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『エステル』舞台挨拶・Q&A


TOKYO FILMeX (2010年11月27日 22:00)

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11月27日(土)有楽町朝日ホールにてアモス・ギタイ監督の長編劇映画第一作『エステル』(1985年)の上映が行われた。東京日仏学院、アテネ・フランセ文化センターとの共催プログラム「アモス・ギタイ 越えて行く映画」の特集中、第一弾の上映となった今回の上映。ギタイ監督を迎え、舞台挨拶とQ&Aが行われた。


上映に先立ち、ギタイ監督による舞台挨拶が行われた。
ギタイ監督は「最初に撮った3本のドキュメンタリー『家』(80)、『ラシュミア谷の人々』(81)、『フィールド・ダイアリー』(82)は、イスラエルとパレスチナ、そこに住む人々の関係に焦点を当てた作品。この3本の作品によって私に興味を持ってくれた人もいたが、一方で様々な問題も起きた」と語った。映画作家としての信念は「難しい質問をあえて問うこと」だとし「ただ、私の信念は多くの人が理解できるものではない。そんな状況の中で自身初のフィクション映画を制作しようと決意した」と、『エステル』制作の経緯を語った。
『エステル』の撮影に向けて準備をしていた時に、アシスタントから言われたひと言が大きな出会いを生んでくれたと語った。「私のアシスタントが、折角だから「フランスで最高の撮影監督に連絡を取ってみたら?」と勧めてくれた。それがアンリ・アルカンです。大それた提案ではあったが、彼が『エステル』にどう興味を示すか、私自身も興味が沸いてきた。彼の家に呼ばれ、彼はたったひとことフランス語で「興味はある」と。ただし、彼の主任照明技師を一緒に雇うことが条件と言ったので、私はもちろんと話したら「その照明技師は82歳なんだ」と言われて...」。当時、アルカン監督が78歳と説明されると会場が笑いに包まれた。またギタイ監督は「この二人と一緒に仕事をしたことで多くを学び、私にとって彼らとの日々は映画学校でもあった」と語った。

また、題材となった旧約聖書のエステル記についてギタイ監督は「聖書がもつ文章の美しさに注目した。エステル記は「迫害されるものがある段階で迫害する側に回るという、人間の歴史の中で何度も繰り返されてきたことのメタファーでもある。視覚的に参考としたのは16~17世紀ペルシャの細密画の画集であり、この細密画を描いた巨匠たちにも大きな影響を受けた」と語った。


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上映後のQ&Aは、再度ギタイ監督を迎えて行われた。
最初の質問は「監督の作品からは、無意味な虐殺や戦争の連鎖を防ぐ一助になりたいというメッセージを感じるが、現在のイスラエルとパレスチナの関係性の変化についてどう感じているか?」について。ギタイ監督は、ラストシーンで出演者が自己紹介するシーンを挙げ、実はユダヤ人の役をあえてパレスチナ人が演じていることに触れた。「ユダヤ人の英雄モルデハイを演じているムハンマド・バクリは、パレスチナの有名な俳優で、パレスチナの映画作家ミシェル・クレイフィの兄弟ジョルジュ・クレイフィは王の顧問役を演じている。映画は現実によっては与えられる事のない対話の機会を与えてくれる」と語った。
「映画がささやかな"橋"になることを心がけてきた。映画の中で語られているのと同じようなことが、カメラの前(キャスト側)・カメラの後ろ(スタッフ側)でも起こっている。なぜなら、全てが有機的な連続性の中で存在していなくては、いい映画は出来ないと思っている。もちろん、現実の中を覆う憎しみや悪意、好ましくない行動に溢れたこの社会と戦うには、映画はわずかな力しか持っていないというのは確かだと思う。しかし、どこかから努力は始めなくてはならないし、ささやかであるが出発点であると信じている」と監督。


次に今日始めてギタイ作品を観たという方から、「歴史劇の中で、まるで野外劇のように現代の環境音がそのまま入っており、異化効果として表れている。このようなブレヒト的な演劇的なテクニック・効果を、意図的に使ったのか?」という質問。
「私は東ドイツでブレヒトが始めたベルリナー・アンサンブルの舞台に親しんだこともあり、ブレヒトのようにある種の距離を置く姿勢を心がけている面がある」と説明。その手法をとった理由として「『エステル』を撮影する前は、直接的なスタイルのドキュメンタリー、現実そのものと向き合う映画を作ってきた。それからフィクション映画を作るときに、あえて自然主義的で物語をなぞるようなものではなく、寓話的な、現実で起こっていることの隠喩としての映画を考えていた」と語った。


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この作品は旧約聖書のエステル記に沿って構成されているが、「全てのシーンが途中でショットを分割する事無く、ひとつのショット=シーンがエステル記の各章に相当するようにしている。これは、もとの文章のテクストを如何に風景と建物に置き換えるかという試みであり、それによって、もとのテクストと現実の風景との緊張関係をひとつひとつのショットの中に作り出すこと、またテクストのスタイルと内容との間に緊張関係を作り出すことが目的となっている」とギタイ監督。
また、「映画は消費するものではなく、自分の意思で解釈するもの」と自身の考えを述べ、「映画を見るという行為は、椅子に座って画面に映っているものを鵜呑みにするのではなく、観客自身が参加する積極的な体験であって欲しい」と語った。


最後の質問者は、『キプールの記憶』(00)で使用されたヤン・ガルバレクの音楽が非常に印象的だったと語り、映画と音楽の関係性について、監督がどのように考えているのか、と問いかけた。
ギタイ監督は「映画の中の様々に異なった要素が対話を始めること」を重視していると言い「音楽は映画に対して雰囲気や説明を足すものであってはならない。むしろ音とイメージの間の対話が作り出されるような使い方を心がけている」と説明した。『エステル』を作る時「既にパリに住んでいたが、友人が勤めていたクラシックと現代音楽を専門に扱うラジオ局に行き、様々な音楽を聴くことが出来たことも大きい」と語った。
パリに移住したことの影響は音楽にとどまらず、故郷との距離を持ったことで、「亡命三部作」という自らの源流に関わる作品に重要な意味を持った、と監督は示唆し、Q&Aは終了となった。


(取材・文:阿部由美子)

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