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字幕翻訳講座2<誰でもできる?字幕翻訳>


TOKYO FILMeX (2010年11月23日 20:00)

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11月23日、有楽町朝日ホール11階スクエアにおいて、「字幕翻訳講座2<誰でもできる?字幕翻訳>」と題したトークショーが開催された。好評だった昨年に引き続き、第2回目の今年、ゲストは字幕翻訳者で映画翻訳家協会会長も務められている太田直子さん。太田さんは字幕翻訳歴25年、手掛けた作品は1000本以上のベテラン。字幕翻訳作業の裏側や苦労話などについて語っていただいた。


もともと字幕翻訳者になるつもりではなく、ロシア文学の研究者を目指していた太田さん。ドストエフスキーなどのロシア文学にどっぷりつかった学生生活を送っていたという。たまたまアテネ・フランセでアルバイトをしていたところ、翻訳の仕事をしてみないかと声をかけられたことがきっかけで、この道に進んだとのこと。現在も年間30~40本の映画の字幕制作を行なっている。太田さんは、長年に渡る字幕翻訳者生活の中で経験した様々な裏話を『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』(光文社新書)という本にまとめており、映画ファン必読の書。

太田さんの紹介が済んだところで、司会の樋口裕子さん(字幕文化研究会)が字幕を手掛けたカンヌ国際映画祭脚本賞受賞作『スプリング・フィーバー』(第10回東京フィルメックス特別招待作品)を題材に、字幕制作のプロセスを紹介。字幕は、映画のセリフを聞き取って書き起こすのではなく、必ず英語台本(英語圏以外の映画の場合は英訳された台本)が映画本編とセットになっていて、それを元に制作するという。台本を元にセリフを画面に合わせて区切っていく"ハコ書き"、画面に合わせて、秒およびコマ単位に映写する文字数を指定した"スポッティングリスト"などの制作工程を経て、字幕制作は行われる。ちなみに、字幕では"1秒当たり4文字"という基準があって、いかに長いセリフをこの文字数に収めるかが翻訳者の腕の見せ所。だが、字幕を読むのが面倒という観客が増えてきた昨今、1秒当たり3.5文字に減らしたいという声もあるようで、翻訳者泣かせらしい。


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ここで、樋口さんから客席に向けて、『スプリング・フィーバー』本編中のセリフを、字幕に翻訳してみませんか、という提案が。題材になったセリフは、「あなたに何の権利があって私たちの生活を邪魔するの?」というもの。これを3~4文字で翻訳してみてくださいと問いかけると、客席からは「迷惑だわ」、「何様よ!」などの意見が。太田さんも、「失礼よ」、「勝手だわ」、「やめて」などを提案。客席から「泥棒猫!」との意見が出ると、樋口さんから「私もそうしました」との回答。実際に映画館で上映されている字幕と同じ意見が客席から出たことを受けて、太田さん、樋口さんともに「なかなか優秀ですね」と感心した様子。客席も、字幕翻訳の苦労の一端を体験して、プロの仕事に感心することしきり。その後、太田さんからは「学生にもやらせてみたら、結構できるんですよね。でも、字幕翻訳というのは一つのセリフが正しくてもダメで、全体の流れを掴んだ上で、きちんとした翻訳ができるかということが問われるんですね」と、核心を突いたご意見が出た。


続いて、太田さんの仕事ぶりについて樋口さんが質問。3~4日、長くて1週間で一本の映画を仕上げるという太田さん。映画一本当たり、1300程度のセリフがあるそうで、1日に250~300のセリフを翻訳していくそうだ。これは相当なハイペースらしく、自身も字幕を手掛ける司会の樋口さんも驚きを見せた。その一方で、"アクションシーンやベッドシーンは喋らないでほしい"という本音も出て、客席からは笑いが。また、俳優の喋るセリフすべてに字幕を付けるわけではなく、多人数が同時に早口でしゃべったりする場合などに、"out"と呼ばれる字幕を付けない指示を行なうこともあるという。また、昔は本筋に関係ないセリフには字幕を付けない場合もあったが、最近はクレームになるので、全てのセリフに字幕を付ける傾向にあるという裏話も披露された。


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そうこうしているうちに、あっという間に1時間が経過。客席からの質問に答えるQ&Aに移ると、待ちわびたかのように熱心な映画ファンから次々と質問が寄せられた。映画の内容に応じて登場する専門用語の扱いについては、「ハコ書きしてからスポッティングリストが配給会社から届くまで、2,3日の間で時間を見つけて勉強します。医療などを扱う作品の場合は、専門家に監修をお願いします」。


一本の映画を一週間以内で仕上げるということで、作業時間がもっとほしいと思いませんか、という質問には「1作品に10日間ぐらいあればと思うことはあります。でも、締め切りがあるからこそできるという面もあるので、仕方ないですね。DVD化の際に修正希望を聞かれたり、表現を変えてくださいと頼まれて直すこともありますね。」続いて、"超吹替版"まで登場する吹替版全盛のご時世、字幕への影響を尋ねられると「字幕もわかりやすさを求められていますね。だから、デートで気楽に出かけるヒット作なんかだと、わかりやすさを重視します。反対に、ある程度、観客も目が肥えている作品の場合には、もう少し難易度を高めにするなど、使い分けています。なるべく素材を生かすようにしています。字幕を読んだという意識を与えないのが理想ですね。劇場用には一つの字幕しか作れませんが、DVDの場合には、難易度が異なる複数の字幕を収録するなどといったことも、ぜひやってみたいですね」。
また、「今まで字幕を付けられた中で満足の一本は何?」という質問には、「満足している仕事は一本もありません」との答え。ストイックなプロの顔を見せてくれた。


最後に、「字幕がこれだけ文化として根付いているのは日本だけらしいので、これからも続いてほしいですね。これからも字幕をよろしくお願いします。」という太田さんの言葉で締めくくられ、1時間半に渡るトークは終了した。


(取材・文:井上健一、写真:関戸あゆみ)

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