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『妖しき文豪怪談「鼻」「後の日」』Q&A


TOKYO FILMeX (2010年11月25日 22:30)

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11月25日、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『妖しき文豪怪談「鼻」「後の日」』の上映が行われた。「後の日」は加瀬亮さん演じる作家とその妻のもとに、ある日、死んだはずの子どもが帰ってくるという物語。室生犀星の短編小説の映像化で、不思議な子どもと過ごす夫婦の静かな日常を描く。上映後、是枝裕和監督と、妻のとみ子役を演じた中村ゆりさんによるQ&Aが行われた。

『妖しき文豪怪談』は"文豪の怪談"をテーマに、4人の映画監督が中編を撮り、TV放映後に劇場公開するというユニークなプロジェクト。司会の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターが是枝監督に、この企画に参加する経緯について訊いた。
これについて監督は「怪談といっても、いわゆるジャパニーズホラーとは質の異なる怖さをテーマにすることに興味をひかれた」と語った。原作に「後の日」を選んだのは、「ここで描かれるのは家庭の日常の中ですっと見えてくるちょっとした怖さ。こういった小さな物語は映画の企画としては通りにくいので、この機会にやってみようと思ったから」だそう。


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これまで劇映画はすべてフィルムで撮ってきた是枝監督、デジタルで撮るのは今回が初めて。「5Dというカメラで撮ったのですが、いかにもデジタル、という感じではなく、ピントの合う範囲が狭い。そこで生じたボケを表現としてうまく使えるか、という点でデジタルを扱ってみよう、と。怪談とデジタル、やってみると意外に相性が良かった。デジタルの可能性を感じました」。
撮影はこれまでの是枝作品でもおなじみで、第8回東京フィルメックスで審査員を務めた山崎裕さん。ここで来場していた山崎さんが紹介されると、会場は拍手に包まれた。


次に市山Pディレクターが、子どもを失った母親を演じる上での苦労を訊ねると、中村さんは「私自身はまだ子どもを生んだ経験がないので、まさに"母親であること"が難しかった。ファンタジーではありますが、これは室生犀星が実際に子どもをなくした経験をもとにした物語なので、(その重みを考えると)非常に悩みました」と語った。
また、是枝監督の印象を訊かれると「現場では、私たちをそっと引っ張っていってくれる、という感じでした。印象的だったのは、現場で演技をつけて頂いているとき、モニターを覗き込んでいる監督の顔がだんだん演じている私たち俳優と同じような表情になっていったこと。登場人物に感情移入していらっしゃったのだと思う」と中村さん。


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続いて客席からの質問を募ると、早速「この作品を撮るにあたって、最も大事にしたポイントは?」という質問が上がった。
是枝監督はしばらく考えてから、「全部です(笑)」と答えた後、「ひとつ挙げるなら」と次のように話してくれた。「空間をどう撮るのかということは大事にしました。畳の部屋や、縁側、庭...そういった生活の場に死んだ子がいる、というちょっとした違和感をどう表現するか、というのがこだわった点です」。
主な舞台となる作家夫婦の家として使われたのは、神奈川県の相模湖近くにある酒屋の旧宅だそう。


次に、この世ならぬ子どもという役を演じた渋谷武尊くんについて「これまでの是枝作品に登場する子役たちとは雰囲気が違う。演出はどのように?」という質問が上がった。
これに対して是枝監督は「子役への演出方法は変えていません。台本を渡さず、相手がこう言ったらこう喋って...というふうに現場で指示をだすというやり方」と語った。また、渋谷くんをキャスティングした理由については、「武尊くんはあまり年齢を感じさせない顔。子どもに見えたり見えなかったり...という顔で、単純に"無邪気な子ども"というのとは違うタイプだったので、彼を選んだんです。本人もとても落ち着いた、聡明な子でした。撮影現場のどの人より大人っぽかったかもしれない」。


客席から「大切な人を失った喪失感をどのように癒していくかではなく、喪失感自体をじっくりと表現している」という感想が寄せられると、中村さんは「私の演じた母親は、死んだ子が帰って来る、という事態をなんのためらいもなく受け入れている。やっぱりどんな形でもいいから戻ってきてほしい、というのが母親の真剣な想いなのだと思います。その不思議な時間を望んでいるからといって、彼女は決して狂っているわけではない」とコメントした。


最後の質問は、「加瀬さんがお寺の境内の長い道を歩く冒頭のシーンをはじめ、印象的なロケーションがいくつもあったが、先に場所を決めてからシーンを考えたのか、それとも最初にイメージがあって場所を探したのか」というもの。
これに対して是枝監督は「今回は時代ものという制約があったので、その時代らしい場所、という前提で探して、その場所を魅力的に撮ることを考えた。そうやってシーンを作っていく、という感じ。他の作品でも、まず場所や役者さんを実際に見て、そこからイメージを膨らませて映画を作る、という流れの方が僕は好きです」と明かした。


中村さんが「今まで会った中で、一番静かで穏やかな映画監督」と評する通り、ひとつひとつ言葉を選びながら淡々と質問に答えていた是枝監督。静謐な作品世界とシンクロする監督のお人柄に引き込まれるひとときだった。


(取材・文:花房佳代、写真:米村智絵)

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