『ふゆの獣』舞台挨拶・Q&A
TOKYO FILMeX ( 2010年11月27日 15:00)
有楽町朝日ホールで11月27日、コンペティション部門の出品作、内田伸輝監督の『ふゆの獣』が上映された。上映に先立って行われた舞台挨拶、上映後のQ&Aに内田監督とキャストの加藤めぐみさん、佐藤博行さん、高木公介さん、前川桃子さんが登壇。作品上映の喜びと感謝の言葉を述べた監督に続き、高木さんが手作りの"『ふゆの獣』Tシャツ"をアピールして会場を湧かせるなど、監督、キャストの作品への熱い想いとチームワークの良さが観客席まで伝わるステージとなった。
舞台挨拶で加藤さんが「ここにいる4人のキャストと、スタッフ3人という非常に少ない人数で撮影した作品だが、このメンバーでしか出来ない映画が撮れた」と述べたとおり、『ふゆの獣』の登場人物は4人のみ。しかも同じ職場という狭い人間関係の中で展開される恋愛模様を、俳優たちが感情をぶつけ合いながら演じている。
まず市山尚三・東京フィルメックスプログラム・ディレクターが「これが監督の長編3作目となるが、ストーリーの設定はどのように思いついたのか」という質問を投げかけた。「女性の恋愛相談を聞いていると、他人は「ちょっとそれはヤバイよ」と思うような話でも、本人は盲目だったりする。そんな、盲目的な作品を作ろうと思った」と答えた監督。初監督作の『かざあな』(07年)も「ものすごくパワフルなラブストーリー」(市山Pディレクター)だったが、「恋愛を通して色々なことを表現していけたらいいと思っている」と語った。
今回、4人のキャラクターを創造していくに当たり、それぞれが生まれてから現在に至るまでのバックグラウンドをA4用紙1~2枚のボリュームで作成。脚本は作らず、このバックグラウンドと物語のプロットをもとに撮影を進めていったという。そんな内田監督に、「それぞれのキャラクターに何パーセントぐらい共感できるのか?」という質問が向けられた。「共感できるところもあれば、できないところもある。すべてのキャラクターに対して、共感できる部分は50%ぐらい」と監督。分からない部分の演出を現場で探り、俳優の生の感情が引き出されていったライブ感が感じさせた。
監督の「キャラクターに50%しか共感できない」という回答を受けて、キャスト4名の「キャラクターと似ているところ、違うところ」も問う声が上がった。好きな女性にフラれてしまうノボル役を演じた高木さんが「プライベートでも女の子をとられるし・・・」と自虐的な切り返しで場内を湧かせると、盲目的に好きな男性を思い続けるユカコ役の加藤さんは「共感度はゼロパーセント」と真逆の回答。「今までしたことがないような恋愛を、この映画の中で体験した」と語った。"汚れ役"シゲを演じた佐藤さんは、撮影に臨むにあたり「恋愛の再現を映画にするのではなく、本当の恋愛を映画にしようと話し合った」ことを明かすと、「4人の関係性を作ることが重要だったため、1カ月前から毎日のように連絡を取り合って関係を築いていった」と役作りの裏話を披露してくれた。好きになった男性に裏切られたサエコ役の前川さんは、「キャラクターの持つ背景などを想像しつつ、その場で感じたことをしゃべろうという気持ちで現場へ行った。自分が恋愛でダメージを受けたような感覚がまだ残っている」と告白。劇中の激しい感情のぶつけ合いに費やされたエネルギーの大きさをうかがわせた。
若者4人の恋愛模様を追う今作だが、『ふゆの獣』というタイトルに込めた意味を質問された内田監督は次のように答えた。「4人のキャラクターを設定してぶつかり合わせた時、"獣"とつけた。"人は獣"だと思っているので」。誰でも目の当たりにしたことがあるような、狭い世界での恋愛関係。男女のむきだしの感情が激突する90分の物語は、確かにこのタイトルにふさわしい。
(取材・文:新田理恵、写真:村田まゆ)
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