『ふゆの獣』受賞インタビュー
TOKYO FILMeX ( 2010年11月28日 14:00)
第11回東京フィルメックスが11月28日閉幕し、コンペティションの最優秀作品賞に内田伸輝監督の『ふゆの獣』が選ばれた。受賞の知らせに「とにかくすごく驚いた」という内田監督。まだ驚きと興奮冷めやらず、という内田監督と出演者の加藤めぐみさん、佐藤博行さんに受賞の率直な感想と、今の気持ちをうかがった。
受賞会見を終えた控え室。「映画祭最終日なので、楽しく過ごせればいいと思っていた」という内田監督。それが予想すらしていなかったという最優秀作品賞獲得の知らせを受け、思わず大声で「えぇ!」と叫んでしまったそう。「最終日だから楽しく過ごしたいと思って、(フィルメックスの)スタッフTシャツで来ちゃいましたよ」と言いつつも、表情はなんとも幸せそう。
一方、"ダメ男"に翻弄されてしまうユカコを演じた加藤めぐみさんは、「私も今日は一観客として映画を楽しみにフィルメックスへ来るつもりで、電車に乗っていたんです。そこで、監督から『グランプリを獲った』というメールを受け取ったんですが、その時は『グラ...』しか見えない状態で(笑)。途中下車して再受信したら、もうパニック。授賞式があるのに普段着で来てしまったし......」と、"不意打ち"をくらった時の状況を、大きな目をよりいっそう大きく見開いて説明してくれた。
ユカコの恋人シゲを演じた佐藤博行さんは、「『ふゆの獣』が受賞するなら、フィルメックスはすごい博打に出るってことだな......と思っていたので、最優秀作品賞と聞いて『あ、博打に出たんだな』と思った(笑)」と驚きを表現。そして、こう一言。「でも、"映画の未来"には良いことじゃないでしょうか」
キャストがたった4人の『ふゆの獣』。うっかり隣の部屋の住人の恋愛事情をのぞき見してしまったようなリアルさに続き、狭い空間でこの4人の感情が激しくぶつかり合う濃密な密室劇の醍醐味も味わえる。パワフルな役者の演技に引き込まれるが、撮影はどのように行われたのだろうか?
「リハーサルなどは特にしておらず、プロットだけを先に役者に渡し、演じてもらいました。監督としては、それを自由に撮る。長回しで1シーンを一通りやって、その後ちょこっとアドバイスをはさんで、また最初から最後まで長回しで撮るという感じ」と、内田監督。役者同士が向かい合うタイミングを図るのは、いきなりでは不可能。「カメラは回しっ放しにし、緊張感が高まるまで待ちました」
加藤さんと佐藤さん演じるカップルが繰り広げる"舌戦"の一つに、鍵のエピソードがある。「とりあえずシゲに『鍵、返して』というセリフだけ用意していたのですが、クライマックスの伏線になるくらいぐっちゃぐちゃに膨らませてみせたのは、役者の腕ですね。どうなるか分からないから毎回、監督としても、役者との勝負だった。ドキドキしながらやっていた」とは内田監督の弁。映画祭での上映後、Q&Aで「恋愛の再現を映画にするのではなく、本当の恋愛を映画にしようとした」と話していたが、恋愛の先の見えないドキドキは、そのままどう展開するのか未知数である撮影時のドキドキに重なったようだ。
隣の部屋の住人のような身近さでいて、かつ"ただ者でない"個性を持ったキャラクターを演じる出演者たち。同作を見た人ならば、彼らの経歴が気になるはずだ。
まずは加藤さんから自己紹介。「『零式』という劇団で10年くらい舞台をやっていました。その後、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2008のオフシアターコンペティション部門で入選した『さ>らランドセル』(新井哲監督)、『ヘビと映子と佐藤のこと』(同)に出演して、ここで撮影と編集を担当されていた内田監督から、今作品へのオファーをいただきました」 今後も、映画を中心に活動していきたいと希望を語ってくれた。
佐藤さんは、自主制作映画をメインに約80本の出演経験を持つ。これから出演していきたい作品としては、「商業的ではない、マニアックな映画。......そしてカンヌに行きたい!」と飄々とした表情で、こだわりと大志の両方をのぞかせた。
最後に、内田伸輝監督の次回作の構想をうかがった。「漠然としたものはすでに頭の中にあり、フィルメックスが終了したら、取材や資料集めを行っていきたいと思っています。次は『ふゆの獣』と同じく恋愛映画でも、"日本社会と恋愛"というテーマでやっていきたい」
製作費110万円、実働の撮影日数はおよそ14日間、加藤さんを除き、出演者はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のmixi(ミクシィ)を通じて募集したという、完全な自主映画である『ふゆの獣』。それゆえ、3人の心から最優秀作品賞の受賞に驚き、喜んでいる様子が印象的だった。それぞれの今後の活躍に期待したい。
(取材・文:新田理恵)
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