『詩』(仮題)舞台挨拶、Q&A
TOKYO FILMeX ( 2010年11月28日 17:10)
11月28日(日)、有楽町朝日ホールにて、第11回東京フィルメックスのクロージング作品『詩』(仮題)が上映された。本作は、2010年のカンヌ国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞した注目作。監督は『オアシス』(02)、『シークレット・サンシャイン』(07)などで世界中の注目を集めるイ・チャンドン。閉会式の興奮冷めやらぬ中、舞台挨拶およびQ&Aに登壇したイ監督は、一つ一つの質問に丁寧に応じてくれた。
閉会式直後の舞台に現れたイ・チャンドン監督は『シークレット・サンシャイン』以来3年ぶりとなる東京フィルメックスへの参加に喜びと感謝を表した後、「これは、詩についての映画ですが、人生の美しさを語った映画ともいえます。皆さんが観終わって帰るときに、自分も詩を書いてみようという気持ちになってもらえればと思います。」と挨拶し、上映がスタート。
上映終了後には、クロージングに相応しい見事な作品に大きな拍手が送られ、観客からは次々と質問が寄せられた。
まずキャスティングについて。静謐な佇まいの中で、見事な内面の演技を見せた主人公ミジャ役のユン・ジョンヒさん。1960年代~70年代にかけて活躍した大女優だが、しばらく映画に出演していなかった。イ監督も特に親しくはなかったが、「年を取っているものの、内面は少女のように純粋な人だと映画祭や授賞式でお会いして感じました。それが、私の考えていた"ミジャ"という役にぴったりでした。役名がユンさんの本名と同じなのは偶然で、ちょっと古めかしい感じを出したかったからですが、運命かもしれませんね」。
また、体が不自由でミジャの訪問介護を受けるカン老人を演じるのは、かつてアクション映画などで主役を張っていたキム・ヒラさん。無力になってしまったマッチョな男という役のイメージにぴったりだったという。だが、劇中のカン老人同様にキム・ヒラさんも脳卒中を患い、今でも体が不自由とのこと。「実際には、劇中よりも体の自由は利きます。それでも、この役を頼むのは気が引けましたが、完成した映画を見て、やはり彼しかいなかったと思いました」。往年のスターの執念が作品を引き立てていたことを知った客席からは、感嘆の声が漏れた。
続いて、劇中で頻繁に使用されている手持ちカメラの撮影について聞かれると、「私はできるだけ映画を現実的にしたいと考えています。固定カメラの映像は、きれいに整えられた額縁の中の絵のようで、外の世界が存在しないように見えます。それに対してカメラが動く手持ちの場合は、フレームの中と外の境界が曖昧になり、より現実的になると考えて使用しています」と、創作の秘密の一端を明かしてくれた。
本作では年老いた女性ミジャが詩を作ろうとする姿と、その孫の様子が並行して描かれる。一見相容れないように見える詩と少年犯罪。この二つが見事に調和した物語の発想のきっかけについて尋ねられると、次のように答えた。「モチーフになったのは数年前、実際に起きた少年たちによる事件です。道徳性を問う事件だと思って映画化を考えましたが、犯人探しのような当たり前の描き方はしたくありませんでした。切り口が見つからずに悩んでいた時、たまたま京都旅行の途中、ホテルでテレビを見ている途中で『詩』というタイトルと、詩を通して事件を描くことがひらめいたのです」。
会場の時間の都合もありQ&Aはここで終了。名残を惜しむようにイ・チャンドン監督に再び大きな拍手が送られた。本作『詩』(仮題)はシグロ、キノアイジャパンの配給で、2011年秋以降に公開予定となっている。少し先になるが、この素晴らしい作品の公開を、ぜひ期待してほしい。
(取材・文:井上健一、写真:関戸あゆみ、村田まゆ、米村智絵)
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