『愛が訪れる時』舞台挨拶・Q&A
TOKYO FILMeX ( 2010年11月26日 22:30)
第11回東京フィルメックスも後半となった26日(金)、コンペティション作品『愛が訪れる時』が上映された。上映後にはチャン・ツォーチ監督と主要キャストを迎えてのO&Aが開催された。『最愛の夏』(99)、『お父さん、元気?』(09)など常に家族の問題をテーマとしてきたチャン監督の最新作は、台北を舞台に大家族の複雑な人間関係の中で周囲との軋轢に悩みながら生きるヒロインを力強く描いている。本作は、先日発表された台湾のアカデミー賞と言われる第47回台湾金馬奨でグランプリに輝いた。
Q&Aにはチャン監督、主役のライチュン役のリー・イージェさん、妹役のリー・ピンインさん、自閉症を抱えるライチュンの叔父アジェ役のガオ・モンジェさんが登壇。ガオさんは「こんばんはアジェです。絵を描くのが大好きです」とアジェ役そのままに日本語での挨拶に挑戦し、会場から大きな拍手がおくられた。
最初の質問は劇中に登場するニワトリの演出方法と彼の余生について。チャン監督は「あのニワトリはクランクイン前に買って来て育てていた」と説明し、ガオさんは「徐々に人の言葉や話を理解してきたし、僕の言う事もよく聞くようになった。今は照明担当だったスタッフの家にいます」と語った。
次に、大家族の複雑な人間関係を演じる上で苦労した点について訊かれると、イージェさんは「初めて映画に出演し、そのプレッシャーは本当に大きかった。撮影当時私は17歳でしたが、ライチュン役はベッドシーンがあったり、パパイヤの木に八つ当たりして幹を折ったり、父や母と喧嘩したりと、全てが自分の経験とはかけ離れていて難しい役どころ。毎シーン、チャレンジすることばかりだった」。
ピンインさんは「私も撮影中は16歳。演技に入るたびに緊張していて、難しい役でしたがスタッフの皆さんが私を助けてくれた。これからも演技を磨いていきたい」と語った。
一方、ガオさんは自閉症を抱えるアジェ役は大変だったと前置きし「クランクイン前から役作りをしていたので、自宅でもアジェの様にゆっくりしゃべるようにしていた。それを聞いた父親に「お前、何をそんなにゆっくり話しているんだ」と心配された。これは撮影終了後も続いて、暫く役柄から抜けられなかったほど」と語った。
劇中の出産シーンについて「台湾では自宅出産が普通なのか?」と質問が及ぶと、チャン監督は「台湾では病院での出産が普通ですが、ツーホァ(ライチュンの母)とライチュンだけは例外なんです」と回答し会場の笑いを誘った。
また、カメラマンだという来場者から、「毎回素晴らしいカメラワークだが、カメラマンに対して監督が望むことは何か?」と質問がされると、チャン監督は「配給会社の方ですか?」と茶目っ気たっぷりに返し笑いが起こった。実は撮影中にモニターは見ない、という監督。カメラマンを「自分の"目"として信頼し、任せている」とし、「それには互いに相手を理解しているかどうかが重要。普段の生活での意思の疎通が大事です」と語った。本作では、『最愛の夏』と同じチャン・チャンさんが撮影を担当している。
最後の質問は劇中でアジェの描く印象的な絵について。
チャン監督から「あれば全部モンジェが描いたものですよ」と明かされると、会場からはガオさんに大きな拍手が。「自閉症の方々の自己表現のひとつに絵を描くことがあり、これを参考にしました。部屋にこもりひたすら絵を描く役なので、役になりきるために一ヶ月間部屋に閉じこもって、演技の雰囲気作りだけでなく絵も描いてもらった。ひとつ困ったのは彼がそのせいで太ってしまったこと」と監督が語ると、再び大きな拍手が起こった。
ここで時間となりQ&Aは終了となったが、チャン監督・キャスト3名の映画作りへの真摯な想いに、会場からは惜しみない拍手と歓声がおくられた。
(取材・文:阿部由美子、写真:村田まゆ)
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