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『夏のない年』P・テオさんQ&A


TOKYO FILMeX (2010年11月21日 18:30)

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開催2日目となった11月21日。有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『夏のない年』が上映された。上映後、サウンドプロデューサーを務めたピート・テオさんがQ&Aに登場。作品参加の経緯からマレーシア映画の将来まで幅広い内容となった。

テオさんの本業はミュージシャンだが、様々な映画にサウンドプロデューサーとして参加しており、また俳優としての活動も。「15MALAYSIA」では短編のプロデューサーも経験している。この映画に関わった経緯について、テオさんは「実はタン監督の作品に俳優として出演したことがあり、彼女のデビュー長編『愛は一切に勝つ』(06年)では主役のオファーがあったが、スケジュールが合わず断念。長編2作目となった『夏のない年』ではサウンドデザイナーとして参加して欲しいとオファーがあり、快諾しました」と語った。また「撮影前から参加したことで、サウンド面での難しさは感じていた。音の殆どは屋外の音で、自然相手のものだったから」とサウンドプロデュースで苦労した点を明かした。


テオさんはサウンドデザインと作品世界の関わりについて「タン監督のテーマは「記憶の性質」にあり、現実・現在と過去の関わり方をビジュアル面で表現したのが監督なら、自分は音でそのアイデアを具現化した」と説明。「過去と現在のつながりをあえて「ぼやかす」のが自分の仕事でした。そうしたアイデアが集結したのが、少年が海辺を歩いているシーン。このシーンはほぼサイレントの状態となったが、それは監督と話す中で決まった」と語った。

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この作品の撮影場所となったマレーシアの海辺の村は監督が生まれ育った場所で、主人公の祖父役は監督の古くからの友人だという。テオさんはその地理・文化的背景について「西のクアラルンプールは人種が入り混じる地域だが、この映画の舞台である東部は俗に言う「マレーシアっぽさ」=土着性の強い場所。言葉に関してもマレー系の人が多く、マレー語が使われている。自分も小さい村の出身なので雰囲気は理解できていた。監督は自分が育った場所で、子供時代の記憶をテーマに映画にしたかったのだと思う」と語った。


次に、長回しが多用された理由について質問が上がると「長回しはマレーシア・ニューウェーブと呼ばれる監督の特徴で、ジェームス・リー監督、ホー・ユーハン監督も同じ系列だと思う。おそらくイタリアのリアリズムやフランスのヌーヴェルヴァーグ、ホウ・シャオシェン監督(台湾)の影響が強いと感じている」と説明。また、「マレーシアでは国の公的な支援で映画を撮影することは殆どない。現在では変化してきているが、以前はなるべく(カメラを動かすのではなく)俳優に動いてもらうというミニマムな映画の作り方がされていた」とマレーシア映画製作の状況から起因していると語った。また、全編にわたって音楽が挿入されていないが、「サウンドデザインもミニマムに考えていた。既にシーンごとに多くの音が入っていて、それ以上に追加すると嘘っぽさや作りものになるのではという思いがあり、手を加えないと決めた」と語った。

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最後に、マレーシア出身の観客から「マレーシア映画の今後についてどのように考えるか、映画界をリードしていくのはどのような人々なのか」という質問が上がった。
マレーシアでは「言語と映画の関係を無視出来ない」とテオさん。マレーシアの公用語はマレー語、中国語、英語、タミル語の4つだが、「マレーシア映画」=マレー語で作られた映画、という定義が国で定められているという。しかし、「ジェームス・リー監督は中国語、インド系の場合はタミル語、とマレーシア・ニューウェーブの監督たちは違う動きを見せています。しかし、マレー語で作られていないが故に、国の公的支援を受けられない状況にある」。この状況には変化が起きており「自分達の世代からは不満、抵抗が多く出ている。支援の対象がマレー語で制作されたものだけでは、マイノリティを周辺に追いやることになる。政府も方針の転換を迫られている」という。テオさんは「映画は現実を反映させたものであるべき。マレーシアは多言語の国で、皆いくつもの言語を使っている。映画を政治の道具に使い、マレーシア人のアイデンティティを決めようとしたことが、却って自国の文化の豊かさを殺してしまった」と語った。
マレーシアの今後の発展、特に映画のためには「自分たちの文化の本来の豊かさを活かしきれていない現実に、我々の世代は声を上げて抵抗していく事が必要」と語った。


最後に今後を担う人材については「ヤスミン・アフマド監督が亡くなったことは本当に残念でした。しかし、映画文化は一人では作ってはいかれないもの。色々な人たちが声を上げていくことで、マレーシア映画のアイデンティティが生まれていくはず。一人では成し遂げなれないし、まして政治家が「これがマレーシア映画」と決めるものではない」と熱く語った。


ここで時間となりQ&Aは終了となったが、テオさんからは「15MALAYSIA」(http://15malaysia.com/films/)の公式サイトもぜひ見て欲しいとのコメントが。『夏のない年』は24日にも上映され、上映後にはタン・チュイムイ監督とテオさんによるQ&Aが予定されている。


(取材・文:阿部由美子、写真:関戸あゆみ)

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