第4回「映画」の時間
TOKYO FILMeX ( 2010年11月23日 15:30)
第11回東京フィルメックス4日目となった23日(火)に、子供たち向けワークショップ「「映画」の時間」を開催した。「映画の未来へ」を掲げる東京フィルメックスでは、過去3回子供たちの手による短編映画製作のワークショップを実施。第4回目となる今回は、「映画をみる」・「映画を知る」をテーマに、より映画を楽しむためのヒントを体感してもらうプログラムとなった。
まず「映画をみる」(銀座テアトルシネマ)では、朝9時からのスタートにも関わらず50名近い親子が参加し賑やかなスタートとなった。上映作品は、2009年に劇場公開されたディズニー映画『プリンセスと魔法のキス』(監督:ジョン・マスカー& ロン・クレメンツ)。当作品は、ディズニー社が長年培ってきた手描きアニメーションの職人技術を惜しみなく投入した作品であり「悪い魔術師によってカエルに変身させられていしまった王子をプリンセスのキスによって救い出す」という誰もが一度は読んだことのある物語がベースとなっている。
上映に先立ち、銀座テアトルシネマ支配人 松延さんより映画を『映画を楽しむためのマナー』として「まずは楽しく自由に鑑賞するのが大切で、面白いシーンでは大いに笑い、ワクワクして驚くようなシーンでは遠慮せずに声を出して大丈夫です。ただし、お家と違うので前の椅子を蹴ったり、映画と関係ないおしゃべりは控えましょう」と説明。また、上映中の館内照明にも触れ「子供向け上映作品の場合、最近ではわざと薄暗さを残すところもありますが、「映画を知る」というテーマのもとに今日は、通常と同じ真っ暗な中で鑑賞しましょう」と付け加えられた。このアドバイスのおかげか上映中、ユニークなキャラクターの動きに子供たちからは「笑い声」が。楽しい時間を大人も子供も一緒になって共有するひと時となった。
上映後のロビーでは、物語の中で料理が得意なヒロイン、ティアナが披露したお菓子ベニエが販売され、好評を博した。
このあと「映画を知る」ワークショップ会場となる、丸の内カフェに移動となった。
「映画を知る」では、アニメーション演出家(監督)・脚本家でもある宇井孝司さんを講師に迎えてのワークショップのテーマは、『画(え)が描けなくたって生み出せる!みんなで作る新しいキャラクター!』。まずは、子供たちに「アニメーションがみんなのもとに届くまで」を、宇井さんが実際の作品を交えて説明。自分の頭の中にある物語を形にするための方法として、(1)セリフ・文章を書く(絵だけでは物語がはっきりとせず方向性が分からなくなってしまう)、(2)キャラクターの人物像を作りこむ(キャラクターの性格から仕草、表情を想像して描く)では、顔と身体のバランス、目と鼻の位置、腕の付け根、表情の変化、他のキャラクターとの身長差など、細かい設定がされる理由として「劇場公開アニメーションともなれば、1本につき約1000人近い人が関わっているので、全ての人が同じ規格でキャラクターを描かないと大変なことになる」と語った。ここで宇井さんが監督を務めた『ジャングル大帝』(1989年テレビアニメ第3作目)主人公の白ライオン、レオの設定集が公開され「レオの走る姿は1~6までの動きに分かれていて、作画6枚に対して0,5秒分」と説明。また、周囲の大人世代からは「懐かしい!」と感動の声が上がる一幕も。
次に(3)風景を決める「アニメーション良さは、自分が想像した場所のどこへでも行ける・色んな家に住めること。レオが住むジャングルの詳細な地図や空からの風景など、細かい設定を決めて、動物たちが日常どう動くのか決定するのに欠かせない」と語った。(4)はこれまでの準備が形となる絵コンテ。ここでは、宇井さん監督作品の『たれぱんだ』や、『葉っぱのフレディ』が紹介された。
最後の(5)色付けでは「この風景にどんな色をつけるのか、夜なのか昼なのか、このキャラクターは何色が好きなのかを考えて決めていく」とし、テレビでもおなじみのキャラクターの住む街と家が色つきで紹介された。
ここで宇井さんから「物語を作るときに大切なことは、対象に興味を持ち好きになること。レオも大好きなキャラクターだったので、もっと色々な体験をさせてあげたい!と色々なことを想像した。それはアニメーションの意味である「命が生まれる・命を授ける」につながる。何も無いところから、生きている様に動かせるし、周囲のものが興味深く、一層味わい深いものになっていく」と語り「キャラクターを作ろう」のワークショップに移った。
用意された材料は、普段ならゴミとして捨てられてしまうであろう卵のケース、プラスチックの瓶、ビールの王冠、古い外国のコイン、ボタン、枯れ葉と生活に身近なものばかり。宇井さんからキャラクターのテーマは「自分の友達を作って、友達には名前をつけて」となり、この日急遽駆けつけて下さった声優の大本眞基子さんが即興でキャラクターに声をつけ命を吹き込むと発表された。ここから約30分間、子供たちは夢中で作業に没頭し、
瓶から生まれたイナヅマ猫、プラスチックのカップからは女の子のキャラクター「カワイ子ちゃん」、身体はお茶碗で耳が枯れ葉の「ポルト君」、卵のケースと瓶で作られた宇宙人、と次々とユニークなキャラクターが誕生し、大本さんの声が当てられた。
時間いっぱいとなり、最後に宇井さんから「映像だけがアニメーションではありません。何かに命を感じた時にアニメーションは生まれます」というお話があった。2年前の「「映画」の時間」から参加されている方は「以前も楽しく参加したが、今回は命を吹き込む体験が面白かった」と感想を語って下さった。また、大本さんは「無機物に名前をつける作業を子供たちは、紙に描くのと同じように出来てしまう。名前が付いた途端に、キャラクターが活き活きとして世界が広がるのを見られたのは、声優としても素敵な経験になった」と語り、宇井さんも「子供たちの想像力は大人の予想を簡単に超えて嬉しかった。考える、足りないものでも「そこに命がある」と実感し、愛しむ気持ちが生まれていた。アニメーションはどんな物でも動物でも植物でも友達に出来る素敵な創作。キャラクターや物語によって、そこに生きる全ての命を好きになり、興味を持ち、一緒に育って行けるのは幸せなこと」とワークショップの感想を寄せて下さった。
(取材・文:阿部由美子、写真:溝渕萌)
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