホールにて、特別招待作品としてアモス・ギタイ監督の『幻の薔薇』が上映された。イスラエルを代表するギタイ監督は、新作が完成するたび東京フィルメックスで上映される常連の監督。今年も昨年に引き続き最新作を携え来場された。フランスの映画監督や文学との関係性について、多くの熱心な質問が寄せられたQ&Aとなった。

 
今作は、フランスの女流作家エルザ・トリオレが1953年から54年にかけて執筆した小説を映画化したものであるが、この原作を採り上げた理由について質問が挙がった。原作者の文章に興味があったと答えたギタイ監督は、続いてその作品や時代背景について説明した。「ナイロンの時代」という三部作のうちの一つで、彼女はその三部作で2つの大戦を経たヨーロッパを描こうとしていた。「ヨーロッパ大陸は戦争によって痛めつけられました。その後人々は理想主義を持たなくなってしまい、金儲けと消費活動の中に小さな幸せを求めて、消費文明を発達させ自分自身を埋没させようとした。日本も同じでしょう。土地そのものを非政治化してしまう流れは、今も続いているだろうし、私たちはそのような時代に生きている」。トリオレは女性を通して、そういった時代の流れを描こうとした作家だったと思う、と監督は語った。
 


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続いて「監督は建築出身ということで、今作の建築スタイルやインテリアについて苦心されたのか。また、アルフレッド・ヒッチコック監督の『裏窓』にあった様な、窓の向こう側の人が動くといった、精細なシーンの積み重ねであったように思うがどうか」との質問に、重要なことを指摘してくれた、と監督。「ヒッチコック監督だけではなく、スペイン出身のルイス・ブニュエル監督にも言えること。彼らの映画の大きな特徴は、外国人として撮った時期があったということだ」。ブニュエル監督が初期にスペインで撮影した作品では視覚的芸術家としての面が大きかったが、彼がスペインを離れフランスで映画を撮り始めた時には、鋭い目線で当時のブルジョワジー社会を描くようになっている。その例に『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(72)『欲望のあいまいな対象』(77)を挙げ「彼が外国人であるからこそ、ある種一定の距離を持って社会を見ることができ、それ故の明晰さがあのような映画を可能にしていると思う」とギタイ監督。それはヒッチコック監督も同じ。イギリス時代は物語を説明するために映像があったが、アメリカに移住した後、アメリカ国家の持っている全体像と輪郭を抽象的に引き出すことによって極めて優れた作品を生み出した。ブニュエル監督フランコの独裁体制、ヒッチコック監督は第二次世界大戦のため自国を離れた。「新しい土地で、それまで自分が作ってきたものの延長として、その地にどのような建築物があるか どのような物語を構築していくか探っていくことは、非常に興味深い体験になり得る場合がある」とギタイ監督は結んだ。
 

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「台詞を聴いていて、ジャン=リュック・ゴダール監督をはじめとするヌーヴェルヴァーグを思い出した。言葉が空間にどう置かれていったのか」との質問を受けると、ギタイ監督は20世紀後半の最も重要な人物の一人を忘れるわけにはいかない、とゴダール監督に敬意を示した。「フランスで映画を撮るということは、何らかの形でゴダールの映画との対話が起こると思う。同じくヌーヴェルヴァーグの重要人物エリック・ロメールについても言えることで、今作最初の方の比較的ルーズな撮影の仕方のシーンは、ロメール監督との対話」とギタイ監督。また撮影についても触れ、今回のフィルメックスで上映された『エステル』にも通じる方法で、1ショットで1つのシーンを撮影し、原作の章に対応しているそうだ。撮影監督エリック・ゴーティエの参加が非常に重要であり、「彼は素晴らしかった。また、フランスの才能ある俳優たちとの仕事は楽しかった」と語った。また、フランスの芸術作品との関係性を問う質問が続き、主人公のマージョリーヌはフランスの小説家ギュスターヴ・フロベールの『ボヴァリー夫人』の主人公エマを連想したとの指摘に、「大きな違いがあり、マージョリーヌが求めているものはあくまで新しい、現代的なもの。それは彼女だけでなく、最新の遺伝子研究に基づき薔薇の栽培をしようとした夫ダニエルにも言えること。マージョリーヌはダニエルよりさらに極端に、新しいものへの欲望をむき出しにした」とギタイ監督は答えた。
 

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「マージョリーヌは消費社会の犠牲者なのか思ったが、ラストの街を歩く様はサバイバーのよう。現代まで彼女が生き残っていたように思えた。」との質問に、「私から見ても彼女は犠牲者かサバイバーかわからない」とギタイ監督。「むしろ消費文明の積極的な参加者であると、別の見方をした方が良いかもしれない」。消費文明と忘れることの関係性を説き「しばしば人間は記憶の大切さを語るが、しかし生きていくためには忘却も非常に必要なこと」と最後に印象的なコメントを残した。
 

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フィルメックス終了後も、アモス・ギタイ監督の特集上映「越えていく映画」は引き続き開催される。11月29日にはアテネ・フランセ文化センターにて、1980年のドキュメンタリー作品『家』の上映と、ギタイ監督と写真家である港千尋さんとのトークショーがあり、また11月30日から12月12日までの8日間、東京日仏学院にて上映される。11月30日、12月2日には、作品上映後建築家である鈴木了二さんとのトークショーがある予定。市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターは、日本初上映となる『石化した庭』は大変貴重な作品でありぜひこの機会に、また他の作品も1本でも多くギタイ作品を観てほしい、と観客に呼びかけた。
 
(取材・文:大下由美、写真:村田まゆ)
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