『妖しき文豪怪談「片腕」「葉桜と魔笛」』Q&A
TOKYO FILMeX ( 2010年11月24日 22:00)
11月24日、有楽町朝日シネマにて『妖しき文豪怪談「片腕」「葉桜と魔笛」』(NHK BS hiで放映された作品の劇場用再編集版)上映後、「葉桜と魔笛」の塚本晋也監督、主演の河井青葉さんと徳永えりさんをお招きしてQ&Aが行われた。
冒頭、機材トラブルによりプログラム前半の落合正幸監督作品「片腕」の上映が中断されたことについて主催者からお詫びがあり、その後、予定より遅い時間のスタートとなったが、会場でお待ちくださった観客の皆さんの温かい拍手に迎えられて、3人のゲストの方々が舞台に登場された。
最初に市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターからのいくつか質問が出された。
まずNHK BShiでの放映後に映画祭で上映、という珍しいルートを辿ったこのプロジェクトについて聞かれ、監督は「テレビ放映してそのあと劇場版にという企画で、映画の監督が文豪の作品を撮る、と決まっていた。NHKの人も果敢だなと思って(笑)引き受けた」と経緯を述べた。
次に、「塚本監督とNHKというとやや意外な取り合わせだが」との問いに、「僕のアングラな映画とNHKとは合わなさそうですが、僕けっこう好かれておりまして(笑)出演多数なんです。NHKドラマ「慶次郎縁側日記」や「ゲゲゲの女房」、今年の暮れには「坂の上の雲」のラスト2回の非常に大事な役で出演してますし」と明かした。
その昔、お茶の間になじみ深い役者とアングラの役者が同じ画面に出る、例えば唐十郎が出演した大河ドラマ(「黄金の日々」)の場面が好きだったそうで、自分の出演シーンを見て「(NHKのドラマの中に)こんなアングラな人間がいるのを、どこかで中高生がクスッと笑ってくれてるんじゃないか(笑)」とも。
続いて女優陣へ質問が向けられた。姉役の河井さんに、演じてみての感想を問われると、「感情の揺れが激しい役で、後半は泣いている場面が多かった。集中力が必要だと台本読んで思ったんですが、それに反し現場は明るい雰囲気で進んでいくので「このまま大変なシーンにいっていいのかな」と不安になりました。でもある日、撮影後に帰り支度をしていたら、監督がひとりでポツンと階段に腰掛けて近寄ってはいけないような空気を出してたんです。次の日が大変なシーンの撮影だったんですが、その姿を見て「明日に備えて監督も闘ってるんだな」と思い、大変なのはわたしだけじゃないと気が楽になりました」。
妹役の徳永さんへは「『アキレスと亀』(08)の北野武監督や『春との旅』(10)の小林政広監督といった国際的評価も高くフィルメックスとも縁の深い監督の作品に出演されているが、国際的に高い評価ということでいえば"元祖"の塚本監督作品に出てどんな印象を?」という質問がなげかけられた。
「塚本さんとの出会いは役者としてで、それもNHKドラマの先生役と生徒役。監督には『鉄男』のイメージがありましたが、今度、監督と役者ということになったとき、最初のイメージは朗らかな感じだったので、どう豹変されるか楽しみだったんですが(笑)、現場でも朗らかな印象は変わらず。ただびっくりしたのは監督がカメラをかついだ瞬間。監督自身が撮影もするとは思わなかったので(笑)。そして本番に入ると監督の目がぐわんぐわんと魂が入ったと言いうか、一瞬で変わって」と徳永さん。
次に会場から監督への「揺れるカットが多かったが」との声に「俳優さんを映すときは、じっと見たいのでカメラは手で持ちます。今回は(一部を除いて三脚には)あまり留めなかった」。ちなみに最後の姉妹二人のすばらしいシーンの演出は、「今度は(塚本監督作品でおなじみの)鉄もなければ血しぶきも上がらない。お二人の演技にかかっていますんでよろしく!」の一言で、あとは二人にまかせて監督がひたすらカメラを回した、という。
続いて塚本監督へ「この原作(太宰治「葉桜と魔笛」)を選んだ理由は?」という質問。
これについては、塚本監督の当時の心境にしっくりくるものにしたという。姉が病身の妹を世話するという設定には、監督自身が8年間母を介護した経験も重ね合わされている。「それから、子どもが入院し、一晩付き添ったことがあったのですが、隣の部屋で入院中の別の子どもさんの容態が急変してお亡くなりになってしまい、それが心に残って。触れないといられないような気持ちになり、「葉桜と魔笛」を読んだとき、自分のやりたいことを自然に溶け出させることができるような感じがあって、個人的なことではありながら大事なことを描けるかもしれない、ということで選びました」。
最後の質問は「テレビ版が映画になり、音も新たなこのバージョン、河井さんと徳永さんのご感想は?」。
「音がグーッとくる。亡霊が家に入ってくるシーンが怖かった」と河井さん。徳永さんは「劇場版は、眼や汗といった"人間"が出るもの、エネルギーがダイレクトに伝わるうれしさがある。音も気持ちをひっぱる力が増した」とテレビ版とはまた一味違った劇場版の魅力について語った。
(取材・文:加々良美保、写真:米村智絵)
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