『アンチ・ガス・スキン』Q&A
TOKYO FILMeX ( 2010年11月22日 22:00)
11月22日、有楽町朝日ホールにて、韓国の"恐るべき子供たち"キム兄弟による最新作『アンチ・ガス・スキン』が上映された。その後、壇上にキム・ソン監督をお招きしてQ&Aが行われ、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門でも上映されたこの作品に、会場からいくつもの質問が寄せられた。
監督が挨拶の中でまず「この作品は韓国の現状を何かにたとえて表現したところが多い」と語ると、会場からは「作品に描かれている得体の知れない恐怖や憎悪は韓国社会のどういう文脈から出てきているのか」という質問がとんだ。
「映画に出てくる憎悪は、ほとんどが政治的なものから派生しています。例えば、米軍と韓国人、保守と革新、また父と娘、そういう関係から生まれる憎悪を盛り込もうとしました。そして憎悪の対象は一つではなく、たくさんある」と監督。
続いての質問は「色彩が印象的に描かれていたが、特に意識したのか」というもの。監督によると、今回色は非常に大きな意味を持つそうで、「青」は韓国の保守政党・ハンナラ党を象徴的する色。「赤」にも共産圏でよく使われるものとしてのニュアンスが込められているという。「色をいろんなものにたとえ、色が変化していくことで映画の中の変化も見せられれば」と意図したそうだ。
ちなみに劇中に出てくる政治家のキャラクターは、ハンナラ党のある実在の人物を念頭においてつくったそうで、実際にその人物がよく使う言い回しを台詞に取り入れ、名前も似せているとか。「ハンナラ党に対する攻撃のつもりでこの映画を撮ったところもあるのですが、彼らはまだこの作品を見ていないようです(笑)」。
次に、「カットバックで盛り上げるという点で、グリフィスや、キートンなどの無声映画の影響を受けているか」という質問には、特に無声映画を意識したということはないが多岐にわたる映画を見ているので、もしかしたらミックスされているかもとのこと。
「ご兄弟のキム・ゴク監督作品『枯渇』(08)にもマスクが出てきて印象的だったが、マスクについてこだわりがあるのか」という問いに対しては「まず発想としてガス・マスクをつけた連続殺人犯が頭に浮かんで、それを恐れ、不安に思う人たちの物語を組み立てました。ガス・マスクの正体が何かというテーマではありましたが、結果としては連続殺人犯なんていなかったのではという見せ方をしながら、実は、いないのではと思うからこそ、逆に裏を返せばたくさんいるということを表したいと思いました」。
また、タイトルの単語が"ガス・マスク"ではなく"ガス・スキン"となっている意味を問われて、「肌、皮膚(=スキン)はいろんなものを吸収したり排出したりする機能を持っています。ですから世の中にある殺気や不安を肌が取り込んだり、あるいは排出しているのではないかと考え "スキン"としました」と回答。
さらに「肌にはたくさんの穴、毛穴が数え切れないほどあります。それも肌に絡めて表したかった。映画で象徴的な単語があります。韓国の"ムーダ"(シャーマニズムを司る人)が出てきて「クモン」と言いますね。これは「穴」という意味。「穴、穴!」と叫んでいます。たちこめる煙はどこからきているのか、もしかしたらその穴、体の穴から吹き出しているのしれないということもにおわせてみました」。
最後に寄せられたのは、ある身体的特徴をもって描かれる少女についての質問。その登場人物について監督は次のように解説する。「"自分は獣のような存在で、死ぬべきだ"と思っている人物を登場させようとして生まれたのがあの少女でした。彼女はある妄想を抱いていて、復讐するために自分を悲惨な状況に追い込んでいる。彼女の中に現代人が抱える、特に韓国に蔓延する強迫観念や自己破壊的な感情を描きたいと思いました」。
また補足として、終盤に出てくる屠畜場には、少し前に韓国で問題になったアメリカからの牛肉輸入の問題について表しており、ハンナラ党への怒りを込めてその場所を選んだことを監督は付け加えた。
最後に市山尚三東京フィルメックス プログラム・ディレクターから、キム・ソン監督が今忙しいポスト・プロダクションの最中にかけつけてくださったこと、双子のご兄弟のキム・ゴク監督はその作業で来場できなかったことが伝えられた。その待望の新作は来年2月に完成する予定とのことだ。
(取材・文:加々良美保、写真:村田まゆ)
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