『ビー・デビル』Q&A
TOKYO FILMeX ( 2010年11月23日 22:00)
11月23日(祝)、有楽町朝日ホールにて、コンペティション作品『ビー・デビル』が上映された。上映前の舞台挨拶で、チャン・チョルス監督はジョークを交えた流暢な日本語で挨拶をしたあと、「残忍なシーンがあるけれど、目を背けず最後までしっかり観てください」とコメント。上映終了後のQ&Aには、チャン監督とともに、出演女優のキム・ギョンエさんとプロデューサーのハン・マンテグさんが登壇した。制作の動機やキャスティングについて、多くの質問が客席から寄せられた。
上映後の質疑応答の前に、登壇したゲスト3人がそれぞれの心境を語った。チャン監督は「この映画は"傍観者"を描いたものですが、みなさんにどのように受け止められたか気になります」と客席に問いかけ、プロデューサーのハン・マンテグさんは上映の喜びと感謝の意を述べた。女優のキム・ギョンエさんは「女優になって40年間多くの映画に出演してきましたが、チャン・チョルス監督と本作を作って生まれ変わりました。実話を基にして作られたのですが、涙なしでは観ることができず、心が痛む映画です」と、その想いを伝えた。
まず、「(本作で描かれている)事件はどこで、どのように起こったのか」という質問が挙がった。「一つの事件を題材にしたのではなく、いくつかの実際の事件を合わせて映画化しました」と監督。具体的には、子供の頃に隣人から性的暴行を受けていた女性が20年後にその隣人を殺害するという事件や、十数人の男子高生から性的暴行を受けていた一人の女子高生が加害者にされ、男子高生が咎められずに釈放されたという、韓国で起こった事件を題材にしたという。また、「傍観者がいる限り、加害者は絶えない」と云う監督は、「加害者と被害者という視点ではなく、"傍観者"の視点で映画を作ってみたいと思った」と、"傍観者"の存在こそが制作のきっかけになったと語った。
別の質問者から、「冒頭で、カーラジオから<草を食べるブーム>の話が流れてくる」シーンの意図について訊かれると、監督は「よくぞ、質問してくれました!」という様子で、次のように解説した。「カーラジオの話は、ヘウォンが島に行く動機になったといえる重要なシーンです。また、島で人々が食べていた<噛めば噛むほどバカになる>草は大麻のようなもので、島で生きるために普通の精神状態ではやってられない、ということを表現するために用いました」。
主演のソ・ヨンヒの起用については、その秘話も明かされた。キム・ギドク監督が推薦し彼女も熱望していたが、スムーズにはいかなかったようだ。「当時彼女はまだ無名でスポンサーが納得しなかったため、こっそり他の女優にもシナリオを送っていました(笑)」と監督。ところが強烈な役柄ゆえ、皆に断られてしまい、正式にソ・ヨンヒにお願いしたという。しかし彼女はその経緯をすべて知っていて、態度がとてもよそよそしかったのだとか。監督は彼女に、「今後はこのようなことがないよう共に頑張り、必ずこの映画を成功させましょう」と言い、納得してもらったそう。そして、「今は多くの賞を受賞し、彼女の仕事も順調のようです」と付け加えた。
日本映画に強い影響を受け、監督を目指すきっかけになったというチャン監督。「影響を受けた日本映画とは、具体的に何か」という質問には、岩井俊二監督の『Love Letter』と今村昌平監督の『楢山節考』『うなぎ』、そして北野武監督作品を挙げた。
本作はチャン・チョルス監督の長編第1作であるが、カンヌ国際映画祭やプチョン国際ファンタスティック映画祭など世界の映画祭で高い評価を受けている。
本作は2011年春、シアターN渋谷にて公開が決定している。
(取材・文:鈴木自子、写真:関戸あゆみ)
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